第338話 こたつとミカンと後輩ちゃん
後輩ちゃんがパクっとミカンを口に放り込んだ。酸っぱかったのか、顔をしかめて身体を縮ませる。まあでも、これはこれで美味しいと、ご機嫌にまたミカンを手に取る。
今は食後のデザート中。みんなでこたつに入ってミカンを食べている。やはり、冬とこたつが揃ったら、あとはミカンだろう。というわけで、買ってきましたよ。
オレンジ色の美味しそうなミカンがピラミッド状に積み上げられている。
一体誰がしたんだ? 後輩ちゃんか? 桜先生か? それとも、二人でやったのか?
ミカンが転がり落ちたら、テーブルにぶつかって傷むだろうが。
そこのポンコツ姉! ジェンガのように下のほうを抜くな! 揺れてるから! そこから抜けないのは見たらわかるだろうに……。
あっ。ほら崩れた。
「先輩先輩。あ~ん!」
後輩ちゃんが口をパクパクさせている。我が彼女さんはあ~んをご所望らしい。
「ほらどうぞ」
「わーい」
俺は後輩ちゃんの口に、剥いたばかりのミカンを近づけた。すると、予想通り指ごと食べられてしまった。ねっとりと思う存分指を舐められる。
「はむっはむはむ、れろれろ。んぅ~酸っぱいですぅ」
ちゅぱっと音をさせて、指を吸い付くのを止めた。後輩ちゃんが酸っぱそうに顔をしかめている。
「そうか? はむっ。全然酸っぱくないじゃないか。甘いぞ」
「えぇー!」
甘いぞ。全然酸っぱくない。同じミカンのはずなんだけど。
目の前で見てただろう? 絶対におかしいです、と言いたげに睨まないでください。味覚は大丈夫ですか、と訝しげに無言で訴えるのも止めてください。
俺からすると、味覚がおかしいのは後輩ちゃんだ。
「弟くーん! お姉ちゃんにもあ~んしてみて~!」
「はいどうぞー。あ~ん」
「あ~ん! はむはむ、れろれろ、ぺろりぺろり、じゅる……」
だから、予想してたけど何故俺の指を舐める。じっくりねっとり舐めないでいただきたい。ふふっどうよ、みたいに挑発的な視線を向けないでください。エロいから。超エロいから。
指を引き抜くと、桜先生の唾液でテラテラと濡れ、白銀の糸を引いていた。
うふっ、と微笑まないでくださいよ。
「もぐもぐ。んぅーなるほどねぇ。ふむふむ。妹ちゃん、ちゃんとミカン甘いわよ」
「えぇー! 嘘だぁー!」
後輩ちゃんは不満げに、お尻をグリグリと動かす。その動きはちょっと危険だ。
何故なら、後輩ちゃんは俺の脚の間に座っているからだ。こたつに入ったら、ご機嫌な後輩ちゃんが無言で近づいてきて、足と足の間に腰を下ろした。
俺が後輩ちゃんを後ろから抱きしめるいつもの体勢だ。背後から抱きしめろー、という後輩ちゃんの無言のアピールでもある。
だから今、後輩ちゃんが腰やお尻を動かすと、俺の敏感なところに刺激が伝わってしまう。ただでさえ後輩ちゃんと密着して少し興奮しているのだ。これ以上は身体が勝手に反応してしまう。俺の意識ではどうしようもないのだ。
落ち着けー俺。冷静になれ。こういう時は深呼吸を……。あっ。後輩ちゃんの甘い香りが髪の毛からふわっと漂ってくる。逆効果だったか!
「後輩ちゃんはビタミンCが不足してるんじゃないか?」
「なるほど。原因は先輩ですね!」
「なんでっ!?」
キッパリと即座に断言されたんだが。俺が何をしたって言うんだ。俺は何もしていない。何もしていないぞー。
後輩ちゃんが俺の腕を掴んで、勝手に自分のお腹に回す。
はいはいちょっと待ってね。手を拭くから。はい、これでオーケーです。ふむ、後輩ちゃんのお腹にフィットする。
抱きしめられて満足した後輩ちゃんは、得意げに断言した。
「私のビタミンCが不足したのは、先輩が何もしなかったからですー!」
「な、なんだってー!」
俺が何もしなかったからだと!? それが理由だとは思わなかった。
でも、待つんだ俺。相手は後輩ちゃんだぞ。まともな理由を言うはずがないじゃないか。
「ビタミンCはストレスを受けると不足しやすいらしいです。私は昨日と一昨日、先輩と一緒に居られなくて
意外とまともだった。後輩ちゃんがこんなまともな考えに至るとは……。明日は大雨か? 大雪か?
しかし、なるほど。後輩ちゃんならあり得そうな理由だ。ということは、甘やかせば大丈夫か。ミカンも食べるし、ニ、三日でビタミンCの不足は解消されるだろう。
「まあ、適当に考えた理由なんですけど……」
「適当なのかよ!?」
「ストレスは本当ですからね。なので、甘やかすのだー!」
へいへい。でも、もうちょっと待って。今、後輩ちゃんのお腹から手を離したくない。俺はいつの間にか無意識に後輩ちゃんの服の中に手を突っ込み、直にお腹を撫でている。張りつくような触り心地の素肌が気持ちいい。柔らかい。ずっと触っていたい……。
「先輩はお腹が好きですねぇ」
呆れ声の後輩ちゃん。作り声なのが丸わかりだ。本当は嬉しいくせに。口元がにやけてるぞ。
俺は後輩ちゃんのお腹をフニフニする。至福のお腹だ。
「さりげなく手を上や下に移動させても何も言いませんよ、ヘタレ先輩?」
「……」
俺は無言で手を後輩ちゃんのお腹から離した。落胆のため息と一緒に、ヘタレ、という小さな呟きが聞こえた。
うるさいですよ。ヘタレで悪かったな!
ふと、俺はあることに気づいた。いつもは自己主張が激しいポンコツで残念な姉が、今日は全然名乗りをあげないのだ。これは異常である。いつもは、お姉ちゃんもしてー、っておねだりしてくるのに。
「姉さん、今日は大人しいな」
「そうかしら?」
「そう言われれば。お姉ちゃん
「明日雨、いや雪……でもなく、槍が降ってきそうだ」
「酷い! お姉ちゃんは普通だもん! この可愛らしい
立ち上がって、ガバっと服をまくり上げる桜先生。シミ一つない綺麗なお腹が露わになる。小さなおへそが可愛らしい。服を上げすぎて、胸まで半分出ている。ノーブラだったのかよ。
でも、安心した。いつもの桜先生だ。
「はーい。座ってくださーい」
「むぅ! 弟くんが無反応。面白くない」
いつも一緒にお風呂に入っているでしょうが。しょっちゅう服を脱ぎ捨てるから、見慣れてるわ!
渋々座る桜先生。不満そうに残っているミカンをパクっと食べた。
後輩ちゃんの身体が突然ビクッと身じろいだ。何故なら、俺が後輩ちゃんの太ももを撫で始めたから。さっきヘタレって言われて密かにカッチーンとしておりました。反撃してやる。
膝丈のスカートだったから、少しまくり上げて素足をゆっくりとナデナデする。お腹とは違った柔らかさ。肉付きがいいので、実に触り心地がいい。
少し悪戯心で……すんません、嘘です。ムラッとしたので、手を太ももの内側の更に付け根のほうを……。
あれっ? なんか俺って変態っぽくない? 確実に通報されるレベルのセクハラだよね?
急に冷静になった俺は、即座に手を引き抜こうとした。
左手は引き抜けた。しかし、先に察知した後輩ちゃんによって防がれる。足を閉じられてしまったので、モチモチの太ももに挟み込まれて右手が抜けない。結構奥の方だから、下手をすれば下着に触れてしまう。
「んっ? どうしたの二人とも? 顔が真っ赤よ」
「「 な、何でもない! 」」
「そうなの?」
「そ、そうなの。ほら先輩。あ~んしてあげます!」
「お、おう。あ~ん。もぐもぐ。柔らかい……じゃなくて美味しいぞー」
感覚が全部手に集中していて、ミカンの味など全然わからなかった。酸っぱさも甘さも何一つ感じない。今ならレモンでもタバスコでも大丈夫な気がする。
「柔らかっ!? うぅ~」
真っ赤な顔の後輩ちゃんは、恥ずかしそうに身体をもじもじさせる。その動きはダメだって! 俺の手を太ももで挟んでいるでしょうかぁ~!
俺は後輩ちゃんに囁いた。
「後輩ちゃん離せ」
「嫌です。こうでもしないと、どこかのヘタレはヘタレるでしょ!」
たぶん、どこかのヘタレはヘタレると思います。よくお分かりで。
「ヘ、ヘタレ先輩。もう一つ食べますか?」
「も、貰おうかなー」
「やっぱり二人とも変よ。大丈夫?」
「「 大丈夫大丈夫! 」」
「そうなの?」
顔が真っ赤な俺たちは、同時に激しくブンブンと頷く。桜先生は訝しそうだ。
右手を離してくれない後輩ちゃん。太ももの柔らかさが気持ちいい。
はぁ……ちょっとくらい欲に任せてもいいよな。
「逃げないから、足を開いてくれ」
耳元でそっと囁くと、小さく頷いた後輩ちゃんが恥ずかしそうにおずおずと足を開いた。俺は欲に任せて太ももをナデナデする。
一撫でごとに後輩ちゃんは震え、きつく結んだ口から僅かに吐息が漏れる。
桜先生にバレないように、ミカンを食べさせてもらいながら、俺はしばらくの間、後輩ちゃんの太ももをナデナデしていた。
当然のことながら、ミカンの味は全然わからなかった。
<おまけ>
「やっぱりヘタレ!」
「なんでっ!? 俺頑張ったよねっ!?」
太ももを触り終えた俺は、潤んだ瞳の後輩ちゃんにキッと睨みつけられて罵倒された。
一体なんでっ!?
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