第217話 人質
王都コブラルでとっていた宿屋で、エリアスとどうオルギアン帝国まで向かうかを確認する。
グリオルド国で聖女として捕らえられてしまった私は、ガルディアーノ邸一帯は闇魔法で記憶を無くした。
しかし、それ以外に私の回復魔法を見てしまった兵達がいるのは事実だ。
迂闊にナルーラの街に戻る事は出来ないが、私達の装備はガルディアーノ邸にある。
これをどうにかしないといけない。
「もしかしたら、俺は賞金首にされてるかも知んねぇ……」
「そうなのか?!」
「アシュレイがガルディアーノ邸の皆の記憶を無くしたとは言え、俺が兵達に刃向かったのは消える事はない。いつここまでその情報が伝わってくるか、分かったもんじゃねぇ……」
「エリアス……どうしよう?!私が迂闊に回復魔法なんて使ったから……」
「いや、アシュレイは怪我人を助けただけだ。何も悪くねぇ。俺がむやみやたらに兵達を倒していったんだ。アシュレイとは違う。けど、アシュレイも聖女として面が割れてるかも知んねぇ……」
「どうしたらいいかな……」
「明日、王都を離れるか……で、ガルディアーノ邸に潜り込んで、装備を取り返しに行くか。あまり遅くならない方が良さそうだしな。」
「……ごめん……」
「なんでアシュレイが謝んだよ?」
「だって私が……」
「あー、もうそんな事は言いっこ無しな!俺だって、勝手に兵達に攻撃したのがいけねぇんだしよ、あん時は仕方なかったんだよ。な?」
「……うん……」
「じゃあ、今日はもう寝ようぜ。一室しか借りてねぇから、一緒の部屋になっちまうのは悪いけど……」
「いや、それは大丈夫だ。……ナルーラに行って……それからオルギアン帝国まで空間移動で行こうか……上手く取り返せたら良いんだけど……」
それからエリアスとどうやって潜入するかを話してから、それぞれのベッドで眠りについた。
真夜中……眠っていると、微かな声で目が覚めた。
エリアスが何か……言ってる……?
違う……エリアスの荒い息使いが……
「エリアス……?」
「……っう……!……あ……っく……っ!」
「エリアス!」
エリアスは苦しみに耐えていて、言葉を出さない様にしていた。
「エリアスっ!どうしたんだ?!」
「あ……悪ぃ……起こしちまったな……すまねぇ……っ!うっ……!」
「エリアス……もしかして、傷が痛むのか?!」
「……大丈夫だ……っ!」
急いでエリアスに回復魔法をかける。
けれど、エリアスの痛みは回復しなかった……
私はエリアスの汗を拭って、熱くなった体を氷魔法で適度に冷やす。
「すまねぇ……アシュレイ……楽になってきた……」
「本当に?無理して平気なふりとかしちゃダメだからな?!」
「ふりじゃねぇよ……ありがとな……」
私に微笑むと、エリアスはゆっくりと目を閉じた……
きっと今までも傷を負う度にエリアスは、傷が治った後も一人痛みに耐えていたんだ……
その後も汗を拭って、氷魔法で冷やしながら、そっと手を握る。
エリアスは安心した様な表情で眠っていた……
良かった……
ベッド脇に土魔法で作った椅子に腰かけて、そのまま手を握りながらエリアスの体温を確認して体温調整をする。気づくと私もベッドに頭を置いて、いつの間にか眠ってしまっていた……
朝、目覚めると、私は自分のベッドにいた。
「あれ……?エリアス……?」
部屋には既に、エリアスがいなかった。
どこに行ったのだろうとベッドから出ると、エリアスが帰ってきた。
「エリアス……もう大丈夫?」
「あ、アシュレイ、起きたか。昨日は悪かったな。助かった。ありがとな。」
「いつも怪我をしたら一人で痛みに耐えてたんだな……知らなかった……」
「いや、気にしねぇでくれ。体質みてぇなもんだから。もう大丈夫だしな。それより、これ。見てくれ。」
エリアスの手には、ガルディアーノ邸にある筈の装備があった。
「エリアス、それは……?!」
「さっき部屋の外でなんか気配がした感じがあったからよ、出て確認したら、扉の前にこれが置いてあった。置いてった奴が気になって、そこら辺を探したんだけどな、見つからなかった。」
「そうなのか……でもなんで……」
「密かに俺達を助けてくれてる奴がいる……とか?」
「……誰が……」
「……グリオルド国辺りで付けられてたろ?それってもしかして……」
「それは多分、オルギアン帝国の者だと思う……」
「俺達を見張って、手助けしてくれてたって事か?」
「分からない……けど……」
「もしかして……アイツが……?」
「……分からない……」
「まぁ、憶測の域を越えないけどな……そうか……」
「……ディルク……」
思わず戻ってきたピンクの石を握り締めて、微笑んでしまう……
「はぁ……どうやったらアイツに勝てっかなぁ……」
「ん?何?エリアス?」
「言ったろ?俺はアシュレイの事が好きだって。俺、アシュレイと添い遂げたいって思ってんだからな。」
「え……でも……」
「アシュレイの中でアイツの存在が大きいのは分かってる。けど、もしかしたら、アイツとアシュレイは兄妹……」
「エリアスっ!」
「あ……すまねぇ……」
「……違う……絶対に違うっ!」
「悪かった、アシュレイ……」
エリアスが私を抱き寄せようとした。
けれどそれを押しやって、ピンクの石を握り締めたまま、部屋を飛び出した。
「アシュレイ!」
エリアスの私を呼ぶ声を聞かない様にして、空間移動でグリオルド国でとってあった宿屋の部屋までやって来た。
一人で考えられる場所がここしか思い付かなかったんだ……
違う……
きっと違う……
ディルクと私は……
絶対に違う……っ!
ベッドに腰かけて、ピンクの石を握り締めて、ディルクの事を想った……
『アシュリー……?』
頭にディルクの声が届く……
「……っ!ディルクっ!」
『アシュリー、久しぶりだ!』
「本当にっ!久しぶりだ!」
『元気だったか?』
「私は元気だ!ディルクは?声が疲れてそうだけど……」
『色々忙しくてな……』
「……オルギアン帝国の皇帝になったって……」
『知ってたのか?!』
「……うん……」
『アシュリー……会えるか……?会って話がしたい。』
「ディルク……私も……」
不意に扉が乱暴に開けられた。
そこにはグリオルド国の兵達がいた。
足音は一切しなかった……
消音魔法か……!?
「聖女がいた!見つけたぞ!!」
「抵抗するな!こちらには人質がいる!」
「人質?!そんな嘘は通用しない!」
「あのAランク冒険者と一緒にいたアンナと言う女だ!こちらの手中にある!」
「なんだって?!アンナは関係ない!」
「そんな事は問題ではない!捕まえろ!手を触ると大人しくなるぞ!」
あっという間に囲まれていて、アンナの事を言われて抵抗する事も出来ずに、気づくと何人もの手が私の手に触れていた。
ピンクの石を左手で握り締めたまま、多くの情報に頭を占領されて、段々と意識が薄れていく……
『アシュリー?!どうした!アシュリー!!』
「ディルク……グリオルドの……兵達……」
『アシュリーっ!!』
ディルクの声を聞きながら、また私は意識を無くしてしまった……
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