第154話 聖女は
姉上の所から歪みを抜けて帰って来た。
部屋にはゾランがいて、勝手に外出したことを凄く怒っていた。
ゾランにすまないな、と言ったら、またすぐにベッドで寝ろと言われた。
さっき起きたばかりなのに。
仕方なく言われた通り、着替えてベッドに入る。
もうかなり楽にはなってきたのだが、まだ熱があるからと言って、いつまでも俺を病人扱いする。
でも今は、少しだけゾランの言うことを聞くことにする。
姉上の言った事を思い出す。
俺の母は第10夫人ベアトリーチェではなかった。
では一体誰が俺の母親なんだ?
リーザの言ってた弟……
銀髪の母親に連れ出されたのは…弟?
ではその銀髪の女が、俺の母親……なのか?
銀髪の女との間に生まれた子供は優れた能力を持って生まれてくる……と父上は言っていた。
俺の、人の気持ちが分かると言う能力と、人の傷を代わりに自分が受ける能力と言うのは…もしかして銀髪の部族の影響なのか?
逃げた銀髪の女……
それが俺の母親かも知れない……
リーザはそれが分かっていたのだろうか?
しかし、リーザからそんな感情は読み取れなかった。
これをどうやって確認すれば良い……?
銀髪の親を持つ者……
アシュリー……
いや、まだ自分がどうか分からないのに、それを聞くのはどうなんだ?
また銀髪の村に行ってみるか……
そんな事を考えていると、ミーシャがやって来た。
「リディ様!また勝手に抜け出してって、ゾラン様が凄く怒ってましたよっ!私も怒りますよ!プンプン!」
「怖くはないな…」
「えーっ!ちゃんと怖がって下さい!」
「難しい事を言うな。」
「もうっ!ゾラン様の気持ちが分かりますっ!」
「……朝食を持って来たのか?」
「あ!そうです!すみませんっ!」
ミーシャは朝食の用意をしだした。
またベッドで食べる様に用意するんだな。
姉上の所では、結局朝食は食べずに帰って来たから、遅い朝食だが有難いな。
それから食事を済ませ、服を着替えようとしていたら、またゾランがやって来た。
「またっ!抜け出そうとしてますねっ!」
「いや、もうかなり良くなったからな。じっとしていては時間が勿体なくてな。」
「……お薬は飲まれましたか?」
「ちゃんと飲んだぞ。」
「……聖女が帝城に到着しました。」
「そうか。では行くか。」
「判断が早いです。」
「父上に帝位継承の事も確認しないといけないしな。こう言う事は早い方が良い。」
「……分かりました。お供致します。」
「今回は止めないんだな。」
「言っても聞いてくれないからです。でも、無理をしそうであれば止めに入りますので。」
「あぁ、分かったよ。いつも悪いな。」
「本当に悪いと思っていないでしょう?」
そんな小姑の様な小言を聞きながら、俺とゾランは帝城へ聖女に会いに行く事にした。
聖女は無理矢理連れて来られて、怖い思いをしているのかも知れないな。
大丈夫だろうか……?
馬車に乗って帝都へ向かう。
空間の歪みを利用して行くのは、この場所では流石にまずいと思って、通常の方法で向かうことにする。
空間移動の能力を知られると、またどんな風に利用されるか分かったもんじゃない。
何人も精霊と契約しているこの能力は、やはり異常なのかも知れない。
しかし、人より少し高いだけの能力だ。
そんなに優れているとは思えない。
銀髪の部族の血を引くのであれば、もっと優れた能力があるのではないか?
そんな事を考えていると、帝城に着いていた。
帝城では、前回来たときと同じ様に、俺を出迎える人の姿が多く見られた。
その中を歩いて、まずは父上の部屋へ挨拶をしに行く。
父上はベッドではなく、ちゃんと座れていた。
以前より顔色もよく、元気が良さそうだ。
早速聖女の力で回復して貰ったんだろう。
「父上、お元気になられた様で何よりです。」
「リディか、よく来たな。」
「聖女が見つかったとお聞きしました。」
「そうだ、やっと見つけてな。ひとまずこの国もこれで安泰だ。」
「聖女がいれば、私は補佐として働かせて頂いても問題はありませんね?」
「お前がそう言うのならば仕方がない。皇帝はレオポルドに継がせよう。」
「補佐として、尽力致します。」
「レオポルドの役に立ってやるといい。頼んだぞ。」
「はい。」
良かった。
これで俺がこの城で暮らす事はない。
以前よりも来る機会は増えるだろうが、この場所に居続けるよりは幾分かマシだ。
それに、今は空間移動が出来る。
この力を使えば、この城を抜け出す事は容易い。
聖女には申し訳ないが、この状況に俺は感謝した。
父上との謁見が終わり、聖女に会いに行く。
案内して貰い、聖女のいる部屋までやって来た。
中に入ると、一人の女性が窓の外を眺めていた。
その姿を見て、一瞬息を飲んだ。
その女性は、銀の髪をしていたのだ。
思わず足を止める。
この人は銀髪の部族の人ではないのか?!
なぜこんな所にいる?!
驚きを隠せずに、ゆっくりと歩み寄る。
俺に気づいたのか、銀髪の女性も、ゆっくりと俺の方を見る。
「………貴女は………」
「こんにちは…」
女性は俺を見ると、ニッコリ笑いながら挨拶をしてきた。
その人の顔を見た時、更に俺は驚いて動けなくなった。
その女性は
アシュリーに似ていた………
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