第二章 噂の執事と仮面の男
3
その頃、成治は悪意を追っていた。
少々疲れが出ていた。
「はぁ……こっちか? さっきの波動の感覚は一体?」
この街で何が起きているのだ。二つの波動を感じたが、直ぐに消えた。
「うん!」
成治は商店街に駆け着けると、愕然とした。
「……姉貴、帰って……たのか?」
ふと前に居たのは巫女姿をした女性だった。手にはお札のような物を持っていた。
「あらっ、成治……どうしたの。そんなに慌てて」
巫女の人はお嬢様風に口をお札で隠して成治を見ていた。
なんだ……この女、誰だ。
「気持ち悪いぞ! はぁ……はぁ、悪意を追って来たのに、なんで、姉貴が居るんだよ」
「あっ、あれか。あれは、私が浄化しておいた」
「そうか……」
成治は疲れ果て、倒れた。
「気を抜くな。成治、まだ来るわよ!」
黒い髪が靡いた。
「あぁ、分かって、るよ!」
素早く立ち上がり、刀を構えた。
そして、夜になり、悪意の力が強まる頃合いだ。
「姉貴! 悪意が増幅しているぞ。どうする?」
「そうね。恐らく……別の所で発生したのが、此処まで溢れて来たのね。これは……厄介ね」
悪意の塊が一個体に集まって、人の形となって現れた。
仮面の男の姿で現れ、体の周りには黒いオーラが充満していた。
「波動の気配がしたが……お前達か」
仮面の男は挑発するような態度で言った。成治は馬鹿にされ、苛っとしていた。
「やれやれ、どいつも……こいつも、礼儀がなってねぇーなぁ! 姉貴は援護を頼むぞ」
成治は刀を前に出し、呪文を唱える。
「波動は我にあり・波動は風」
成治の周りに魔方陣が現れ、成治を包み込んだ。
眩い光りが消えると刀の形状が変化していた。長く細い刀だ。それは軽く、動きに無駄のない代物だ。
「成治! 駄目よ、波動を使っちゃ!」
「これは、浄化作業だ。掟に反するものじゃない。だから、援護は任せるぞ」
「はぁ~全く。簡単に言ってくれるね。悪意のレベルは半端ないのよ」
成治は素早く動き、一瞬で仮面の男の懐に潜り込んだ。
「これで終わりだ。食らえ、居合い斬り」
細長い刀が横から斬った。刀から発された風力が仮面の男を消し去るように、消えた。
「がーっ!」
霧のように消えたと言った方が良いだろう。
「……やったか?」
成治は恐る恐る、見回す。
すると……
「成治! 危ない、後ろよ!」
「……えっ!」
「何をやったって。お返しだ、烈風斬」
小さな風でも人を切り裂く事が出来る。冷たい風が成治を切り裂くように包み込んだ。
「があーっ!」
成治はそのまま吹き飛んで壁に激突した。
何が起きたのか、見ていた巫女の人にも分からずにいた。
「……、っぐ」
巫女の人は動きたくても、動けない状態だ。巫女は結界術で対抗しようとしていたが、強大な悪意で動く事も出来なかった。
「こんなものか。やはり、凡人だな……この街の人間は。ふっはっははは、弱い。さて、次は……お嬢さんか」
仮面の男は巫女の方を向き、言った。
そして、走り出した。
「死ね、風刃斬!」
仮面の男は風を腕に発生させ、巫女の方に向かう。
「くっ!」
巫女は覚悟を決め、構えた。
その時、一人の少女が叫んだ。
「風力浄化!」
そして、仮面の男の技が掻き消されると同時に大きな風が吹いた。巫女と仮面の男は吹き飛ばされた。
「……いっ、たい!」
仮面の男は吹き飛ばされた瞬間に消えた。文字通りに浄化された。
「全く、容赦ないね~」
ヘラヘラ口調で倒れている成治の所に小さき少女が駆け寄り言った。
「ほう、これは酷い」
「仕方がないだろう! 人が危機だったのだ! 手加減出来る状況じゃなかったろう。それに街中で人払いの結界が張られていたから、危害が最小限で済んだから良いだろう!」
制服を着た二人の女の子が言い争いを始めた。
制服はピンク色のブレザーと黒いスカートを着用。静と同じ物だろう。
女の子の一人は背が高く、銀と紫色が混じった髪の女の子。髪は長く、前髪はお下げである。もう一人の女の子は背が低く、赤い髪の女の子。髪は短く、ショートヘアーである。
その女の子の二人である。
「それに手遅れたのは、縁がもたもたしているからだろう! 少しは反省したらどうだ! その方向音痴を早く治せ!」
飛鳥が縁を怒鳴るように言った。
巫女の人は離れた所で腰を抜かしている状態で、二人の会話を聞いていた。
「いや~はっははは。飛鳥、余り……声上げると折角の結界なのに、誰かに気付かれるよ。しっ、かたがないじゃない、他の所でも悪意が発生しているんだよ! 迷いは必然だよ」
「はぁ……お前には、呆れる程に、能天気だな……」
飛鳥は小さく息を吐いて、巫女の所に向かう。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
飛鳥は巫女に手を差し伸べる。そして、巫女は「ありがとう」と言い、手を取り立ち上がる。
「良く頑張りましたね。後、数秒遅かったら危ない所でした」
飛鳥は安堵し、縁の方に目を向けた。
「縁、そっちの人は……どうだ……」
不安ながら、訊く。
縁は飛鳥の問いに応えた。
「分からない~息、しているのかな……この人?」
縁は瓦礫に埋もれている成治を見た。
瓦礫を退かし、成治の姿を確認する。
「あらら、ズタズタだね。流石に風の刃をまともに食らえばな……そうなるよね~」
成治の服はズタズタに切り裂かれ、体中に多数の傷が出来ていた。
「あの……生きて、ますか?」
縁は成治の体をつつく。
「……っぐ、あの、仮面野郎……」
「っあーっ!」
成治は気付いて、呟いた。それに驚き縁は変な声を上げる。
「はは……どうやら、生きているみたいだね。飛鳥、男の人も大丈夫だよ!」
縁は大きな声で言った。
「そうか。巫女の人は怪我とかはないですか?」
飛鳥は再度訊いた。
「えぇ……大丈夫よ。少し打っただけだから。ありがとね、助けてくれて」
巫女の人は微笑みながら頭を下げた。
「いえ……とっ、当然の事をしただけですから。頭を上げて下さい」
飛鳥は困った表情をして、縁の方に目を向けた。
「こっちも大丈夫だ、縁。さてと、最後に」
飛鳥は何もない所から刀を出し、全てを薙ぎ払うように周りにある悪意を全て浄化した。
「ふう……浄化完了!」
飛鳥はそう言い、刀を消した。
安心して、負傷した二人の内一人は無傷とはいかないが、無事だった事に安心した。
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