第34話 レクス達の事情5


その日の夕方になる前から、俺は広場にいた。


アッシュとは広場で会ったから、ここで探す事にしたんだ。


とにかくアッシュに会いたいんだ。


でも、なかなかアッシュは見つからない。


アッシュが浴場のある宿屋に泊まっているって言ってたから、街の、浴場のある宿屋を探して聞いてみた。


何軒か行ったうちの1つがアッシュが泊まっていた宿らしかったけど、今日の朝出て行ったとおかみさんが残念そうに言っていた。



もうこの街にはいないのかな。



それならそれで良いんだ。



アッシュに迷惑がかからないから。



でももしまだいるんなら



会いたいんだ アッシュに……





今回の事をどうこうして欲しい訳じゃないんだ。

もし会えたら、すぐに街を出る様に言うんだ。


あんな農家の人達の姿は初めて見た。

大切な誰かを助けるためなら、人はどうにでもなれて行くんだな。


それは俺にも分かる。


でも、1人助けたら、他にも助けて欲しいって人が出てくると思う。

それも何人も。

そうなったら、アッシュは困る。

シスターも、この事が広まると、アッシュの身に大変な事が降りかかるかも知れないって言っていた。



だから、もしまだこの街にいるのなら、早く出て行けって言ってやるんだ。



そう思いながら、また広場でアッシュの姿を探す。



でもアッシュを見つける事ができなかった。



それからギルドに行こうとした時に、農家の人が俺の前にやって来た。



「レクス、その旅人とやらの居場所、知ってるんだろ?教えてくれよ。」


「し、知らねぇよ!」


「お前も知ってるだろ?娘のジュリが小さい時に事故にあって足が動かなくなったって。あの娘は歩く事も出来ないんだ。可哀想だろ?だから、そいつに頼んでくれよ。なぁ、頼むよ!レクス!」


そう言って俺の両肩を掴んでくる!


「や、やめろよ!離せ!本当に知らないんだってば!」


「会わせてくれるだけで良いんだよ!金ならやるから!なぁ!レクスっ!」


「離せってば!離せぇっっっ!!」


なんとか振り切って、俺はそいつから逃げ出した。


あっちこっちに逃げ、路地にあるゴミ箱の横に隠れる。




怖い……




人が怖いって思ったのは初めてだ……





アイツら、大丈夫かな。


シスターにまた、誰か詰め寄ってるんじゃないかな。


なんでこんな事になったんだ。


どうしたらいいんだ。


俺、何も悪いことしてないのに、なんで逃げないとダメなんだ。


グルグルと頭の中でいやな感情が渦を巻く。





「レクス?」


ビクッとして声の方を見る。


「群青の牛亭」のおばちゃんがそこにいた。


そうか、ここは「群青の牛亭」の裏口だった。


「どうしたんだい?」


「おばちゃん、ちょっと隠れさせてくれ!」


おばちゃんに頼むと、何も聞かずに匿ってくれた。





おばちゃんが俺に水を渡してくれた。


俺はそれを、一気に飲み干した。


そしたら、段々気持ちが落ち着いてきた。


気持ちが落ち着いてきたら、冷静に考えることが出来るようになってきた。





農家の人達には、アッシュは旅立ったって言って納得して貰うしかない。




すぐに納得できなくても、ずっとそう言っていたら、いつかは分かってくれるはずだ。




そうだ。




うん、そうしよう。




おかわりに貰った水を飲みながら、俺の心は決まったんだ。





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