第47話 宣戦布告する私と……お姉さま?

 

「ふんふふーん♪ ふんふふーん♪」


 私は鼻歌が止まらない。止めようと思っても無意識に歌ってしまう。嬉しさが溢れ出して頬のニヤニヤが止められない。

 はぁ…先輩! あぁ…早く帰ってイチャイチャしたいなぁ。


「………葉月ちゃん? 気持ち悪いほど嬉しそうなんだけど、颯くんと何かあった?」


「ほえ? うふふ。ちょっとね」


 クラス中が大きく騒めく。今は昼休み。お弁当の時間だ。今日は先輩はいない。鈴木田先輩とか他の友達と食べるんだって。だから、今日は私は教室で友達と食べている。

 周りにいる女子の目の色が輝き、遠くにいる男子たちは耳を傾けて盗み聞きしている。


「なになに!? 一体何があったの!? もしかして告白された!? 付き合った!? キスしたの!? それとも大人の階段を上った!?」


「うふふ。教えな~い」


 何を考えたのかわからないけど、女子たちが歓声を上げて、男子たちが血の涙を流し始める。

 先輩との仲がちょっと前進したなんて教えられない。あぁ…先輩可愛かったなぁ。あれ? でも、私って告白もされてないな。告白くらいしてくれてもいいのに。まあいっか。うふふ。今日は先輩にたくさんナデナデしてもらおうかな。


「ちょっと葉月! 少しでいいから教えなさいよ!」


「えー! まあ、少しなら…」


 教室が急に静かになり、誰一人喋らなくなる。この状態で話すのはちょっと恥ずかしい。


「週末、私の誕生日だったんだけど……」


「えっ! 嘘っ! 聞いてないんだけど!」


「誕プレ準備してない!」


「えーっとあの、取り敢えず誕生日おめでとう!」


「「「おめでとう!」」」


 みんな一斉に私にお祝いの言葉を言ってくれる。そして、誕生日プレゼントについて話し合い始める。だから、秘密にしてたのに。とっても恥ずかしい。


「あ、ありがとう。それでね、先輩が誕生日プレゼントを準備してくれたの」


「何だったの!? 赤いバラの花束!? それとも指輪!? 指輪なの!?」


「違うよ。ぬいぐるみと髪留めと手作りケーキだった。手作りケーキは私からお願いしたんだけど、ものすっごい美味しかった」


「おぉ! 羨ましい! 流石颯くん! それで続きは?」


「んっ? 後は先輩に抱きしめてもらいました。以上です」


 ちょっと言い過ぎたかな? でも、間違ってはいない。抱きしめられたのは本当。最近毎日の日課になりつつあるけど。それに、先輩とあんなことをしたなんて言えるわけがない。私と先輩だけの秘密。誰にも教えませーん!

 クラス中が盛り上がっている。女子は羨望の眼差しで、男子は…先輩を殺しそうな視線だ。ここに先輩がいなくてよかった。


「ねえねえ! どっち!? ハグは前から? 後ろから?」


「………後ろから」


 まあ、実際には前からも後ろからも抱きしめられたけど。でも、後ろからのほうが多い。前からだととても恥ずかしいらしい。ちなみに私はどっちからでも恥ずかしい。安心もするけど。


「嘘だね! いや、本当のことを言ってるけど、全部は言っていない。さては、前からもハグされたな?」


 うぐっ! 何で女子ってこういう時に物凄く鋭くなるんだろう?


「………………されました」


 きゃー!っと女子たちの甲高い歓声が響き渡る。ちょっとうるさい。耳がキーンとした。


「まあ、あんたらは学校でも時々ハグしてるけどね」


「そういえばそうか。腕に抱きついて胸を押し当てるなんて日常茶飯事」


「羨ましいなぁ。颯くんから抱きしめられたらどんな感じなんだろう?」


「嬉しい?」


「恥ずかしいんじゃない?」


「でも、葉月は安心して満足そうにしてるよ」


「私もされたいなぁ」


「あたしもあたしも!」


「私はお姫様抱っこを希望します!」


「「「「それもいい!」」」」


 むむむ! なんか私以外の女子全員が盛り上がっている。薄々気づいていたんだけど、先輩が人気だ。気づいたのは体育祭の後。多分、本気の先輩に当てられちゃったんじゃないかなぁと予想してるんだけど、どうなんだろう? ちょっと聞いてみるか。


「ねえ、最近何かと先輩に絡むよね? スキンシップ多いし、いつの間にか先輩の名前を呼んでるし」


「な、なんのことかな~?」


 女子たちが一斉に目を泳がせながら顔を逸らした。むむむ! これはまずい! みんな意図的に先輩にアピールしているな? もうちょっと探ってみるか。


「私、浮気には寛容なんだよね~」


 私の嘘を聞いて、女子が色めき立つ。よしっ! かかった!


「えっ? ホントッ!? 颯くんをちょっと借りてもいい?」


「あたしはデートしたい!」


「あんたお持ち帰りされるつもり? 私はキスとハグ!」


「私は妹になる!」


「フッフッフ…私は初めてをあげる! それに媚薬を使う!」


「あっ! ずるい!」


 ほうほう。みんなそんなことを思っていたのかぁ。次から次に欲望が出てくる。先輩ってモテモテだねぇ。私だってまだしてないことが多いのに!


「へぇ~? みんな先輩のことが好きなのかぁ。そっかそっかぁ。同じ恋する乙女としては応援したいけどねぇ…」


「あ、あれ?」


 女子たちの顔が青ざめる。ふふふ。みんなどうしたのかなぁ? 私の顔を見て震えている。なんでかな? 私は物凄い笑顔だよ? 輝くような笑顔だよ? うふふ。


「い、今のは冗談! デートとか冗談だから!」


「は、葉月落ち着いて? 笑顔がめちゃくちゃ怖いんだけど!」


「うふふ。そうなの?」


「だ、だれかぁ! 旦那呼んできて! 早く!」


「へぇ? 先輩のことを旦那って呼んでるんだ。ふふふ…」


「ち、ちがうっ! あんたの旦那ってことだから! 颯はあたしの旦那じゃないから………………颯があたしの旦那……いいかも………あっ!」


「うふふふふふふふふふふ」


 何故か恐怖でカタカタと震えているクラスメイト達。気温が下がったかのように顔が青い。何故だろうね? うふふふ。

 そこに丁度先輩が戻ってきた。教室に入って一斉に視線が集まり、訳がわからず固まっている。


「えっ? なに? どうしたの? 後輩ちゃん?」


 私は席から立ち上がり、呆然と突っ立っている先輩に近づいた。そして、クラスメイトの目の前で先輩の首に両手をまわし、抱きついた。先輩が混乱しながらも自然と私の腰に手をまわしてくれる。あのヘタレの先輩が! 進歩しましたなぁ。

 私は抱きついたまま、固まっているクラスメイトのほうを振り向く。そして、大人っぽく艶美に微笑んだ。お母さんたちから教わった大人の女の余裕。先輩を虜にしてライバルを蹴落とす魔性の女を演じる。


「先輩のハートをゲットしたいなら受けて立つよ。いつでもかかってきなさい。全力で叩き潰してあげるから♡」


 見栄を張った宣戦布告。内心では物凄く焦ってます。

 先輩は私のだもん! 誰にもあげないんだから! 先輩は私一人のものなの!


「………………………………お姉さま」


 女子の誰かがボソッと呟いた。

 んっ? 何か変な言葉が聞こえた気がするんだけど、気のせいかな? 女子たちが顔を真っ赤にして、私のことを熱いまなざしで見てくるのは気のせいだよね? 気のせいのはず!

 ちょうどいいところで昼休みが終わるチャイムが鳴った。クラスは落ち着きを取り戻す。

 その後、先輩に対するアピールは減らなかったけど、何故か私に対してもスキンシップが多くなった。そして、ボソッと小さく呟かれる言葉。

 女子全員に言いたい。

 私のことを『お姉さま』って呼ぶの本当に止めて!

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