第4話
日が暮れかけ、周りが徐々に夕景で染まっていく建物と道路。
そこに一台のバスが走行していた。
そのバスの運転席の後ろにある段差の席に、横花昴は両手、両足、口を運転手のワイシャツで作った紐で縛られていた。
(無罪で捕まった人の気持ち、俺は理解したよ)
窓から見える景色を見て、昴は思った。
そして昴は拘束した張本人たちを見る。
昴を拘束した張本人たち――バスジャックの男と上半身裸の運転手は、昴を警察に引き渡すため交番を探していた。
「駄目だ。全く見つかんねえよ、運転手さん」
「もっとよく探せ。にしても包丁でバスジャックとか馬鹿なやつがいるもんだ」
「本当ですよ。馬鹿ですよね、アイツは」
手に持っている包丁を凝視して、バスジャックの男は言った。
(お前がな!)
昴はバスジャックの男を睨む。
「こんな包丁で、何故バスジャックなんてするんだろうな……、いずれは捕まるのに」
バスジャックの男は呟く。
(だから、お前がな!)
さらに怒気をこめて、昴は睨んだ。
「どうせストレスとかなんじゃねえの」
包丁を凝視するバスジャックの男に、運転手は言った。
「あの学生はストレスが発散できない結果、こんな馬鹿な行動してしまったんじゃねえの」
「そうなんですか……。俺はストレスを抱えてもこんなことはしないのに」
(確かにタケルと結菜のせいでストレスは抱えているが、バスジャックをしたのはお前だぞ!)
さらに、昴は強くバスジャックの男を睨む。
「そうだな、お前はきっとそんなことを、ってうわっ!!」
運転手が言いかけたところで、急に車が飛び出す。
運転手は急ブレーキを踏み、 バスが大きく揺れ止まる。
「うおっ!」
その揺れでバスジャックの男は転びかけるが、咄嗟に手すりに掴まる。そのとき、手に持っていた包丁を手放してしまう。だが、バスジャックの男は気づいていない。
その包丁は昴の左手の方に向かってくる。
(う、うおおお!? ほ、包丁が!)
危険を感じ、昴は避けようとする。しかし、紐で縛られているため、避けようにも避けれない。
瞼を強く瞑り、歯を噛みしめ、昴は痛覚に備えた。
だが、左手からはちょっとの痛覚と金属の感触を感じるだけだった。
(……ん? ちょっとしか痛くないぞ)
瞼を開き、昴は左手の方を見る。そこには、椅子の手すりに刺さった包丁と左手を拘束していた紐にきれみがあった。
(あ、危なかった。もし、数センチズレてたら……考えないようにしよ。それより、これはチャンスだ。左手を解放し、包丁で他の紐を切れば――)
昴は左手に力を入れて、全力で上に上げる。
紐のきれみはビリビリと音を立て大きくなっていき、破れた。
すぐに昴はバスジャックの男たちを見る。
「急に出てくるなよ、プリ◯ス」
「何でプリ◯ス製の車の運転手は、よく事故を起こそうとするんですかね。運転手さん」
「知らん」
(よし、気づいていないぞ)
バスジャックの男と運転手が気づいていないことを確認すると、自由になった左手で包丁を掴み、右手を縛っている紐を切る。
そしてバスジャックの男たちが気づいていないかを確認する。気づいていないことが分かると、包丁を右手に持ち替えて、口と右足を拘束している紐を切った。
(や、やった! あとは左足の紐だけだ!)
もう一度、昴はバスジャックの男たちを確認する。
「あ」
「あ」
昴はバスジャックの男と目が合ってしまった。
「て、てめえ! 何してんだ!」
「やべっ!?」
バスジャックの男は昴に迫ってくる。
昴の心臓の鼓動が早くなり、まるでホラーゲームで暗いところで、急に出てきた幽霊のような恐怖を昴は感じた。
すぐに縛られた左足の紐を、昴は急いで切る。切り終えたところで、バスジャックの男に右手を掴まれた。
「このバスジャック野郎!」
昴の頭部をバスジャックの男は殴った。
呻き声を出し右手で持ってた包丁を昴は落とす。殴られたところを昴は反射的に片手で押さえる。その隙にバスジャックの男は昴を椅子から引きずり下ろす。
「ぐわっ!」
昴は床に叩きつけられた。
「こいつ、俺が包丁を手放したことに気づいたら、いつのまにかに!」
「ど、どうした!? 何があった」
驚きながら運転手はバスジャックの男に何があったか尋ねる。
「運転手さん、バスジャックの野郎がいつの間にかに拘束を解いていたんですよ」
「そうだったのか。ただの学生だと思ったら拘束を解ける技術を身につけていたとは」
(このバスジャックの男が、包丁を手放してくれたおかげなんだが)
「こいつは今のうちに気絶させた方が……、ん、この音はなんだ?」
怒気を出しまくっていたバスジャックの男は、耳をすませる。そして急に笑い出す。
「今度はどうした? 」
運転手は引きながらバスジャックの男に言った。
バスジャックは笑いながら、運転手の方を振り向く。
「運転手さん、耳をすませばわかりますよ」
バスジャックの男に言われて、運転手は耳をすませる。
「こここれは!?」
運転手は驚く。
(一体どうしたんだ?)
昴は疑問に思ったとき、バスジャックの男と運転手は昴を見て言う。
「バスジャック野郎。お前は終わりだ」
「少年院行きだぞ、バスジャック」
運転手とバスジャックの男が言ったとき、拡張された声とサイレンが聞こえた。
『警察だ。そこのバス、止まりなさい』
「なっ!? 警察だと」
瞼を大きく開き、昴は驚く。
警察が来た。
警察が果たして昴の言うことを信じるか、運転手たちの言うこと信じるかで昴の人生は決まるだろう。
昴は絶望していた。どうせ自分の不幸体質のせいで、警察は運転手たちを信じて捕まるのだと。
(お……終わった、終わったぞ。どうせ警察も俺の言うことなんて信用しないんだろ)
運転手はバスを止まらせドアを開ける。しばらくして、一人の警察が銃を構えて入ってきた。
警察は目で周りを確認した後、すぐにバスジャックの男の方にに行き、
「やはりいたか!
警察は包丁を奪って手錠を着けた。
「「「……は?」」」
バスジャックの男――町田麦と運転手と昴は首をかしげる。そして、麦は声を上げた。
「ちょちょちょっと待ってくださいよ! バスジャックは俺じゃなくてこいつですよ!」
バスジャックの男は倒れている昴に指を指す。
警察はチラッと昴を見るが、すぐにバスジャックの男に蔑むような目をして言う。
「何を言ってる。お前が◯◯銀行で包丁を出して『金出せ』と言った防犯カメラからの映像があるし、浅草という学生から『友達がバスジャック犯の人質にされたので、助けてやってください』と軽々しく通報してきた。まあ、助けた後はその友達に何か奢らせて来てと頼まれたが……。つまり、この学生は被害者だ!」
「そ、そんな……、俺がバスジャック犯だなんて」
麦は俯ける。
(……助かった! ってか、よく考えたらそうなるよな。 とりあえず浅草、お前にはう◯い棒買ってやるぞ)
難関な学校に受かった学生のように、昴は喜んだ。
「警察さん、ちょっとよろしいですか?」
運転席から出てきた運転手はうつむいて警察に話しかける。
「あ、運転手さんもう大丈夫です。それにしても、よくバスを止められましたね。ってきり、麦が怒鳴って『止めるな!』って脅されて走り続けるかと思いましたよ……何故上半身裸?」
警察は放心な表情をする。
(何か嫌な予感するから早く出よう)
昴は起き上がり、バスから出ようと出口に向かう。
そのとき、運転手は警察をバスから突き出す。
バスから追い出され警察は、尻から落ちる。
「痛って! な、何をするんですか、運転手さん!?」
急いで運転手は運転席に戻り、バスのドアを閉めてバスを走らせる。昴を乗せたまま。
急に走らせたバスは揺れ、麦と昴は転ぶ。
「「……え? ええええええ!?」」
昴と麦は驚愕した。
「う、運転手さん!? な、何やって――」
「うるせえ!」
麦の発言を運転手は怒鳴って遮る。
「お前はバスジャック犯なんかじゃねえ! 警察は勘違いしてる。だから、俺たち二人で真犯人を見つけるぞ!」
「う、運転手ざ…ん……」
嗚咽しながら麦は言った。
そんな麦を昴は眺めた。そして、出口の方を振り向き、
「ふ、不幸すぎるだろこれ!!」
昴は大声で叫んだ。
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