これが私のエンドロール
桐生細目
終章 終わる
水無月留美は、自分が通うこの中学校に屋上があることは知っていた。
母の話では母親の代の頃は生徒に開放されていたが、転落事故が起こってからは完全に封鎖されていたとのこと。誰も入らなければ清掃をする必要もない。学校の清掃の管理会社はそう判断していて、頑丈に固められていた鍵を解錠して扉を開けて見れば、屋上部分はコンクリートとは思えないほどに荒れ果ててた。床のコンクリートはほとんどはげ落ちていて、ささくれのように床を荒々しく仕立てあげている。
「真っ白。私の心とは違って、真っ白なんだね」
雲が広がる大空を見上げながら、握っていたノブから手を離して進みだす。靴はいつからか履いていなかった。気がついても履く必要はないと、彼女はここまで来ていた。
「私も、そっちに行けば真っ白になれるのかな?」
ゆっくりとおぼつかない足つきで、しかし確実に彼女の足は屋上の橋へと向かっている。そこを、隔てているのはフェンス。フェンス自体も老朽化が進み、体重をかけたら一度崩れ落ちそうな雰囲気をまとっている。
「どこか……」
だけども手に触れても崩れず、またぐには高すぎるのであたりを見回すと、調度良く一区画だけが手すりが崩れているのに気がつく。
そこまで進んで水無月留美は屋上と空の境界線に立った。
眼の前に広がるのは空だ。雲で覆われていて遠くまで眺めることはできないが空だ。背後に広がるのは彼女の心そのもの。荒れた中学校の屋上。境界線に立ち続けられているのは危ういフェンスを掴んでいるから。いつ崩れるともしれないのに彼女の表情にはなんの色もない。
最期に、彼女は振り返った。
自分以外誰もいない屋上を振り返って、誰も居ないことを確認して、手を離した。支えを失った体は背後へと、空へと進みだす。
境界線へと戻ることはできないし、彼女はそもそもそれを選択しない。
空へと飛び出し、しかし待っているのは地面。
走馬灯が流れ始める。
少しだけ彼女は笑った。
それは走馬灯が見せる思い出から出たものではなく、死ぬ自分への嘲笑。
「ごめんね」
雲一面の視界が黒く染まる。
意識も真っ黒く染まって、水無月留美は13年の短い生涯を閉じた。
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