第137話 消えた二人
アシュリーの感情を求める様に、俺は控え室の方へと向かって行く。
破壊された入口から入ると、そこには結界に阻まれた男とアシュリー、それと結界の外にはボスと思われる男がいた。
アシュリーを見た途端、凍りついた様に目を奪われてしまった……。
アシュリーが女の姿でそこにはいた。
あまりの美しさに、俺は一瞬動けなかったんだ。
「私にあんなことをして!覚悟なさい!」
姉上がいきなり男に斬りかかったが、結界に阻まれた。
土魔法の槍があちこちから出てきた。
姉上が立つのもやっとな感じになっているので、抱き上げる。
が、余計な事をするなと怒られる。
すぐにエレインを呼んで、ルキスと共に結界を解除してもらう。
結界の外れた男の頭を掴み、闇魔法で脳を腐食させる。
男はすぐに崩れ落ちた。
「ディルク!」
アシュリーが俺を呼んでいる!
「アシュリー!」
すぐにそばまで走って行って、アシュリーと手を合わせる。
しかし、結界に阻まれたままだ。
一緒にいる男は、一体誰なんだ?!
男は見定める様に俺を見続けている。
「ディルク、やっと目を覚ました!」
「アシュリー、無事か?怪我はないか?すぐにここから出してやる!」
アシュリーが泣いている!
すぐに涙を止めてやらないと……!
しかし、アシュリーが歪みに飲み込まれて行く。
「ディルク、紫の石が……!」
それだけ言い残して、アシュリーと男は消えた。
それからすぐに結界は解除されたが、そこには誰もいなかった。
自分達で張った結界と、敵の男の張った結界が融合して強度が増した為に、光の精霊が2人で解除しても、時間がかかってしまったようだった。
紫の石……?
アシュリーの言葉を思い出し、辺りを見回すと、倒れた男の中指に、紫の石の指輪がついていた。
これの事を言っていたのか……?
男から指輪を抜き取り、持っておく事にする。
アシュリーはどこに消えたんだ?
探そうにも、飛ばされた場所が分からない。
「あの子……」
姉上がポツリと呟く。
「あの首飾り……。」
「どうしました?姉上?」
「あの子はリディの知り合い?」
「ええ、そうです。」
「そう……。」
「何か気になることでもありましたか?」
「……何でもないわ。」
そう言って踵を返し、その場から立ち去ろうとした。
「姉上、お待ち下さい。これから後宮に帰ります。」
「大丈夫よ。私の部隊は、私を探しているんでしょう?これから合流するわ。」
「今は王都ではなく、近隣の街で探している様です。一旦帰りましょう。」
それから姉上の住む邸を思い浮かべて空間の歪みを作り出す。
「何なの?!これっ!」
驚く姉上とゾランを連れて、空間の歪みに入って行くと、そこは姉上の邸の庭だった。
「なぜ?!今までインタラス国の王都にいたのよ?!」
戸惑っている姉上に、闇魔法で一日の記憶を消す。
倒れこんだ姉上を抱き上げて、邸にいる使用人達に託す。
「リドディルク様、私達も帰りましょう。」
「いや、このままアシュリーを探しに行く。」
「どこに行ったのか分からないんですよ?!どうやって探すんですか?!」
「では放っておけというのか?!」
「今日はもうお疲れな筈です。明日にしたらいかがです?」
「まだ大丈夫だ。嫌ならついてこなくて良い。」
「そう言う訳にはいきません!」
「気になることもある。もう一度、さっきの場所に戻るぞ。」
「え?!は、はいっ!」
それから俺とゾランは、あの会場の控え室まで戻って行った。
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