第3話 合鍵と後輩ちゃん

 

 俺は放課後になってから二年生になった友人たちとお喋りしてから下校した。案の定、俺の友人は留年した俺を揶揄ってきた。まぁ、俺も彼らも留年なんか些細なことは気にしていないが。

 俺は今日のことを思い出しながら道を歩いていく。今日は午後から入学式だったので、もうそろそろ夕方だ。

 やっとアパートについた。今日は精神的に疲れた。今日は早く寝たい。

 俺は鍵を取り出しドアを開けた。ほのかに甘い香りがする。

 あれ? この玄関に置いてある女物のサンダルは何だ?

 俺は嫌な予感がしてリビングのドアを開けたら、そこにはぐてーっと怠そうに寝転がる後輩ちゃんがいた。白いワンピース姿で、肉付きの良い白い太ももが艶めかしい。際どい所まで捲れ上がっている。


「あっ……先輩…おかえりなさい…遅かったですね」


 さっきまで一緒に学校にいた後輩ちゃんが顔を上げて俺にあいさつしてきた。うん、家に帰ったら後輩ちゃんがいるのは新鮮でいい気分だ。


「ただいま。ちょっと友達と喋ってきた」


 何故か後輩ちゃんが驚愕している。


「っ!? 先輩に友達がいるんですかっ!?」


「いるに決まってるだろ!」


 俺のことを何だと思っている! 中学時代に俺に友達がいたの知っているだろ!


「まあ、そんなのは知ってますが…揶揄っただけです」


 驚いた演技をして揶揄った後輩ちゃんは、疲れたみたいでぐったりと倒れ込んだ。もぞもぞと身体を動かし猫のように丸くなる。


「せんぱーい! 手洗いうがいをちゃんとしてくださいねー」


「後輩ちゃんは俺の母親かっ!?」


 俺は部屋に荷物を置いて、後輩ちゃんに言われた通りに手洗いうがいを行った。冷たい水で顔を洗ったことで頭がすっきりした。シャキッとなって冷静になる。

 俺は後輩ちゃんが寝転ぶリビングに戻ると、ずっと疑問に思ってたことを聞いてみる。


「あの、後輩ちゃん?」


「なんですかー、先輩?」


「なんで後輩ちゃんが俺の家にいるの? 後輩ちゃんは隣の部屋だよね?」


 後輩ちゃんはごろんと仰向けになって何やら胸もとを探っている。

 だから、そういうことを止めろ。胸の形とか服の中とか見えちゃうから。

 俺の視線が吸い寄せられている間に後輩ちゃんが取り出したものを見せてきた。

 これはペンダント? そして、ペンダントトップは見覚えのある鍵。


「先輩のご両親から合鍵貰いました!」


「はぁ!?」


 やはりあれは俺の家の鍵。なんで俺の親は後輩ちゃんに合鍵を渡すんだ!


「なんで!?」


「さあ? でも、渡されたとき”これでいつでも夜這いができるね”って言われました。というわけで、夜這いするかもしれません。よろしくです」


「”よろしくです”じゃねーだろ!」


「あっ先輩が夜這いしたかったですか? 私の家の合鍵をテーブルの上に置いときましたので、いつでもいいですよ。ついでに掃除もお願いします」


 テーブルの上を見ると俺の家とそっくりな鍵が置いてあった。お隣の後輩ちゃんの家の合鍵だろう。


「それでいいのか女子高生!」


「いいんですよ~! 両親も絶対に合鍵を先輩に渡しなさいと言ってましたし、渡さないと私、死んじゃうみたいです。家事能力皆無ですからね~あはは~」


「笑い事じゃない!」


 後輩ちゃんはぐったり床に倒れ込んだまま動かない。ワンピースの裾が危ないことになっている。あと少しで見えそうだ。本人は全く気付いていない。


「はぁ…わかったよ」


「許可なく入っていいですからね~。定期的にお願いします。じゃないと汚部屋になりますから」


「それでいいのか? 女の子だろ?」


「女の子が全員部屋を綺麗にしているなんて思わないでください! それは男性の幻想です! 私が掃除をするともっと汚れます!」


 だからなんで自慢げに言ってるんだよ。後輩ちゃんが片付けできないのは前から知ってるけどさ。


「………………せめて下着は直しておけよ」


「はーい! ついでに料理もお願いしますね。食費などその他諸々は先輩の口座に振り込まれるので」


「なんでっ!?」


「さあ? ウチの両親と先輩の両親が勝手に話し合っていました。そこら辺は私はノータッチです」


 後輩ちゃんは顔を隠している。絶対恥ずかしがっているな。

 それにしても、もう外堀は埋まってるのか。あとは俺たち次第か。


「せんぱーい! おなか減りました」


「はいはい。作るから待っててくれ」


「お願いしまーす。対価は私の身体でいいですよ~。好きにしてくださ~い」


 揶揄ってくる後輩ちゃんは顔を隠している。恥ずかしくて俺の顔を見れないのだろう。そんなに恥ずかしいなら言わなければいいのに。


「大丈夫だ。もう既に対価はもらっている。後輩ちゃんは気づいていないが、ワンピースから見える白い…」


「何下着を見てるんですか!?」


 俺の言葉が終わる前に後輩ちゃんがバッとスカートを押えて、真っ赤な顔で睨みつけてくる。いやいや。俺は悪くないだろ。男の部屋で無防備な姿になっている後輩ちゃんが悪い。それに、見せてきたのは後輩ちゃんのほうだろ。


「白い太ももって言おうと思ったんだけど……もしかして後輩ちゃんの下着……」


「ダメです! 想像しちゃダメです!」


 想像するなって言われると逆に想像してしまうのが人間だ。

 ふむ、後輩ちゃんの白い下着姿。悪くない。


「うわぁあああああ! 先輩のばかぁああああああ!」


 俺が想像したことに気づいた後輩ちゃんがリビングから出て行って、別の部屋に逃げ込んだ。

 いや、そこ俺の寝室なんだけど。

 ドアを開けようとするが中から後輩ちゃんが押さえているようだ。ドアが開かない。叩いても話しかけても反応が返ってこない。俺はしばらくそっとしておくことにした。

 二十分ほどしただろうか。俺は晩御飯の準備を一時中断して、後輩ちゃんが立てこもった俺の寝室をノックする。何も反応はない。


「後輩ちゃーん! 入るぞー!」


 声をかけて中に入ると俺のベッドが膨らんでいる。どうやら後輩ちゃんが寝ているようだ。

 彼氏でもない男子のベッドで寝ちゃダメだろ。

 後輩ちゃんがスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。寝顔は少し幼さが際立って可愛らしい。

 俺は少し悪戯したくなって人差し指で後輩ちゃんの頬をつついてみた。とても柔らかくモチモチしている。


「………んんぅ…」


 後輩ちゃんが可愛らしい声を上げた。まだ起きない。俺は頬を優しく撫でた。寝ている後輩ちゃんが気持ちよさそうに俺の手に頬ずりしてくる。


「……可愛すぎるだろ」


「……………んん……」


 気持ちよさそうに寝ている後輩ちゃんを起こすのは躊躇ってしまう。せめてご飯ができるまでは寝かせておいてやるか。


「俺のベッドで勝手に寝た罰だ」


 俺は後輩ちゃんに顔を近づけると彼女の額に優しくキスをした。後輩ちゃんの甘い香りとシャンプーのいい香りがする。

 一瞬唇にしようかと思ったけれど、流石に止めた。


「ご飯ができたら起こしに来るよ。それまでおやすみ」


 俺は最後に頬をひと撫ですると部屋から出て行った。そしてすぐさまキッチンに行って熱くなった顔を冷水でジャブジャブ洗う。何度も何度も水をかけて、ようやく熱が下がっていった。

 寝たふり・・・・した後輩ちゃんにはよく効いただろう。少し時間をかけて料理を作ろうかな。

 俺は後輩ちゃんのことをなるべく考えないようにして、料理に集中した。





 一人きりになった寝室ではベッドに寝たふりをした少女が寝返りを打った。


「先輩のばか」


 顔を真っ赤にした少女の小さな呟きが静かな寝室に消えていった。

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