第127話 思惑
窓から外を見ると、すでに夜が更けていくところだった。
「ゾラン、俺はどれくらい眠っていた?」
「5日程です。」
「そうか……ところで、姉上は今どこに?」
「それが……」
「どうした?」
「インタラス国の王都で行方不明になってしまった様なんです。」
「行方不明?!どう言う事だ?!」
「王都に着いてその日の夜、一人で外出されたそうなんです。そのまま、戻って来られなかったとの報告が。」
「同行していた騎士はどうした?!」
「今も捜索はされています。王都だけではなく、近隣の街や村まで捜索しているとの事ですが、未だ手がかりがない様です。」
「何がどうなっている……?」
「最近インタラス国内で、誘拐と思われる事件が多発している様です。若い女や子供が拐われているのですが、身代金等の要求はないとの事です。」
「同じ様に姉上も拐われたと言うのか?!」
「確証はありませんが、その可能性はあります。」
「俺を探しに行っての事か……」
「その事について、ある情報を掴んでいます。」
「なんだ?」
「『闇夜の明星』と言う裏の組織が、明日王都で闇オークションを開催するとの情報を得ました。その闇オークションで拐った人達が出品されるそうです。」
「なんだそれは!そんなオークションがなぜ開催など出来るんだ!」
「落ち着いて下さい、リドディルク様。要は需要と供給なんです。富豪や一部の貴族が、すでに顧客になっているんです。だからこの手の犯罪は無くならないのです。」
「それに姉上が出品されるかも知れないんだな?」
「その可能性がないとは言えません。」
「何故それを知って誰も動かないんだ!」
「他国の、それも確証もない事に、誰も手を出せない状態です。いくら我が帝国とは言え、迂闊な事は出来ません。」
「父上はこの事について、何と言っているんだ?」
「静観する、と言われている様です。」
「……っ!」
父上の冷酷さは知っているつもりだった。
自分の、我が帝国の利益にならない事は徹底的に排除し、必要とあらば、どんな手を使ってでも手に入れようとする。
例え身内であっても、利益がなければ父上は動かない。
インタラスの王都で姉上に何かあったと確証が持てれば、それを口実にインタラス国に攻める事が出来る。
その材料にする為に静観するのか?!
考えれば考える程、怒りが沸々と沸いてくる。
「ゾラン。その会場に潜り込む事は可能か?」
「リドディルク様!そのお体で行かれるつもりですか?!いけません!」
「俺は可能かどうかを聞いている!」
「……可能です。」
「どうやってだ。」
「……招待された顧客に紹介されれば、会場に入る事は出来ます。」
「知り合いに招待された顧客はいるのか?」
「実は既に、その顧客となる相手と連絡を取っています……。」
「仕事が早いなゾラン。流石だ。」
「相手はインタラス国にも店を出している商人です。ストリア商会はご存知ですか?」
「あぁ。色んな国に何店舗も出店している大きな商会だな。」
「今後帝国にも出店をしたい様で、こちら側に恩を売っておきたいのでしょう。アンネローゼ様の事を探っていた諜報員に自ら接触してきたそうですよ。」
「そうか。分かった。」
「行かれるつもりですか?!」
「そのつもりだ。」
「しかしまだお体が!」
「では俺にも父上の様に静観しろと言うのか!」
「それは…っ!」
「ゾラン、心配してくれるのは有難い。しかし、父上が病に臥せっている今、もし姉上に何かあって、それが公になったとして、インタラス国を攻める事になればどうなると思う?」
「……その指揮をするのは、リドディルク様になる可能性が高いかと…」
「そうだ。帝位継承のゴタゴタがあるこの時期だ。父上も俺に任せようとするだろうし、他の者達も俺の手腕も知りたいだろうから、ほぼ間違いなく俺に指揮をさせるだろう。そうなってしまっては、もう帝位継承を断る事は出来ない。それは勝っても負けてもだ。」
「そうですね…勝てば相応しいとされ、負ければその責任をとる様に、独断で強引に帝位継承を決定させるでしょうね……。」
「恐らく、帝国からも間者が闇オークションに紛れ込むだろう。そこで姉上が出品等されれば、願ったり叶ったりと言う事だ。」
「………。」
「オークションが始まる前に、姉上を助け出す必要がある。分かるか。」
「はい……。」
「すまないな。ゾラン……。」
「そうやって私に何も言わせないのですね……」
「姉上が囚われていない可能性もある。が、やはりそんな組織は潰してしまった方がいい。」
「しかし、裏組織を潰す程の戦力を揃える事は……!」
「分かっている。秘密裏に動くんだ、明日は姉上を助け出す事だけを念頭に置いて行動する。ゾランは一緒に来てくれるか?」
「勿論です!」
「頼んだぞ。」
「では、せめて今日は私の言う事を聞いて下さい!ちゃんと食事を摂って、すぐにお休みになって下さいね!」
「あぁ、分かった。」
そうして俺は遅れはしたが、明日インタラス国の王都コブラルに行くことにした。
ノックがして、ミーシャが食事を持ってきてくれた。
「リディ様、その首飾り……。」
「この首飾りがどうした?」
「リディ様が眠っている間、時々光っていました。朝も昼も夜も……。リディ様が目覚める直前も光ってましたよ?」
「そうか……。」
その言葉に俺が微笑むと、ミーシャは不思議そうな顔をしていた。
首飾りの石を握る。
しかし、アシュリーの声は聞こえなかった。
アシュリー……
君は今、どこにいるんだろう?
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