第24話 なんだかえらいことになっているような

 風を辿って、辿り着いた先は回廊だった。

 回廊は登坂になっていて、どこかに繋がっていることを期待させる。

 

 傾斜が結構きつかったけど、フライの魔法の効果が切れたピピンを抱え走る。彼女はずっときゃーきゃー悲鳴をあげていたけど、良く続くよな。

 なんて思っていたら、三十分ほどであっさりと終着点に到達する。

 行き止まりになっていたが、端っこの方が建付けが悪くなっている様子で外からの光が中に漏れ出していた。

 この隙間から風が漏れ出し、中まで流れていたってわけか。

 

「これは、発見できないだろうなあ……」


 内側からじゃないと絶対に分からないと思う。

 入口部分は岩の扉みたいになっていて、外から見たら普通の岩に見えるはずだ。


「どうやって開けるんだろー」

「こういうのはな。押すのだ」


 イルゼが岩をトンと叩くと岩の扉が中央を軸に回転し、外の景色が見えた。

 入口から外を見渡すと思わず声が出る。


「あー。これはまず見つからないよな」


 何故なら、出口は切り立った崖の中腹だったからだ。

 俺に抱えられたまま、首を下に向けたピピンが蒼白な顔になっている。

 高さはそうだな……地上まで二百メートルってところか。

 

「ピピン。しっかりつかまっていろよ」

「え、ええ。ま、まさか……」

「フライの魔法でもいいけど、どっちがいい?」

「え、えっと……」


 ピピンはフルフルと首を振って悩む。


「おっさきー」


 蝙蝠の翼を背中から出したプリシラがぴょーんと飛び降りる。

 しかし、彼女は浮き上がってきてこちらに向けて両手を振った。

 飛行できるからなあ。プリシラは。

 

「バルトロ殿、行かないのか?」

「あ、あー。そうな」


 後ろから声をかけてきたイルゼへ曖昧な返事をする。

 目が合ったピピンは涙目で俺へぎゅーっとしがみついた。

 

「ま、いいか」

「だ、だめ、ダメです!」


 既に遅い。

 もう俺は飛び降りてしまった。

 アイキャンフライー。

 

 ひゃああああ。

 落下が気持ちいいいい。

 

 ◇◇◇

 

「す、すまん」

「い、いえ……」


 落下の結果、ピピンがどうなってしまったのかは語るまい。

 日暮れが近いこともあり、俺たちはアルゴリア遺跡に戻ったんだ。

 あそこは寝泊まりできる小屋と井戸まであるからな。

 そう、井戸が重要だ。

 

 先日宿泊した小屋に戻った俺たち。

 すぐさま俺は上半身裸になって井戸で洗濯をはじめた。ピピンも顔を真っ赤にしながら、自分のパンツを洗っている。

 ……まあ、そんなところだ。

 

 言わなくても分かるだろうけど、あえて何があったのかは言わない。

 ピピンが「もうお嫁にいけない」とか呟いているなあ……。

 は、ははは。

 渇いた笑い声が出てしまう俺であった。

 

 翌朝すぐにファロの街へ向かう。

 クアクアに乗っていったから、お昼前には到着してしまった。

 空からって凄まじく速いんだよな……馬なんかとは比べものにならねえ。

 

 真っ先に冒険者ギルドへ向かいパウルさんに状況を報告する。

 遺跡のダンジョンで起こったことはそのまま伝えるか悩んだけど……死人使いの魔法使い――ネクロマンサーの狂人がいたと報告を行うことにした。

 俺の作ったシナリオはこうだ。

 狂人と会話ができなかったため、詳細は不明。

 しかし、ピピンがダンジョンに連れ去られていたことから、恐らく人攫いの首謀者はこの狂人である。

 話を聞いたパウルは、調査依頼なのにそこまで体を張ったことに感激した様子で何度も頷きを返していた。

 

「報酬を調査から事件の解決に変更したいところですが、ピピンさんの事情から間接的な推測となってしまいます」


 パウルはすまなさそうに頭を下げる。

 

「いえ、通常の報酬を頂ければ、当面生活していけますし」


 俺が応じると、パウルは「少々お待ちください」と席を立った。

 しばらく待っていたら、彼が戻ってきて嬉しい提案をしてくれる。


「一か月様子を見させてください。人攫いが発生しなくなっていれば、今回の事件は解決したものとして扱わせて頂きます」

「それは、えっと……」

「一か月後、事件の根本解決の報酬をお支払いいたしますということです」


 パチリと茶目っ気たっぷりにウインクするパウル。


「ありがとうございます!」


 心ばかりの礼を述べ、調査報酬を受け取った俺は意気揚々と冒険者ギルドを後にする。

 この後、ピピンと一緒に昼食を摂り、彼女と別れる。別れ際、彼女は何度も俺たちに礼を言っていた。

 もちろん紳士な俺は彼女のパンツのことには触れていないぜ。

 

 農具をたっぷり時間をかけて満足するまで物色した後、プリシラとイルゼと共にようやく愛しの我が家に帰ることとなったのだった。

 

 ◇◇◇

 

 クアクアの背に乗り、畑の近くに降ろしてもらう。

 先日芽が出始めた愛すべき植物たちはスクスクと育っていて、もう手の平くらいの高さまで成長していた。


「うんうん」


 その場でしゃがみ込み、緑色の芽をじーっと見つめ悦に浸る。

 いつまでも見ていたいが、先にやらなきゃならないことがあるんだ。

 

 それは……。

 放置していた家畜のグアッガの様子を見ること。

 飼い葉はいくらでも食めるようにしていたから大丈夫だとは思うんだけど……。

 

 馬一頭入るのがやっとといった手作りの厩舎へ行くと、グアッガは元気に「くあっが!」と嘶きをあげて俺を迎えてくれたんだ。

 よかったよかった。

 グアッガの背中を撫で、水桶の水を替えてやる。

 

 いろいろあったけど、無事お金も手に入り結果万歳だ。

 これでしばらくは穏やかな日々が続くと思っていた。

 

 事実、帰宅してから一週間はプリシラが三度、イルゼが二度、大破壊を行おうとしたこと以外、ゆっくりとした日々をすごしたんだ。

 だが……今朝、外に出ると……。

 

「な、なんじゃこらああああ!」


 イルゼとプリシラに種を撒いてもらった箇所がおかしいことになっている!

 スクスクと種は芽になり、草本になりと成長していたんだけど、何がどうなってこんなことに……。

 

 俺が担当した中央部分は収穫の時期が楽しみな小麦が成長してきている。

 しかし、右と左は――。

 

「リンゴかこれ?」


 茫然と呟く……。

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