第119話 疑念


ギルドの買取りカウンターへ行く。


素材を出して、カウンターに並べる。


エリアスとのやり取りを見ていたのか、受付の娘が恐る恐る私を見る。


ギルドカードを出すと


「本当にGランクなんですね……」


私をチラリと見ながら言ってくる。


「あぁ、そうだよ。」


ニッコリ笑うと、彼女はホッとした顔を向けた。


「エリアスの事を聞きたいんだが……」


「あの……彼と何かあったんでしょうか?言葉は乱暴ですが、彼はAランク冒険者でギルドの信用も厚いです。ここにいる冒険者も、彼がいるから喧嘩等の争いは無いんです。何があって険悪な状態になっているんですか?」


「私が彼の受けた依頼を邪魔した様でね。彼がどんな依頼を受けたか、教えて貰うことはできるか?」


「それは……私では判断出来ないので、確認してみます。素材も量が多いので、暫くお待ち頂けますか?」


「分かった。私はアシュレイと言う。そこで待っているので、声をかけて欲しい。」


「承知しました。」




それから受付近くのテーブル席に座り、待つことにする。


すると、さっきエリアスと話している時に来た、フーゴと呼ばれていた男がやって来て、私の向かいに座った。



「アンタ、エリアスと何があった?」


「何故そんな事を聞く?」


「エリアスと事を荒立てる奴なんざ此処にはいないからな。何があったか気になるじゃねーか。しかもアンタGランクなんだろ?そんな奴がSランクにも届くエリアスに、あんな下手に出るような態度取らせるなんざ、皆何者なんだって興味津々だぜ。」


「私は何者でもない。どうやら私はエリアスの仕事の邪魔をしてしまったらしい。」


「なに?!」


ガタッっと音を立ててフーゴが立ち上がり、私に詰め寄ろうとする。




「アシュレイさん!お待たせしました。こちらに来て頂けますか?」


受付の娘が私を呼ぶ。


すぐに立ち上がり、フーゴを無視して行く。


「待てよ!」


「やめろ。」


私を止めようとしたフーゴを、エリアスが止めに入った。


それを横目に、私は受付の娘の後ろをついていく。



ギルドの奥にある客室に案内された。


ソファーとテーブルがあるのみの、あまり広くない部屋だ。


そこには、一人の男が座っていた。


「そこに掛けてくれたまえ。私はここのギルド長のアルベルトだ。話は聞いた。」


「私はアシュレイと言う。人を探して旅をしている。」


「その旅人が、エリアスの依頼を何故知りたいんだ?」


「先日、彼の依頼をそうと知らず邪魔してしまったみたいでね。事の真相を知りたいんだ。」


「まさかお前が『闇夜の明星』のっ?!」


アルベルトは私に詰め寄ろうと立ち上がりかけたが、それを自分で抑えるようにまた座りなおす。


「私はその場に居合わせてしまってね。商人が盗賊に襲われていると思って助けに入ったんだ。」


「……では、エリアスと戦ったと言うのか?」


「そうだ。」


「それでエリアスが逃げ帰ったと?」


「そうだ。」


「……ギルドカードを見せて欲しい。」


ギルドカードをアルベルトに渡す。


「本当にGランクだな……なぜランクを上げない?」


「私は冒険者ではない。ただ旅をしているだけだ。身分証明書代わりと、その時寄った場所で素材の買取りをして貰う為だけに、ギルドカードを持っていると言っても過言ではない。」


「だがGランクの言う事と、Aランクの言う事ならば、疑う余地なくAランクを信じるのは当然だ。Gランクのままランクを上げないのは、裏の組織と関わっているからではないのか?!」


「私は旅人に過ぎない。だから裏組織と関係のない事を証明することは無理だろうな。それよりも、エリアスにその依頼をギルドが出したのか本当だったのかを知りたい。私もまだ、彼を信用した訳ではないのでな。」


「……っ!そう言うことか……エリアスに『闇夜の明星』の討伐に向かう者達の護衛に付かせたのは本当だ。拐われた者達の身内ばかりだと冷静さに欠けるからな。しかし、まさかエリアスが逃げ帰って来る事になるとは思わなかった。しかも相手はGランクだ。どう信じろと?」


「私を信じるかどうかは、そちらに任せる。証明出来る物は、私にはそのギルドカードしか無いのでな。」



その時、いきなり勢いよく扉が開いた。


そこにはエリアスがいた。



「よう、アルベルト。アシュレイと何喋ってんだよ。」


ズカズカと入ってきて、私の右隣にドカッと座った。


「アシュレイは俺の確認に来たんだろ?で、逆にアシュレイが疑われてるってところか?」


「まぁ、そうだな……」


「アルベルト。こいつは悪いヤツじゃねぇよ。じゃなかったら、こんな所に一人でノコノコ来ねぇよ。な、アシュレイ!」


言って、私と肩を組んできた。


勢いよくエリアスの腕が私の左肩に乗っかる。


「つっ……!」


左肩の痛みに、顔を歪ませてしまった。


まだ完全には治っていなかった左肩にいきなり負担をかけられれば、我慢して平然とする事が出来なかった。



「アシュレイ?どうした?」


「いや……何でもない……今日は……失礼する……」


そう言って立ち上がろうとした時、頭がグラリとした。


額から冷や汗が流れる。


「アンタ、まだ完治してなかったのか?!」


「……大丈夫だ……」


「アッシュ!大丈夫か!アッシュ!」


「レクス……大丈夫……」


しかし、そこで私は意識を失ってしまった……







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