第五章 神隠し

3


 先程の話し合いで、駄菓子屋に行く事となった。

 話し合いは約四十分ぐらい続いて、今は一時半になっていた。

 大広場も四度も行くとなると、もう慣れた。

 当然、未だに兵士が聞き込みをしている最中であったが、それを素通りした。

 何もなく、駄菓子屋に着くのだろうか。

「そう言えば……君だよね?」

 僕は唐突に言ってしまった。

「ん?」

「何?」

「どうしたの?」

「あらあら~」

 四人の女の子が歩いている時に返事を返した。

 友夜は嬉しそうに旅介にすり寄る。

「友夜ちゃん! 何しているの、近付き過ぎ! 離れて」

「良いじゃ、ありませんの~こうも異性の人と接する機会なんて、滅多にありませんから。何、静ちゃん……嫉妬なのかしら~」

 友夜はニヤけながら言う。

「もう、友夜ちゃん、ふざけないでよ。りょ……旅介とは……まだだよ!」

 静は慌てて、説明する。

 静と僕は、時森家のお嬢様と執事の関係なのだろうか。

「だったら、良いじゃありませんの。ふっふふふ」

「友夜、悪ふざけは、これぐらいにしろ。私達は、そんな話をする為に出た訳ではないぞ!」

 先頭を歩いていた飛鳥が振り向き、怒鳴った。

 飛鳥も当然ながら制服を着ている。

 友夜の波動でびしょ濡れになったが、飛鳥も波動で服を乾かす事が出来るので制服のままで出たと言う事。

「あらあら、飛鳥ちゃんに言われては仕方がないですわ。すいませんわ、旅介さん」

「……あぁ、別に良いよ。はは、賑やかだね。静達は」

「そうだよね~長い付き合いだし、はっははは! 少年よ、昔の話でも聞くかい?」

「縁! 其れ処じゃないだろう、駄菓子屋に行くんだろうが! 全く……お喋り好きな奴だ」

 飛鳥は腕を組み、溜息を吐く。

「別に良いよ。飛鳥の言う通りに、早く行こう!」

 縁は強引に話そうとするので。

「分かった。歩きながら、語るから」

 と言った。

「縁ちゃん、良いですわ」

 友夜は嬉しそうにしていた。

「飛鳥……どうしよう?」

「はぁ……好きにさせて置け。さぁ、行くぞ」

「あっ、はっははは……」

 飛鳥は呆れているのか、津々と歩いた。

 静は活き活きとしていたと言うより、疲れていた。

「さて、友夜ちゃん。私達の出会いから話そうか」

「そう、ですわね。しかし……この場に居ない人まで話さないといけませんね」

 友夜は暗い表情をした。

「まぁまぁ、取り敢えず、歩きながら話すから、行こう!」

 縁は明るく言い、歩き出した。


 幼馴染みの過去。


 縁は歩きながら語り出す。勿論、友夜ちゃんと一緒に。


 時は十年前。

 勿論、戦争が起きる前の話。


 飛鳥と縁は、元々一緒に道場で修行していたので、本当に長い付き合いだ。

 静には、もう一人幼馴染みが居る。

 計四人だ。

 日下部家の縁、朝霧家の飛鳥、朝倉家の桜とその付き人の友夜。朝倉桜と言う人はまだ会った事はないが、どんな人なのだろうと気になった。

 その話を聞いている静は逃げるように早走した。

 まるで「桜」と言う人を嫌っているかのようだ。

 

 幼馴染みは、道場で出会った。


 道場って言うのは、朝霧家の道場である。先程、作戦会議をしていた所。

「所で、静達は……こんな幼い頃から、『波動』を使ってたの?」

 1880年だから……十年前か。

 静達の年からすると、五、六歳か。

「そうだね。私達を集めたのも、当時の時森家の領主様だよ。それに……」

 縁はニコヤカに言い澱み。

「それに?」


「衝撃的な出会いだったね~ねぇ、友夜ちゃん」


「えぇ……そうですわね」

 何故か暗い……

 縁は相も変わらず話を続ける。

「まぁ、出会いはどうあれ、私達は『波動』の特訓をして来た。静ちゃんも含めてね」

 そしてその後、戦争が起きた。

 縁が言っていた、衝撃的な出会いってのは、「桜」が絡んでいる。

 そして、僕は縁と友夜ちゃんの話を聞いた。


1880年、春頃、朝霧家の道場で白衣を着た長身の男性と胴着を着た男性が話をしていた。

「本当に宜しいのですか? まだ、幼いですけど……」

「あぁ、なるべく早い方が良い。幼い時期に物凄い能力を解放するかもしれんからな。では、頼むぞ」

「はい、では」

「あぁ……」

 長身の男は眼鏡を掛け、

「頼む……ぞ」

「はっ、責任を持って、お預かりします」

 そして、白衣の男は去って行った。


 道場には幼い子供が五人居た。全員は胴着を着ていた。

「こんにちわ」

 長い金色の髪の少女が口を開いた。

「おーっ! 声も可愛い! こんちわ!」

 赤い髪の少女がたたたと走り出し、金色の髪の少女に近付いた。顔を近付けながら。

「……うっ!」

「おい、驚いているだろう! 離れろ!」

 銀と紫が混じった長い髪の少女が、赤い髪の少女の首根っこを掴み、突き放す。

「うわっ!」

 赤い髪の少女は驚きの声を上げた。

「はぁー全く、お前は……失礼過ぎるだろう! すまない」

 銀と紫が混じった長い髪の少女が頭を下げた。

「いえいえ……ワタシは大丈夫です」

「そうか。じゃ、改めて、私は朝霧飛鳥。朝霧家の一族で、時期当主を目指している。宜しく頼む」

「それは……ごていねいに。ワタシは時森家の一族で、名を静と申します。宜しくお願いします」

 静は顔を赤くしながら頭を下げた。

 猫耳のようなヘアースタイルで可愛いらしく。

「時森家? 領主様の子供。それはそれは、失礼しました。今後共、宜しくお願いします」

 なんか言葉が変になっていた。

「飛鳥、なんか変だよ。はぁ~全く。私は日下部家の日下部縁、静ちゃんか~なんだか……面白くって……じゃなくて、仲良くなれそうだね~」

 縁はニコニコと笑っていた。腕を頭の後ろに組んで。


「あらあら、楽しそうですわね~次はわたくしですわね」


 黒髪の少女が自前の扇子を開き、口許を隠し言った。

 髪は長く、腰まである。

 前に出て、扇子を閉じ微笑みながら言う。

「わたくしは、朝倉家で付き人をやっている、友夜と申します。以後お見知り置きを」

 そして、ともは友達の友で、よは、夜空の夜と書いて、友夜と申しますと説明するように言った。

「後、桜ちゃん!」

「ぐ……!」

 友夜はもう一人の少女に声を掛けた。

 どうやら、物陰に隠れていて見えなかった。

「もう一人、居たなら、早く言ってよ。む~」

 縁が叫んだ。

「はぁ~もう桜ちゃん……まだ迷っているの。もう決まった事なんだから、早く来て下さいまし。わたくしは桜ちゃんの付き人なんですから。面倒を見るようにと言われているんですから……手間を掛けさせないで下さいまし!」

 友夜はもう一人の少女を無理矢理に連れて来た。

 そして……

 中に入り、三人の元へ連れて行った。

「ほう、飛鳥と同じ背だね」

 縁がそう呟き、飛鳥は……

「朝倉家と言ったな……まさか」

「えぇ、この方が朝倉家の当主の娘、朝倉桜ちゃんですわ」

「おい、私は……」

 何故か緊張気味だった。

「大丈夫だよ。えっと……みんな良い人だから」

 静は可愛く首を傾げて言った。

「……ありがとう。では、私は朝倉家の朝倉桜。宜しく」

 と自己紹介をした。

 茶色の髪で、鋭い目をして、少し怖そうな存在だ。

「うん、宜しくね。ワタシは静です」

 静は笑顔で言った。


「かっ、かかっ、可愛いー! うん、宜しく!!」


 桜は、静に抱き付く。

「あらあら、早速、友達になれましたわね。良かったですわ」

「あぁ、宜しく頼む」

 飛鳥が近付き、手を出した。

「……くっ!」

 桜は機嫌が宜しくないようだ。

 静から離れて、桜は飛鳥を睨む。

「何だ……」

「……あっ、すまない。なんか馴れ馴れしかったか。しかし、お前も此処で修行をするのだろう。だから、仲良くする事だ。良いな!」 

 と飛鳥は腕を組み言った。そして……


「ふっ、ふざけないで、私は朝倉家の一族、対立関係にあった一族と仲良くする気はない」

 

 桜は飛鳥に向けて強気で言う。

「桜ちゃん、それは……もう昔の事だよ。なんで、そんな事を言うの」

「……ふっ、対立か……難しい事を言うのだな。まぁ良い、お前がそう言うのなら、そうすれば良い。ただし」

 飛鳥は目を閉じ、少しの間が開いた。

 そして

「朝霧家で修行をするんだ。だから、私の言う事には従って貰うぞ。良いな! なんて言おうとも、口答えは一切聞かんからな、覚悟して置けよ」

「……くっ、おっ、お前、嫌いだ。良いだろう、絶対に強くなって、お前を見返してやる!」

 桜は息巻いた。

「あらあら、仲良くなる筈が……怒涛どとうのライバル展開ですわね~」

 友夜はニコッと笑って言った。

「駄目だよ。喧嘩しちゃ! みんな、仲良くしようよ」

「そう、そう。強くなるのは良いのだけどね~目的を忘れずに」

 それを聞いた少女達はなんの事なのか分からずにいた。

「あの……静ちゃん。これから宜しくね」

「うん!」

 桜は静と握手をした。


「おやおや、君達! もう仲良くなったのか。それは、嬉しい事だ」


 すると、道場に別の人が入って来た。

 胴着姿の男だ。

「父上! はい、今から教えを始めます」

「ふむ、そんなに慌てなくても良い。そして、簡単に得とく出来るものじゃないから」

「はい、分かっています。厳しく行くつもりです」

 飛鳥は父親にやるべき事を話した。


「あの……ちょっと、宜しいですか?」


「!」

 ふと、声を掛けて来たのは桜だ。

 何やら真剣な表情をしていた。

「はい、どうしましたか?」

「……良い……のでしょうか?」

 桜は口籠る。

「ん、なんだ、さっきから!」

「これこれ、怒鳴らなくても良いだろう。怯えてしまうだろう。……でっ、私に何か言いたい事があるのかな?」

 飛鳥の父親は優しげに自問自答する。

「……すいません。わっ、私は……その此処に居て良いの……と思っただけです。私は朝倉家ですので……」

 桜は泣きそうな表情で言った。

「そんな事か。心配は要らんよ。対立問題は昔の事だからね。気にせんでも良い、気にしないでみんなと仲良くすると良い」

 飛鳥の父親は優しげに微笑む。

「ありがとうございます。分かりました」

 桜は涙をこらえて言い、友夜の所に戻った。


 そして、私達は「波動」の修行をして行く事になった。


 まぁ、一日や二日で波動が使える訳もなく、日々苦労の日々。

 飛鳥の指導は事細かいし、厳しかった。

 その後、戦争が起きた。

 私達もとても、思いもよらなかった。


 静ちゃんにとっても……哀しい結末。

 

    

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