第133話 もうひとつの潜入
会場に着き、馬車を降りる。
マルティンが案内しながら進み、受付に招待状を提示する。
「こちらの方は、グリオルド国のディルク・ガルディアーノ伯爵です。本日は私の紹介で、ご一緒させて頂きたく思います。」
マルティンがそう告げると、受付の作業員は、招待状を確認した後
「どうぞ。お楽しみ下さい。」
と、ニッコリ笑って、俺達を先へ通した。
会場には貴族や富豪等が集まっており、楽しそうで賑やかな雰囲気を醸し出していたが、やはり俺には、それとは違う感情の渦が感じ取れる。
まぁ、帝城よりは複雑な感情ではないから、人数が多くても然程気にならない。
「一階では、パーティーが行われています。このパーティーだけに参加する富豪や貴族の方もいらっしゃいます。それに紛れて、闇オークションの顧客は地下の会場へと進みます。」
マルティンがそう説明する。
「ゆっくりしている時間はない。すぐに地下へ案内してくれないか。」
「畏まりました。」
マルティンに続き、地下へと向かう階段を降りる。
降りると、奥に重厚な扉があり、その前に受付の男が2人いた。
マルティンが先程と同じ様に俺達を紹介する。
余程信用があるのか、疑われる事なく、すんなりと闇オークションの会場に入ることができた。
会場には、まだ人が半分も入っておらず、席に着いてる者も少なかった。
収容人数は、大体150人程だろうか。
舞台には、見ただけでは分かりにくいが、かなり強力な結界が張られてあり、商品が逃げない様にしてある。
これ程の結界を張れる者が、この組織にはいるんだな。
入ってきた入口以外の、従業員出入口や搬入口等を確認する。
右奥、舞台の近くに一つ見つけた。
そこには男が立っており、出入口を警護していた。
あとは、舞台袖に向かう、左脇にある階段辺りに男が一人。
そこに司会進行する場所を設置してあり、左の壁際には幾つか椅子が置かれてあった。
恐らくそこに関係者が座って、このオークションの様子を伺うのだろう。
「マルティン、ここでお別れだ。俺達はこれからこのオークションの商品を逃がす為に動く。この会場に被害が及ばなければ良いが、それは保証出来ない。これからどうするかはマルティンが決めれば良い。」
「お気遣い、ありがとうございます。では、頃合いを見計らって出て行くことに致します。どうかご無事で!」
「今後何かあればゾランに連絡を取れ。力になろう。」
「!よろしくお願い致します!!」
深々と頭を下げたマルティンを後に、俺達は舞台袖に上がる階段の方へ向かった。
舞台に通じる所からなら、拐われた人達がいる場所までは遠くは無い筈だ。
舞台近くに近づくにつれ、この会場にはそぐわない感情が読み取れる様になった。
オークションだからか、高揚、待望、野心、競争心等の感情が多く、他には開催者の緊張感や警戒心等が要り混ざっている。
それから、出品される人達の悲痛な感情も。
そんな中に、穏やかで、優しい感情が読み取れた。
これには覚えがある……
「ゾラン、アシュリーがこの会場に来ているのかも知れない……!」
「えっ?!それは本当ですか?!」
「いや、まだ確証はない。……が、恐らくは間違いない。」
「なぜこんな所にっ!」
「もしかすると、アシュリーも拐われたのかも知れない!」
「あの人は拐われる程弱いとは考えられませんが……」
「もしくは俺達と同じ様に、拐われた人達を助け出そうとしているのか……?!」
「とにかく、舞台裏に向かいましょう!」
「あぁ!ゾラン、もしアシュリーを見つけたら力になってやってくれ!」
「……貴方と言う人は…っ!分かりました!」
足早に舞台袖に上がる階段へと向かう。
男がその様子を見て警戒を強めた。
男の肩に手を置いて、そのまま横を通り過ぎる。
男はそこから動けずに、立ち竦んだまま、呆然としていた。
「流石ですね、リドディルク様。足は土魔法で地面に拘束し、光魔法で脳内に影響を与え、何も考えられなくしましたか。」
「あの場所にはまだ立っていて貰わねばならないからな。数時間はあのままだろう。」
「どうやって詠唱も無しで魔法が使えるのか……。不思議でなりません。」
「どんな魔法を使いたいのか思い描けば、魔法はちゃんと発動してくれるぞ?」
「そんな事が出来るのは、私はリドディルク様しか知りません!」
「いつもゾランは大袈裟だ。」
「これは大袈裟等ではありません!」
「無駄口を叩いている暇はない。急ぐぞ。」
「はい!」
そうして俺達は舞台裏へと向かった。
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