不幸学生

ヤザヤザ

第1話

ホームルームが終わり、騒がしくなる教室。


喧騒が嫌なのか、ささっと教室から出ようとする端麗な顔立ちをした黒髪の少年―横花昴。


(早く出なければ、ならない。あいつらから早く逃げなければ!)


早歩きをして、急ぐ昴。


引き戸のところまできたそのとき―


何が頭上を通り越し、目の前に現れる。そこには、こげ茶色のボサボサの髪と同じ色をした瞳の少年がいた。その少年は昴の幼馴染の浅草タケル。


タケルは昴に、いつも迷惑かけている。


例えば、レストランでいつのまにかいなくなり代金を払わされたり、やり忘れていた宿題を一緒にやらされ遅刻してしまったなどがあった。


「昴、学校が終わったからハンバーガー食べにいこう」


落胆する昴。そんな彼の気持ちなど気づかず、タケルは言い続ける。


「頼むよ、昴。君だけが頼りなんだ」

「お前一人で行け。というか何故、俺が行かなければならない?」

「昴に奢ってもらうためだよ?」

「さらっと言うな。とにかく、俺は行かないからな」


タケルを横切ってドアに手をかけようとする昴。


その瞬間―


「すみませんって、昴さん! ちょうどよかった、ちょっとお願いがあるんです」


ドアが勢いよく開き、整った顔立ちにストレートロングの紫檀色したんいろの髪の少女が現れた。彼女は昴のもう一人の幼馴染、石鳥結菜。


結菜もタケルと同じく、昴に迷惑をかけている。お金が足りなくてバスの運賃を払わされたり、横断歩道で信号を待ってるとき、結菜に脅かされ携帯を道路に落とし、その携帯が車に轢ひかれ壊されたりした。


「今度はお前か! 何だ、お願いとやらは?」

「ハンバーガー食べに行きましょう」

「お前もか! 俺は行かないぞ。そもそも、今日は用事があるし」

「用事といっても、どうせ欲しい本があるから本屋に行くとかだろ昴」

「違うぞ、タケル。本屋ではなくれっきとした用事だ」

「欲しいロボットのプラモがあるから、おもちゃ屋に行くとかですか?」

「うっ! 結菜、何故それを!」


昴は驚く。


昴はロボット好きである。本人は子供っぽい趣味と思いそのことを隠してるが長い付き合いのタケルたちには、見え見え。


「えっ? だって昴さんの部屋に、えーと確か、かか、カステラでしたっけ? カステラのプラモデルがあるじゃないですか」

「カステラじゃない、ガ○ダムだ。カステラのプラモとか何だそれ。そもそも、俺の部屋にあるアレは親父のでだ」

「じゃあ、何で昴の部屋に親父さんのプラモがあるんですか?」

「うっ! それは……家の事情だ! とにかく、俺はもう行く。その親父からプラモを買ってくれと頼まれてるからな」


 昴は嘘をついて誤魔化して結菜を横切って教室から出た。


これ以上、付き合ってられないと昴は判断し、この学校の周辺にはおもちゃ屋とかがないため、ここから少し遠くにあるデパートのらんらんぽーとに向かう。


そのとき、昴の両肩が掴まれる。


「それなら、私も一緒に行きます!」

「僕も特にやることないから行くよ」

「は? 何言ってるんだお前ら。来なくていい、というか来るな」


昴は怒気を含んで言う。


しかし、その怒気に気づかないタケルと結菜は喋り続ける。


「そんな固いこと言わないでさっさと行きましょうよ、昴さん」

「昴、プラモを買ったら、ハンバーガー食べに行こう」

「……わかったよ。ただし、邪魔だけはするなよ! あと、ハンバーガーは食べに行かないぞ」

「分かりました」

「チッ! 駄目だったか」


二人に何言っても付いていくだろうと悟さとる昴。連れて行かないことを諦め、さっさと、らんらんぽーとと結菜?いうデパートに行くことにする。


「あ、いた。おーい、横花君!」


突如、後ろから呼びかけられる。


後ろを振り向く昴たち。そこには、オレンジ色の瞳にスポーツ刈りの赤毛―荻縄朝日がいた。


朝日は熱心に授業や部活にボランティア活動を取り組む昴のクラスの熱血学級員。


「何だ、荻縄。俺に何かようか?」

「今日の掃除当番が風邪で休みだから、次の掃除当番の横花君が掃除することになったことを伝えに来たんだ」

「は? 掃除当番だと⁉」

「そう、掃除当番。僕も手伝うから早く終わらせよう横花君!」

「どうするですか、昴さん?」

「昴、僕は手伝はないから」


小声で昴に話す結菜とタケル。


(どうする⁉ どうせ売れ残ってるから…嫌、駄目だ! 売れ切れる可能性もある。どうすればいいんだ……)


ちょっとだけ焦る昴。しかし、すぐに冷静になる。


「こうなったら、結菜、タケル……逃げるぞ‼」

「「了解」」


昴たちは全速力で走り逃げ出した。


「っておい! 昴君! ああ、掃除が……」


呼び止める声を無視して、昴はひたすら前を向いて走り続けた。

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