第252話 イカ焼き


翌日、アクシタス国にある港から、シアレパス国へ行く船に乗って、港町ラブニルへ行く。


船は初めて乗るから、すっげぇ楽しみにしていた。

常に揺れているから慣れねぇ奴は、三半規管って所がヤラレて気分が悪くなるらしいが、俺は特にそう言うことにはならずに、甲板に出て風を感じながら海の様子を見ていた。


船のへりに腕を置いて海面を見ていると、すぐ下になんか泳いでるのが見えた。

それが勢いよくジャンプして、弧を描いて海へ戻っていく。


綺麗だな……


こんな景色を、アシュレイは見たことあんのかな?

見せてやりてぇな……

見たら、凄いなっ!綺麗だなっ!て俺の方を向いて、アシュレイはきっと微笑むんだ……


そんな風に思って眺めていると、ドレスを着た女に話しかけられた。



「凄いですね!あれ、ドルフィーって言うのですよね?!なかなかああいう風に飛んでくれないらしいですよ!」


「え?……あぁ、そうなのか?」


「運が良かったです!あ、また飛んだ!」



ドルフィーがまた俺の目の前をジャンプしている。

それも何匹も競うように。



「凄い!こんなにいっぱい見られるなんて!あ、知ってますか!?」


「え?何がだ?」


「ドルフィーがジャンプしているところを一緒に見たカップルは、ずっと離れる事なく結ばれるんですって!」


「そうなんだな。」


「もし私達がカップルだったら、結ばれる運命だったんですよね!」


「は?何言ってんだ?」


「もぅ、そこは「そうだな!」とか言って微笑むところですよ!こんなに可愛い女の子が声をかけてるって言うのに。つれないなぁー。」


「ハハ……何言ってんだか……」


「あ、笑った!ねぇ、貴方は一人で旅をしているの?何をしにシアレパスに行くの?」


「急に馴れ馴れしくすんだな……」


「良いでしょ?ラブニルまであと2日はかかるのに、何もする事がなくて暇なんだもの。貴方もそうじゃないの?ねぇ、一緒にお話しましょう?」


「俺は別に暇とかそんなんじゃねぇ。話し相手が欲しいなら、他を当たったらどうだ?」


「なんでそんなに素っ気ない態度を取るかなぁー?あ、もしかして……っ!」


「……もしかして…なんだよ?」


「男の人の方が良いって事なの?」


「はぁ?!違ぇよっ!」


「あ、いえ、否定している訳ではないのっ!最近はそう言う物語とかも多いし、それを見て楽しむ腐女子ってのもいるらしいし、今時BLとか、そんなに珍しくないことだから、気にしないで良いと思うわ!」


「え?!ちょっとさっきから何言ってんだ?!違うって言ってんだろ!」


「ノエリア、どうした?!」


「あ、フラヴィオ。」


「大丈夫か?!こいつに何かされたのか?!」


「はぁ?!」


「違うわフラヴィオ、私はただ話をしていただけ……」



いきなり船が大きく揺れ出した。


立っているのが困難な位になって、俺は船のへりを掴んで何とか転ばずにすんだけど、俺に喋りかけていたノエリアと呼ばれていた女は足元がふらついて、後ろに倒れそうになっていた。


咄嗟に手を伸ばして、ノエリアの腰を支えて倒れないようにする。



「大丈夫か?!」


「え、えぇ……ありがとう……」



抱き寄せた感じになったのを見て、フラヴィオと呼ばれた男が慌てて俺とノエリアを引き剥がす。



「何してるんだ!触るなっ!」


「フラヴィオ!彼は助けてくれたのよ!失礼な事を言わないでっ!」


「しかし……」



言ってるそばからまた船が大きく揺れた。


船員がバタバタと船頭へ集まって行く。何事かと見ていると、どうしよう、ここにはいない筈なのに、等と聞こえてきた。

それからすぐに艦内放送で冒険者を求める声が響いた。


なんか魔物でも出たかも知んねぇ。

そう思って、俺も船頭へ行く。

そこに何故かノエリアとフラヴィオもついてきた。


人々が集まってきて、何事かとあちこちで声があがっている。



「この先にクラーケンがいる模様ですっ!冒険者の方がいましたら、討伐をお願いできませんか?!」


「クラーケンだと!?」


「なんだって!なんでこんな所にクラーケンなんかっ!」


「あぁ、もう終わりだわ……クラーケンに出合って助かった船なんか無いものっ!」


「助けてくれぇっ!」



集まった皆が口々に嘆く様に言い出し、あちこちに逃げて行く様に散らばって行った。



「ノエリア!クラーケンにはどうにも出来ないっ!ひとまずここから離れようっ!」


「ええ、そうね!ねぇ!貴方も逃げた方が良いわ!逃げたところで助かるとは思えないけど、ここにいるよりマシよ!」


「俺はこれでも冒険者の端くれだ。我先にと逃げ出す訳にはいかねぇだろ?」


「それでも……!」



また大きく船が揺れたと思ったら、でっけぇ烏賊みてぇな魔物が突然海面から勢いよく現れた。


大きな揺れに船員達が倒れて、集まってきていた冒険者も何人か倒れて、それから立ってはいるもののあまりのデカさに驚いて動けなくなっている冒険者達もいて、逃げ惑う乗客達が悲鳴をあげて、船上は阿鼻叫喚の状態と化していた。



「でっけぇなぁ。イカ焼き何人分出来んだよ?」



考えたら可笑しくなって、つい笑っちまった。



「アンタ、気でも触れたか!もうどうにも出来ん!逃げてくれっ!」


「アンタは船長か?流石だな。逃げずに操縦に徹しているなんてな。安心しろ。すぐに方を付けっからよ。」


「何を言ってるんだ!うわぁぁっ!もう無理だっ!」


「ハッ!そう言いながら舵をとり続けてんじゃねぇか!アンタのプロ根性には脱帽するぜ!」



言い残して船頭の一番先まで走っていく。


クラーケンは何本もの触手で船を掴んで、良いようにしようとしてるみたいだ。


最大限の雷魔法で、体の中を感電させる。


すると、一瞬のうちに動きが止まった。


掴んでいる触手を剣で切って剥がして行く。


そうしていると、ゆっくりクラーケンがまた動き出した。



「やっぱり雷魔法だけじゃ倒れてくれなかったか。」



ディルクに教えて貰った闇魔法で、体の中を腐食させていく。

俺は闇魔法の相性が悪かったけど、それをどうしても克服したくって、ディルクに頼んで特訓して貰ったんだ。

お陰で難なく使えるようになった。


闇魔法を放つと、クラーケンは苦しそうに暴れだした。

暴れだされると船も揺れちまうから、氷魔法でクラーケンの全身を固めてやった。

これで、動けない状態のうちに腐食されて絶命していくだろう。


まだ触手が船を掴んでいたから、それをまた剣で切って行く。

そうこうしているうちに、腐食がクラーケンの体を侵食していった様だったので、周りの海もろとも固めていた氷魔法を解除して、動かなくなったクラーケンを海底に沈ませた。



「……っし!完了っと!」



切った触手を氷で固めて、纏めて船頭へ持って行く。



「船長!今日はイカ焼きがいっぱい食えるぜ!下足だけどな!」



そう言うと、周りから拍手喝采の嵐が飛び交った。

あちこちから、ありがとう、凄かった!、命の恩人だ、等と口々に言われる。



「凄い……アンタ、何者なんだ?」


「別に何者でもねぇよ。アンタも凄かったな。あんな状態でも舵をとり続けてるなんてよ。尊敬するぜ。」


「それはこちらの台詞だ。アンタ、名前はなんて言う?」


「エリアスだ。アンタは?」


「ジブリルだ。今度奢らせてくれ!」


「ハハ、楽しみにしてるぜ!」



その夜は盛大に船上パーティーが開催された。

勿論、イカ焼きもいっぱいあったし、他にも様々な料理があって、酒も料理も充実していて、客達も歓喜に沸いていた。


色んな人から話しかけられて、終始楽しく酒が飲めた。


酒もあって


旨い飯もあって


楽しく話しかけてくれる人達がいて……


今ここに足らないのは


アシュレイだけだった……







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