第104話 皇帝ベルンバルト
なぜ父は俺に後を継がせようとしているのか。
まずはその真意を確認しないといけない。
所々ですれ違う者達からは、相変わらず笑顔とは真逆の思考を向けてくる。
「これはこれは!リドディルク皇子ではございませんか!」
前から歩いてくる、大きな腹をつき出した男が、わざとらしく大きな声で喋りかけてきた。
「ドニゼッティ公爵、久しぶりだな。」
「お久しぶりでございます!覚えて頂けてたとは、光栄の極みです。それと、この度はおめでとうございます!」
「めでたい事かどうかは分からんぞ?」
「何を仰いますか!以前よりリドディルク皇子こそ皇帝に相応しいと思っておりました!」
「世辞等いらん。本音を述べろ。」
「私は本当の事しか申しあげません。」
深々と頭を下げるドニゼッティ公爵。
その態度とは裏腹に、本性と呼べる感情が頭の中に飛び込んでくる。
『なぜ皇帝はこんな訳の分からん奴を後継者に選んだのだ!今まで第ニ皇子に肩入れしてきたのが、全て水の泡ではないか!何の為に娘のメルダと第ニ皇子を婚約させたのか!』
悪かったな。訳の分からん奴で。
まぁ、まだこれ位の感情であれば可愛いもんだ。
それからも、俺に取り入ろうとする者達をやり過ごし、皇帝の部屋迄たどり着く。
扉を守る兵が、俺が近付くと一歩前に出て守りを強化する様に動く。
誰も俺の顔を知らないのだろう。
そうなるのも仕方がない。
ゾランが前に出て、兵と話をする。
兵達は、ハッとした顔をして俺を見つめ、直ぐ様敬礼し出した。
扉が開けられ、中に通される。
中には数人の従者、医師が3人、第一夫人、その息子である第一皇子と第二皇子がいた。
ベッドに横たわっている俺の父親が、皇帝ベルンバルト・アルカデルト・オルギアンだ。
「……リディか?」
ゆっくりと上体を起こし、そう聞いてきた。
「お久し振りです。父上。」
「馬鹿者。今まで何処に行っておったのだ。」
「申し訳ありません。少し旅をしておりました。」
「ふふ……まぁよい。近くまで来てくれんか?」
言われて近くまで行く。
ベッドの側にいた第一夫人のシュティーナ王妃が、俺を睨んでいる。
第一皇子のクリストフェルと第二皇子のレンナルトも、何も言わずにおれを見定める様に見詰め続ける。
こう言う分りやすい方が正直楽だ。
入ってくる感情もそのまんまなので、直接言われている様なものだ。
父の元まで行き、側にある椅子に腰掛ける。
「今日は倒れなかったか?」
「はい、大丈夫でした。危ない所もありましたが。」
少し笑いながら言うと
「詳しく教えてくれんか?」
言われて、チラッと目を動かす。
「人払いを。」
それを聞いた父上は、従者に目でそうするように促す。
従者達に退出するように言われると、シュティーナ王妃とクリストフェル、レンナルトが怒り出した。
「リドディルク!お前は自分を何様だと思っているんです!分をわきまえなさい!」
「そうだ!俺達に挨拶も無しで、いきなり追い出すとは、無礼にも程があるぞ!」
「お前が出て行くべきだろう!」
言われて俺はそちらの方を向き、ギロリと睨み返した。
一瞬のうちに、3人が黙って後退る。
「これは私が望む事だ。出て行け。」
一言父がそう言うと、何も言えずに、悔しそうな顔をしながら、3人はスゴスゴと出ていった。
「ありがとうございます。父上。」
「これでよいか?」
「左から二人目と三人目、それから右側の従者と、一番右にいる医師の退出も必要です。」
言われた者は驚いた。
が、何も言える訳もなく、部屋を後にした。
「全く、お前には何が見えているのか……では、感じた事を申してみろ。」
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