第三章 過去との追究
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朝が近いのか眩い光りに僕は目が覚めた。
ベッドから身を起こすと少し重みを感じた。すると、窓から太陽の光りが照らされて、金色の髪が光って見えた。
……静、ずっと僕の看病をしてくれていたのか。
椅子に座ったまま頭をベッドに寝かしていた。
「……静、ありがとう」
僕は静の頭を撫でた。本当に猫みたいなヘアースタイルだな。
僕の傷は一日で治癒したのか、痛みがなくなっていた。
波動か……
「……旅介、ふにゃ~」
「何! 寝言か?」
静の目が開き、旅介と目が合った。静は呆然と体を起こすと、旅介は目を反らす。
「旅介、起きたの! もう……大丈夫なの?」
「……うん、大丈夫だよ……。それと……静、服を戻してくれないかな……」
静の服は制服を着ていて、その上に白衣だが制服のボタンが取れていて、お
決して、僕が何かやった、って訳ではない。
「どうしたの……?」
静は顔を近付ける。僕が状況を説明する。
静は大慌てで服を戻す。
旅介はベッドから立ち上がって肩を回した。
「ふう~怪我は治ったようだな。……情けないな、僕……」
「旅介、もう平気なの?」
「はい、大丈夫みたいだ。今日も、頑張りますかな!」
旅介は上着を手に持ちそれを回しながら着た。
「さぁ、行きましょうか」
「うん!」
静は僕の手を取り、部屋を出る。
そして一日が始まる。執事としての仕事を慣れなくちゃいけない。
「おはようございます。旅介君に、静お嬢様」
部屋を出ると、香さんが階段を上がって来る所だった。
「おはようございます、香さん」
「……おはようございます……」
静も挨拶を交わすが緊張気味の声だった。
「どうしたの」と訊きたいが、本音を聞くのは止めて置こう。
「はい、おはようございます。静お嬢様。制服と白衣の替えがありますので、直ぐに着替えて下さい」
「……はい。旅介……また後で」
僕は「うん」と返事し手を振る。
静は頬を赤く染めていた。
「旅介君、女の子の素顔をジロジロと見る物ではありませんよ」
と香が注意する。
「すみません!」
「もう、良いのですか? 昨日は大変でしたね。事の事情は聞きました。……でも良かった。旅介君が無事で。だから言ったのですよ。何かが起きるから気を付けて下さいと」
心配そうに旅介を見ていた。
僕は「言いましたっけ」と笑顔で言った。
「言いました! 色々と大変になると思いますから頑張って下さいね。くれぐれも迷惑にならないようにして下さいね、と。あれには、何かが起きるから気を付けてね、と言う意味も込めてました。はぁ~こんな事になるのなら、私も付いて行けば良かったと、後悔しています」
香は頬に
「はは……すいません。自分、記憶がないもので、其処までは考え付きませんでした」
「まぁ、無理はしないで下さいね。体が大事ですから」
「はい」
香さんは笑顔で返し、階段を下りて行った。
僕も仕事しなきゃ。
旅介は部屋の掃除を始める為に掃除用具を取りに一度下へ下りる。
仮面の男を思い出す。
確か、神森家の名を言っていたような。しかも夢で見た奴と同じだったな。
「うん……貴方?」
ふと僕に声を掛けたのは巫女服を着た大人びた女性だ。黒髪のショートヘアーだ。
僕とは初対面の筈だよな。
「あの……どちら様でしょうか?」
僕はつい訊いてしまった。どうしよう……
「……ごめんなさいね。名も名乗らずに……失礼よね。ふふ、私は時森雫。時森家の長女よ。成治達の姉。気軽にお姉様と呼んでも良いわ!」
雫はウインクして言った。
この人が静のお姉さん。
「はっ、初めまして……僕は旅介です。時森家の」
「慌てないで。事情は全部知っているから。静の事で、お礼を言いたいだけだから」
「えっ? いえいえ、滅相もないです。逆に静を危ない目に遭わせてしまい申し訳ありません」
旅介は雫に頭を下げた。
「止めてよ、そう言うのをされると、気分が悪くなるから……。危険を顧みず、助けてくれたのでしょう。ねぇ~」
雫は頬を緩ませ、問い掛けて来た。
「まぁ、今回も静は『冒険だよ!』と言い、君を誘ったんでしょう。はぁ~あの娘は時折心配なのよ……」
「はぁ……」
確かに、静は逃避行に走るが。そんな事まで、お姉さんは見抜いているのか。
「でっ、怪我とか大丈夫? 風の波動で斬られたのでしょう」
「……はい。傷は静に治癒の波動で治して貰いました。もうすっかり治りました。痛みも、ほらっ!」
僕は肩を回す。
「分かったわ……もう良いわ。あの娘がね……」
雫は哀しげな表情を見せた。
「あの……どうしました?」
「えっ! …… 何でもないわ。えっと、旅介君ね。君に一つお願いがあるの」
「はい、何でしょう?」
お姉さんは真剣な表情で僕を見ていた。
何か重要な話なのかな。
「静と付き合って行くのなら、『波動』について詮索したら駄目。少なくとも静の前ではね。決して、ね」
「…………はい? どうして、ですか?」
「今は私の口では……あの娘は波動を嫌っているの。それしか、言えない。ごめんね……旅介君、静の事、宜しくね」
雫は旅介の肩を叩いて、玄関の方へと歩いて行った。
「お姉さん、何処へ?」
「仕事よ。暫くは帰らないから……成治達にも宜しく言っといて」
雫はドアを開け、行ってしまった。
静は『波動』を嫌っている。そんな言葉が頭を駆け巡る。
何があったのか気になった。
「なーい!」
何だ、今の声。
階段を上がり、声がした方へと向かう。
階段を上がると、静の部屋で静が騒ぐ声が響いていた。
どうしたんだろう。
静の元へ行く。
「どうしたの? 大声を上げて?」
「……ひっ、旅介! 大変なの。ピッコロがないの!」
静は僕の腕を掴んだ。
……ぴっころ? なんの事か分からなかった。
静は深く消沈して、僕は事情を知るべく静の話を聞いた。
事情は発明品がなくなっていたと言うのだった。
そう言えば「ピッコロ」と言う発明品を見せて貰った事がある。確か、銀色の箱。
「旅介、あった?」
僕は今、探し物をしている。改めて見ると凄い部屋だ。静の父、時森龍之介を捜す発明をしている。
「ないな……本当に覚えてないの? ……何処へやったか」
自称発明家である。散乱しているのは、まだ使えるからと捨てないのだ。
「嘘……どうしよう……まだ第二作なのに……」
「おかしいな~一度見せてくれたよな……」
僕はあの日の事を思い出す。確か、静の発明の話を聞いていた事は覚えている。その後、静は寝てしまったような。
「旅介、どうしよう」
「……うん、部屋を片付けよう!」
静は驚き沈黙した。僕は静の部屋を見回す。ベッドと机やテーブルの上にも機械の塊や箱が散らかり、溜息を吐いた。
「さて、静。やりますよ」
「……うん。でも……旅介に見せたくない物もあるし……」
静は指を絡めながらそわそわしていた。僕は「探し物があるんだろう」と言い、静は恥ずかしげに俯く。
「分かった……わ」
こうして静の部屋の片付けに講じる。ガラクタは段ボールに入れて保管する形にして、服やその他諸々は静が直している。
それに乗じて、ピッコロを探す。
「ないよ……ピッコロ~」
片付けに講じる間、ぶつぶつと呟く静の声がした。
「はぁ~そんなに大切な物なのか」
小さい声で言う、旅介。
「旅介、終わったよ!」
「あっ! あぁ……そうか」
静に言われ、片付けが終わった。
大分片付いたようだ。
それでもピッコロは見付からなかった。
「あらがた、終わった……が」
「……うん。でも、凄い。綺麗に片付いたよ」
段ボールを重そうに持っている旅介は汗だくになっている。
それを部屋の隅に置き、肩を回した。
そんな大層なもんじゃないだろう。普通に片付けをしていただけだから。
ふと、懐に何か入っている事に気付いた。
「ん? なんだ……」
僕はそれを取り出した。
「銀の箱だ」
おやおや、探し物の件は解決したかな。
「静、あったよ!」
静は「えっ!」と振り返ると、驚きの表情で駆けた。
僕は静に手渡した。
「良かった……何処にあったの?」
そのどうしよう。僕は、いつの間にか執事服の裏ポケットに入れていたとは。
「はは、なんか、僕のポケットに入っていたらしい。どうしてだろうね……」
静は怒り出すと思ったが「そうなんだ」と言い、ピッコロを抱き締めた。
そんなに大事な物なんだね。と心で思った。
旅介はふと微笑んだ。
静は安心した表情で笑っていた。そう言う時が可愛いと思った。
こうして静の部屋の掃除が終わり、部屋を出た。
静の部屋を出ると、普段着の礼司様が二階に上がって来る所だった。
「礼司様、おはようございます」
「おっ! 旅介君、もう起きて大丈夫なのか?」
礼司は心配の表情だった。
「すみませんでした。僕のせいで……静を危ない目に遭わせてしまい……」
旅介は礼司に深く頭を下げた。
「……旅介君、止め給え。旅介君が謝る所はないぞ」
旅介は何も言わずいた。礼司は笑顔で旅介の肩に手を置いた。優しい言葉だけじゃなく、労いの言葉を掛けてくれた。
「君が居たからこそ、静が無事だった。ありがとう」
「礼司様、ありがとうございます」
「うむ、これでこそ旅介君じゃ。これからも静を頼むぞ」
「はい!」
旅介はいつもと同じ真剣な顔になっていた。旅介は時森の街が平和であるよう願っていた。
礼司は急いでいるのか「では」と言い、階段を下りて行った。
僕の様子を見に来たのではないかと思った。
しかし成治様はそうは思わないだろう。静が危ない目に遭ったなんて知れば、僕はどうなる事やら、想像すると怖い。
「はぁーっ、先が思いやられる」
やはり、普通に執事の仕事をして記憶が戻るのを待つか。
いやいや、それじゃ、何も解決しないだろう。
「旅介君?」
突然に後ろから声がした。振り向くと和風のメイド服を着た女性が居た。
それは香さんだった。
「はっ! 香さん、いきなり現れないで」
「ごめんなさい……」
この人は時森家のメイド長をしている香さんだ。和風の感じの服を着ていて心優しい女性だ。
「あら、嬉しいわね」
「はっ……何が……ですか?」
ふと、奇妙だと思った。
香はニコッと笑い「旅介君に言い忘れた事があって」と言った。
「はい、何でしょう?」
「今日の執事の仕事は良いわ。ゆっくりと休んで下さい。さっきも言いましたが、体が大事ですよ」
と笑顔で言い、階段を下りて行った。
「はい……ははっ、さっき、心を読んだのかな……?」
旅介はドアの前にある手摺に寄り掛かる。そして、考え事をする。
昨日の事は何だったのだろうか。あの仮面の男は僕を知っているようだった。
確か『神森聖夜』って言っていたな。記憶がないとはいえ、今日もこの街の事を調べるしかないな。
「旅介、こんな所に寄り掛かると落ちるよ」
「うん~しかしだな……」
「旅介、酷いよ! 話し掛けているのに!」
「えっ! うわっ! 静、居たのか?」
旅介は驚きの余りに手摺から落ちそうになった。
「だから、言ったのに」
「良いから、早く助けてくれ」
そして、静に引き上げて貰い、旅介は「死ぬかと思った」と息を荒くした。
「あっ、はっははは! 何をやっているの」
「いや、はっははは」
僕は誤魔化しながらゆっくりと立ち上がる。
改めて、紹介しよう。
この少女は時森静。時森家の次女だ。見た目は金色の長い髪を靡かせて、白衣を着ている。自称、発明家である、変人だ。
「旅介、なんか失礼な事考えてない?」
「気のせいだ」
静は普段自室で発明をしている。皆が言うには博士を気取っている。
外見では猫耳みたいなヘアースタイルでとても可愛いらしい。街の人々とは仲が良い。
「むう~」
「どうしたの、静?」
静は不機嫌気味だった。何で怒っているのかな……皆目見当が付かない。
そう言えば、香さんが言っていたな。ゆっくり休んでって。
「そうだ! 静、今日も街に出掛けよう」
「うん!」
旅介は静に手を差し出し「行こう!」と言った。
十月十二日、日曜日。
勿論、十年前の戦争に関する事を調べる為であり、僕自身の記憶の手掛かりを探す為でもある。
こうして、静と街に出掛けた。
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