第114話 憂患


朝食が済むと、ゾランが片付けを手早く済ませる。


「もう大丈夫そうですね。では、私は帰らせて頂きます。」


「ありがとう。本当に助かった。貴方の御主人にはどうお礼をすれば良いのか……」


「貴方が元気になられる事が、あの方へのお礼となる筈です。」


「でもそれでは……」


「大丈夫です。あとは私が何とか致しますので。では。」


言うなり、彼は素早く去って行った。


急いでたんだろうか……?



暫くすると、レクスが姿を現した。



「レクス!どこに行ってたんだ?」


「アッシュ!大丈夫なのか?!」


「あぁ、大丈夫だ。まだ肩は動かし辛いが、歩くのには支障がない。」


「でも、いっぱい血が流れていたから、今日はゆっくりした方がいいと思うぞ!」


「ありがとう、レクス。でも、王都でディルクが待ってるんだ。早く行かないと……」


「ディルクは!……王都にはいないと……思う…」


「え?なぜ?」


「え?あ、その、そう、思っただけだ……」


レクスが下を向いて、言いにくそうに唇を噛んでいる。


「何か……あったのか?ディルクに……?」


バッと顔を上げて


「な、なにもないぞ!ディルクは大丈夫だ!」


「レクス……何を隠している…?」


「な、何も隠してないぞ!ほら、アッシュはもう少し休んでろよ!」


「レクスっ!」


思わず怒鳴ってしまった。


その声にビクッとして、レクスの体がとまる。


「頼む…何があったか、教えてくれないか?」


「ディルクが…アッシュを助けてくれたんだ…でもっ、アッシュの傷が治っていったらっ、ディルクが血をいっぱい出して!た、倒れちゃったんだっ!」


涙を流しながら、レクスは言った。


「何?それはどういう事なんだ?!」


「分かんないっ!俺も、何でこうなるのかっ!」


「何でディルクはここに来れた?!」


「ルキスが!つ、連れてきたっ!」


「……!ルキス!」



辺りが光輝いて、ルキスが姿を現した。



「アシュリー、体は大丈夫ですか?」


「レクスから話を聞いた。どうなったんだ?!」


「……レクス、話してしまったんですね。

全く……」


「ディルクはどうなったんだ!?」


「アシュリー、大丈夫です。彼は今、眠っています。」


「ディルクは、助かるの?!」


「……恐らく、大丈夫かと……」


「何でこうなった?!」



それから、私が気を失っている間の事をルキスから聞いた。



「あの子は昔からそうなんです。他の人の悪い部分を自分の体に受け入れて、その人の体を治癒させる事が出来るんです。でも、その負担がディルクの体に重くのし掛かるんです。なのに、ディルクは傷付いた人を放っておけないんですよ。」


聞いてて涙が溢れて来た。


「ディルクに助けを求めた私ですが、まさかあんなに貴女から離れないなんて……」


「私の傷が……ディルクに……私は回復していけるのに…!」


「それでも、貴女も危険な状態だったんですよ?回復魔法では追い付かない位に……自分の体には、直接回復魔法は使えませんからね……」


「ディルクを…回復させたい……」


「それは無理でしょうね。」


「なぜだ?!私はかなり高度の回復魔法を使えるぞ!」


「ディルクに回復魔法は効かないんです。何故かは分かりませんが……」


「……っ!なんで!?」


「ディルクがそう言った理由で意識不明になった時、ディルクの父親が聖女に回復させようと試みたのですが、効かなかったんです。」


「じゃあ!どうすればっ……!」


「アシュリー、大丈夫です。ずっとそうやって、ディルクはまた元気になってきたんです。

ディルクの回復力を信じましょう?」



ディルクを想うと、涙が止めどなく溢れてくる。



助けて貰ってばかりいるのに、私が助けてあげることが出来ないなんて……!



私はただひたすら、ディルクに貰った首飾りの石を握りしめる事しか出来なかった……






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