第76話 酔っぱらった美緒ちゃん先生
「あぁ…うぅ…おぉ…」
やせ細った俺はベッドの上で呻き声をあげる。
疲れた。エネルギーを吸い取られて疲れた。何の気力も起きない。このまま寝ようかな……寝る準備も終わってるし。
寝る準備が終わった後輩ちゃんが寝室に入ってきた。肌が艶々している。俺を見てにっこりと笑った。
「何呻いているんですか? とってもお疲れに見えますけど…」
「………誰かさんのせいで疲れております」
「先輩は何もしてないじゃないですか! 私としてはもっと先輩の身体を楽しみたいのですが……先輩の身体への興味が尽きません。もっともっと知りたいです! また搾り取ってもいいですか?」
「止めてください!」
「えぇー! 我慢している先輩が可愛いのに…。無理やり興奮させてやります! それー!」
薄着のパジャマ姿で飛び掛かってくる後輩ちゃん。俺は何とか受け止めると、後輩ちゃんに体中撫でられたり、キスされたり、吸われたりする。
あぁ…
俺は、あまい香りがする柔らかな後輩ちゃんの身体を抱きしめて、動けないようにする。でも、後輩ちゃんが暴れる。
「ちょっとじっとしろ!」
「嫌です! 先輩こそじっとしてくださいよ! 先輩は寝てるだけでいいんです。私、頑張りますから!」
「頑張らなくていい! 後輩ちゃん、積極的過ぎ!」
「消極的な先輩がいけないと思います!」
俺と後輩ちゃんはベッドの上で一進一退の攻防を続ける。
まあ、後輩ちゃんもそれほど本気ではないようで、俺の腕の中で嬉しそうにはしゃいでいる。
二人でイチャイチャしていると、ピンポーン、と部屋のインターホンの音が鳴った。俺と後輩ちゃんは顔を見合わせる。
「今鳴ったよな?」
「鳴りましたね。こんな時間に誰でしょう?」
するとまた、ピンポーン、とインターホンが鳴った。今度は何度も連打される。
夜に連打はとてもうるさい。迷惑だ。
「うわっうるさっ! ちょっと出てくる」
はーい、という後輩ちゃんの声に見送られて、俺は玄関へと向かった。
後輩ちゃんとの時間を邪魔しやがって、と心の中で悪態つきながら玄関のドアを開ける。
「どちら様で、うおっ!?」
「あ~弟くんだぁ~」
ドアを開けた瞬間、ふにょんとした柔らかさに包まれ、大きな音を立てて押し倒された。そのまま押し倒した人物は俺の胸に顔を埋め、スリスリと擦り付けながら匂いを嗅いでいる。
「くんくん……弟くん良い香りぃ~」
「さ、桜先生!? って酒くさっ! カレーくさっ!」
俺を押し倒した人物は真下の部屋に住む桜美緒先生。今日は一学期が終わり、金曜日ということもあって、先生たちの飲み会が行われていたはずだ。
場所は確か、カレー専門店。カレーを食べて、お酒を飲んで、盛大に酔っぱらって帰ってきたらしい。
酔っぱらいの桜先生の瞳からポロポロと大粒の涙が零れ落ちる。
「か、加齢臭………うわ~ん! おばさんでごめんねぇ~! ぐすっ! 臭くてごめんねぇ~! うわ~ん!」
「せ、先生泣かないでください!」
泣き出した先生に動揺して、俺がアタフタとしていたら、パタパタと走る音がして、後輩ちゃんが慌てて駆け寄ってきた。
「先輩!? 大きな音がしまし……」
後輩ちゃんの声が途中で止まる。抱きつかれた俺と、俺を抱きしめながら胸に顔を埋めて泣いている桜先生。
後輩ちゃんの顔から感情が抜け落ち、瞳から光が失われる。コルタールのようなドロッとした黒い瞳。
あれ? 滅茶苦茶怖いんだけど……。
「せんぱい?」
「ひぃっ!?」
「あ~妹ちゃんだぁ~!」
「えっ!? きゃぁっ!?」
後輩ちゃんを見つけた酔っぱらいが俺から離れ、後輩ちゃんへと突進して押し倒した。そのまま胸へ顔を押し付けている。
「み、美緒ちゃん先生!? う、うわっ! お酒臭い! カレー臭い!」
「い、妹ちゃんまで………うわ~ん! おばさんでごめんねぇ~! ぐすっ! 加齢臭臭くてごめんねぇ~! うわ~ん!」
「あぁ~はいはい。よしよし」
状況を察した後輩ちゃんが桜先生の頭を撫でてなだめ始める。そして、俺に、何とかしてください、と視線を送ってくる。
もう少し美女と美少女の絡みを見ていたい気持ちもなくはないが、後輩ちゃんのお願いを聞いてあげよう。
「桜先生? 取り敢えず、リビングに行きましょうか」
「はーい!」
あっさり泣き止んで、素直に返事をした酔っぱらいの桜先生が後輩ちゃんと手を繋いでリビングへ行った。
リビングへと行った俺たち。先生は後輩ちゃんを放そうとせず、ぎゅっと腕を抱きしめている。後輩ちゃんはどうしたらいいのかわからない、という表情だ。
俺はコップに水を入れて先生に差し出した。
「ありがと! 弟くん!」
お礼を言った先生はコップの水を一気に飲み干して、ぷはぁー、と声を出す。そして、コップを置くと俺の腕も掴まれてしまう。
先生の胸の感触が腕に伝わってくる。
「えへへ! 弟くんと妹ちゃんだ! わーい!」
「あ、あの美緒ちゃん先生? 妹ちゃんとは?」
「あー、先生って心の中ではたぶん後輩ちゃんのことを妹ちゃんって呼んでるぞ。俺のことも弟くんって呼んでたらしいし。一人で寂しかったんじゃないか?」
後輩ちゃんは納得したようだ。桜先生の家族はもういない。ここ十年近く一人ぼっちだったのだ。俺と後輩ちゃんは先生から軽く話を聞いたことがある。
俺と後輩ちゃんの言葉が聞こえた寂しがり屋の桜先生は、俺たちを叱ってくる。
「もう! めっだよ! 私は先生じゃなくてお姉ちゃんなの! お姉ちゃんって呼んで! 呼んで呼んで呼んでぇ~!」
「お、お姉ちゃん?」
「そう! お姉ちゃんなの!」
プルプルと震えだした後輩ちゃん。すぐに顔を輝かせて桜先生に抱きつく。
「わ、私、お姉ちゃんがずっと欲しかったんです! 美緒ちゃん先生みたいなお姉ちゃんなら大歓迎です! お姉ちゃ~ん!」
「妹ちゃ~ん!」
むぎゅ~と抱きつく後輩ちゃんと桜先生。
あっ、桜先生の巨乳で後輩ちゃんが呼吸困難になっている。大丈夫かなぁ。
「ぷはっ! し、死ぬかと思いました。巨乳というのは凶器ですね」
「さあ弟くんもお姉ちゃんのおっぱいに飛び込んでおいで!」
「え、遠慮ぐはっ!」
「むぎゅ~!」
く、苦しい。喋っている途中だったから空気が残り少ない。や、柔らかいけど、顔に密着しすぎて息ができない。
ギ、ギブ! ギブアップしますから助けてくれ!
「お姉ちゃん! 先輩を離して!」
「姉弟のスキンシップだよぉ~!」
「なら許します!」
「ぷはっ! 姉弟でもこんな過剰なスキンシップはしないから!」
おっ! 気づいたら空気が吸える。まだ抱きしめられて至福の柔らかさを感じているけど、少なくとも死ぬことはなくなった。巨乳は凶器だ。
「えぇ~! 姉弟なら、ぎゅ~もちゅーもお風呂で身体を洗いっこするのも、一緒に寝るのも、子供を作るのも普通のことなんだよ!」
「そうですよ先輩! お姉ちゃんの言う通りです!」
「ちょっと待て! おかしいだろ!」
「「えっ? どこが?」」
本気でキョトンとしている後輩ちゃんと桜先生。
先生は酔っぱらっているから仕方がないとして、なぜ後輩ちゃんが不思議そうに首をかしげているんだ!?
「だって普通に楓ちゃんも言ってますよ? 鈴木田裕也先輩もいいけど、兄である先輩もいろいろとオーケーだって。お願いされたら禁断の関係を断れないって。だから普通ですよね?」
「どこが普通だ!? 絶対あいつの冗談に決まってるだろ!」
「弟くん! 妹ちゃん! そんなことどうでもいいの! よそはよそ! うちはうち! ウチではオーケーなの!」
「「ねー!」」
「ちょっとそこの男性経験皆無の酔っぱらいといろいろと残念な痴女! 仲良く頷き合うな!」
「先輩が…」
「弟くんが…」
「「いじめる~!」」
「二人とも仲いいな! というか後輩ちゃん? お酒飲んでないよね? 酔っぱらってないよね?」
「失礼な! お酒なんか飲んでいませんよ! 先輩には酔っていますけど」
可愛らしくウィンクする後輩ちゃん。ちょっとおかしくなっているようだ。
頭大丈夫かな? ただ眠いだけだよね? 頭のねじが外れてないよね? とても心配だ。
俺と後輩ちゃんの腕を掴んでいる酔っぱらいの桜先生が天井に向かって叫ぶ。
「お姉ちゃん眠い! 寝るぞぉ~!」
「いや、明らかに眠くないですよね? 目はパッチリ開いてますし、大声で叫びましたよね? ぐえっ!」
「さあ寝るぞぉー! 弟くん妹ちゃん!」
俺だけ首を絞められて桜先生に連れられて行く。後輩ちゃんは先生と手を繋ぎ、嬉しそうに、おー!、と盛り上がっている。
一人はお酒で酔って、もう一人は眠すぎて、明らかにテンションが上がっている二人は全く寝そうじゃないんだけど。
何故か寝る場所は俺のベッドらしい。詰めればギリギリ三人入る。先生と後輩ちゃんがベッドにダイブした。掴まれた俺も引きずられる。
「寝るぞー!」
スポーン!と服を脱ぎ去った桜先生。白い過激な下着姿になる。豊満なボディを持ち、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
滅茶苦茶エロい。俺には刺激が強すぎる。
「お姉ちゃんがぎゅーしてあげますね!」
「お姉ちゃんズルい! 私も先輩をぎゅーする! むぎゅ~~~~……スゥースゥー」
「えっ!? 後輩ちゃん寝た?」
俺に抱きついてきた後輩ちゃんが一瞬で寝てしまった。眠すぎておかしなテンションになっていたらしい。
気持ちよさそうな寝顔だが、桜先生を止めるストッパーがいなくなってしまった。どうしよう。
「弟くんぎゅー!」
「もがもがっ!」
い、息ができない。苦しい。先生の素肌が顔に当たる。酔っぱらっているせいなのか異常に力が強い。抜け出せない。このままだと死んでしまう!
俺は先生を叩いてアピールするが何も反応が返ってこない。
「スゥースゥー」
「っ!?」
あんなに元気だった桜先生が寝ている。俺の顔を抱きしめたまま寝ている。力は相変わらず強い。
やばい。酸欠で頭がくらくらしてきた。目の前が暗くなっていく。もう駄目だ。
美女と美少女に抱きしめられながら、俺はゆっくりと気絶していった。
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