第129話 天然だった


エリアスとレクスが茫然とした顔で、ずっと私を見ていた。


貴族に見えるのかどうか、チェックでもしてるんだろうか?


どこか可笑しいところがあったんだろうか?


見られている事にも戸惑うが、自分がちゃんと貴族の様に装えているのかが凄く気になった。


「レ、レクス、私、可笑しい、かな……?」


「………。」


「な、何で何も言ってくれないっ!」


「あ、ごめん…アッシュ……凄く……凄くキレイだぞ……」


レクスは、まだ茫然としたまま私を見上げてた。


「エリアス、これで貴族に見えてる、かな?」


「……すげぇ…」


「えっ?」


「すげぇ……ヤバい……」


「え?!可笑しいか?!ダメだったら着替えてくる!」


そう言って後ろを向き2階に戻ろうとした時、ガツっと手首を捕まれた。


「エリアス?」


「ダメじゃねぇっ!ぜんっぜん!ダメじゃねぇっ!」


「それなら……良かった。」


「見とれてたんですよ!アシュレイさんに!」


「え?」


「うっせぇよ……」


エリアスは顔を横に背けて口を覆う。


「アシュレイさん、大丈夫ですよ!どこからどう見ても、アシュレイさんは貴族か王族のお嬢様にしか見えませんから!安心して下さい!それから……エリアスさん、いつまでアシュレイさんの手を掴んでいるんですか?」


「あ。」


エリアスはすぐに手を離した。


「では、そろそろ時間なので、会場に向かわれた方が良いですよ。頑張って下さいね!必ず無事に帰ってきて下さい!では、いってらっしゃいませ!」


コレットに送り出されて、邸の前に停まっていた馬車に乗り込む。


エリアスは私に手を差し出して、乗りやすい様にサポートしてくれた。


馬車の中では、隣に座る様に言われてそうした。なぜなら、恋人同士はそうするから、らしい。



「エリアスに聞いてみたい事があったんだ。」


「えっ?!な、何だ?」


「貴方の母親は、銀の髪をしていなかったか?」


「なんでいきなりそんな事……まぁいいか。親の事は分かんねぇよ。俺は捨て子だったからな。孤児院で育ったんだ。」


「そうだったのか……。」


「何故そんな事を聞く?」


「すまない、気にしないでくれ。」


「俺の事、ちょっとでも気になるか?」


ハハハって笑いながらエリアスが言う。


「あぁ、気になっている。エリアスの事が知りたい。」


「っ……!」


エリアスが口を覆い、窓の方へ顔を背けた。


「アッシュ!今のはダメだぞ!」


「え?何がいけないんだ?レクス?」


「エリアス!勘違いすんなよ!アッシュは天然なんだぞ!」


「レクス、それはどういう意味だ?」


「いちいちアンタは心臓に悪い……」


「どうした?エリアス?心臓が悪いのか?」


心配そうにエリアスを見詰めると、私をチラッと見たエリアスが、また窓へ顔を向ける。


「ハァ……俺だけが弄ばれてる気がしてならねぇよ……。」


「誰にだ?!エリアスがそうなるなら凄い強い奴じゃないのか!?」


そう言うと、エリアスは両手で顔を覆った。


「ダメだ……たまんねぇ……」


「アッシュ……天然すぎだろ……」


エリアスもレクスも、何を言っているのかさっぱり分からない。


そうこう言ってるうちに、会場近くまできていた。


「そうだ、アンタの事、会場でなんて呼べば良い?アシュレイだと、ちょっと男っぽいかもな。」


「そうだな……では、ラリサと…。」


「アッシュのかぁちゃんの名前だな!」


「そうなんだな。分かった。じゃあ、ラリサって呼ぶな?」


「あぁ。」


「それと……コレットも言ってたが、言葉遣いは気を付けた方が良いな。」


「あっ!はい、わ、分かりました…っ。」


辿々しく言うと、またエリアスは外を向く。



母を名乗ったのは、今私をアシュリーって言うのはディルクだけだから……。


何だか、ディルク以外の人に、アシュリーって呼んで欲しくなかったんだ……。



そして会場に到着した。


エリアスが先に出て、私を出迎える様に、また手を差し伸べる。


その手に私の手を置き、馬車を降りる。


かかとの高い靴に少しよろめく。


エリアスは、「俺に捕まってろ。」と言って、私の手を自分の腕に絡ませた。


「その方が自然に見えるから。」と言われたので、そのまま会場まで歩いて行った。



いよいよここからが本番だ。






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