第86話 想い


私が泣いているのを見て、ディルクがそっとそばに来て、また頭をポンポンってしてきた。



「……私は子供じゃないぞっ!」


「そうか?今は子供に見えるぞ?」


「そんなハズはないっ!」


目に涙を溜めながら言うと、ディルクが私の頬を両手で包み込んで、親指で涙を拭って言った。



「こんな大きな目で涙いっぱい溜めて我慢して。アシュレイが小さな女の子に見える。」


「ディルクっ!私の事、女って知ってる?!」


「あぁ、初めて会った時からな。俺にはアシュレイは女の子にしか見えなかったぞ?それに、レクスが回復魔法を使ってたって話していたしな。」


「そうだったんだ……」


「……嫌な事されなかったか?」


優しく柔らかな口振りで心配そうな顔をして。


なんでこんなに優しいんだろう……?


「……ディルクが助けてくれたから大丈夫だった。ありがとう。ディルク……」


「涙は止まってきたか?」


「あ、本当だ。」


「良かった。」



ディルクが私に微笑む。


すぅって気持ちが楽になっていく……


思わずその顔を見つめてしまう。



「おいっ!2人でイチャイチャすんなよっ!」


「レ、レクス!イチャイチャなんてしてない!」


「もっとイチャイチャしたかったけどな。」


「ディルク、またそうやってからかう!」


「俺はからかった事なんて一度もないぞ?」


「……っ!」


「ところでアッシュ、このセルジってヤツ、どうするんだ?」


「あ、そ、そうだな……」


「俺がこいつの家まで運んで行くよ。」


「良いのか?」


「今こいつに触れんの、俺だけだろ?」


「でもっ、セルジの家、どこか分かるのか?」


「そこらへんにいるヤツにでも聞けば分かるだろ?」


「……お願いします……」


「あぁ、そうだ、アシュレイ。甘えれる時は甘えたら良いんだ。」


微笑んで、ディルクはセルジを肩に担ぎ、去っていった。





ディルクのその後ろ姿を、見送る様に見つめる。






ディルクに顔を触られても、手を払う事なんてしたくなかった。






セルジじゃなくてディルクに……






ディルクにだったら……





でも





それは無理なんだ……







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