第93話 別れ


唇と唇が触れそうになった時




「あーーっ!!なにやってんだよっ!」


レクスがやって来て怒りだした。


「ディルク!ダメだぞ!またアッシュが怖がるだろ!」


「レクス……」


恥ずかしくなって、顔を下にする。


木に手をついて、ディルクも下を向く。


「くそっ!レクス!俺は怖がらせていないぞ!」


「俺はアッシュを守るんだ!」


「俺もだ!」


また何やら追いかけっこが始まった。


そんな光景を見ているのが凄く嬉しくて、ただじっと2人を見つめていた。











村に3人で戻ると、村のみんなが集まってきていた。


「村長から話を聞きました。アシュレイさん、ディルクさん、ありがとうございます!」


マリーの父親、ガルフが頭を下げると、皆一斉に頭を下げた。


「本当に、何とお礼を言ったらいいのか……」


オルグがそう言うのを手で遮り


「大丈夫ですよ。私も同族なんです。出来ることなら何でもすると言ったじゃないですか。

力になれて、良かったです。」


「アシュレイ様!やっぱりアシュレイ様は凄いです!」


マリーが飛び出して、私に抱きついてきた。


「マリー!何やってるんだ!離れろ!」


そう言ってセルジがマリーと私を引き剥がした。


セルジに、私は少しビクッとしてしまったが、ディルクが庇うように私の前に来てくれた。


「何よ!セルジ!またいきなりそんな事を言い出して!」


「マリー、落ち着いて。」


「はい、アシュレイ様。」


マリーは私の言うことなら、何故かちゃんと聞いてくれる。


「オルグ、まだ見せていない物があった。」


私はナディアから譲り受けた、もう一つの宝を取り出した。


「これは……」


「ナディアがナタリアの魔力が高いことに困って、魔力制御の石を、その時の村長に言って貸し出して貰った物だそうだ。特に目の魔力が強かったからと、頭に巻けるようにベルトを着けたのがそれだ。」


「そうでしたか……魔力制御の石なんてのもあったんですな。それは知りませんでした。」


「ナタリアに渡す前に村が襲われたと。貴方がそれを持つのが良いのではないでしょうか?」


「……いえ、それはアシュレイ殿がお持ちください。貴方こそ魔力制御が必要なのではありませんか?」


「それはそうですが……」


「ナディアがそれを託した、と言うことは、そう言う事だと思います。遠慮なくお使い下され。」


「ありがとうございます。」


そう言うと、私は頭にそれを装着した。


それから魔力の制御をやめてみた。


すると、凄く体が楽になった。


しかし、本当に魔力制御出来ているのだろうか?


自分では分からない……


そう思っていると、ディルクが瞳を覗き込んでくる。


何度か瞳を見られているから、もう慣れてもいい筈なのに、なんでいつまでもドキドキ言うんだろう?


「付与はされてないみたいだな。」


ニッコリ笑ってディルクが言う。


「あ、ありがとう、ディルク。」


これのお陰で、かなり楽になる。


譲り受けはしたものの、私が使って良かったのか気になっていたから収納していたけれど、使わせて貰えて良かった。


「オルグ、これは渡しておきます。」


そう言って、ナディアから譲り受けた腕輪を渡した。


「それは部属の宝では無かったようだが、ナディアの思い出がつまっている。」


そう言って、ナディアが流行らせた御守りの話をした。

それから、なぜヘクセレイを魔法の街に発展させたのかも。


話を聞きながら、ナディアを知る者以外の人達も、自分達に会える為にしていた事を嬉しくも切なくも思い、涙を浮かばせていた。


「それでは、これは私が受け取らせて頂きます。本当にありがとうございます。」


オルグ達は、深々と頭を下げた。


それから、旅に出るのに必要だからと、食料と水を持たせてくれた。


「あぁー!やっぱりアシュレイ様と一緒に旅に出たいよー!」


「それはダメだぞ!マリー!」


「何でよ!」


マリーとセルジが言い合っている。


良かった……




皆が見送ってくれているのを背に、3人で村を後にした。



因みに、この森には私とディルクは問題なく入れる。

まぁ、それは私達の精霊が施した事だから当然なんだけれど。




色々あったけど、この村に来たから母の情報が聞けた。




ナディアの事も伝えられた。




そして、ディルクにも会えた。




それが一番




嬉しかった……





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