第43話 過保護

 この空間に来て小一時間たっただろうか。シリスロギアとはちょっとは打ち解けられたと思う。それにどうやらシリスロギアはそれ程悪いやつじゃない。話を聞くと俺の事を心配していたらしい。


 シリスロギアは最初見た時より何だかしょんぼりした様子だ。


「なあどうしたんだ? さっきっから元気が無いみたいだけど」

「いや、なんか言いすぎたかなと」


 シリスロギアそう言うと俺はたまらず笑ってしまった。意外と優しい所もあるものだな。出会って間もないが。


「にしてもお前なんか俺のこと知りすぎじゃないか?」


 あれから俺とシリスロギアは二人で元の世界のことを話していた。どうやらシリスロギアはおれの前世の事をほとんど知っているみたいだ。


「ん、まあ言ってしまえば『ワシはお前の一部』みたいなものだからな」

「俺の一部? 俺はお前みたいに言葉足らずではないが?」


 一体どういうことなのだろうか。

 俺は首を傾げ、少し考えた。が、やはり分からない。

 こういうのは神様とかしか分からないのでは無いのか。


「お前が憤怒の罪を与えられ他と同時に、ワシはお前の中に生まれた。いずれひとつとなる時がきよう」

「俺とお前がひとつに?」


 俺はまた首を傾げる。

 ひとつにという事は混ざるということだろう。

 俺ドラゴンとかにならないよな? 嫌なんだけど、全身鱗だらけとか。


 シリスロギアは「いずれ分かる」と言い、この話をやめてしまった。


「で、結局俺はどうすればいいんだ? 過保護なのはありがたいが、俺はお前の言いたいことがよくわからないんだが」


 シリスロギアが俺に言った言葉は、全ては俺を守るためらしい。ありがたいが、俺にはその言葉の意味が深く理解できなかった。


「お前が持っている剣はわしの化身のようなものだ。その剣とお前の魔力は言わずもながら相性は抜群だ。その剣と炎を使い続ければ、いずれ更なる高みへとたどりつけるだろう。だが神の技は使うな」


 シリスロギアその漆黒の瞳で俺を見つめながら話した。

 俺の魔力と漆黒の剣が相性抜群なのは実証済みだ。更なる高みというのは、剣を鑑定した時に調べられなかった部分の事だろう。


「神の技、つまり『フォルテート流』は何故使ってはいけないんだ?」

「それは言えん。だがお前なら時期に気がつくだろう。後、『魔神化』だけは使うな」

「ちょっと……って」


 シリスロギアはそう言って姿を消した。

 姿が黒い霧のようになって散らばり消えてしまった。

 思えば短い時間だった。シリスロギアが言葉足らずなせいもあるが。まあどうせまた会うだろう。


 そして俺も同じように消えていく。消えると言うよりも上に引き上げるような感覚。そして気がつくと俺はベットの上にいた。


「なんかすげぇ不思議な感覚」


 神の世界の時とは違い、またなんとも言えない感覚だった。似てはいるがどこか違う。今度クライシスに会ったら聞いてみるとしよう。

 窓を見ると既に外は明るく、朝を迎えていた。俺は体を起こし、顔を洗い、身支度を整え食堂のような場所に向かった。予想してたとおり、食堂ではミオンが先に朝食をとっていた。


「あ、リヒト様おはようございます。えーっと、朝はサラダですよね? 用意しておきましたよ!!」

「ああ、ありがとうな」


 俺はミオンお礼をいい席につく。最近ミオンと俺はお互いのことを理解しはじめていた。最初の頃の俺たちと比べる進歩したと思う。

 周りにはそれほど客はいない。俺達が少し早いからだろう。俺はすぐさまサラダを食べ終える。ミオンも今日は早めに切り上げた。すごく、すごくもう少し食べたそうな顔をしていたが。


「よし行くとするか」

「はい……」


 俺は元気の無いミオンを引っ張って宿を出た。

 そして俺達はギルドに向かう。依頼を受けるためではない、馬車を確保するためだ。


 ギルドでは冒険者だけではなく、行商人等も立ち寄る場所だ。行商人は街を行き来するので、遠出の移動などは行商人頼んで連れていってもらうのが常識だ。その方が費用が浮くからな。

 俺達は何とか行商人を捕まえ、行き先を伝えると、快く引き受けてくれた。



「乗せてくのは全然いいけど、いざとなったら頼むよ?」

「わかりました。ではよろしくお願いします」

「ああ。こちらこそよろしく頼むよ」


 この小太りしたおじさんが俺達を街まで運んでくれる行商人だ。

 このおじさんがいう「いざとなったら」と言うのは、移動中に盗賊や魔物に襲われた時は撃退してくれということだ。

 行商人は冒険者を運び、冒険者は行商人を守る。実にウィンウィンというやつだ。ちなみに俺達の目的地までは役五日ほどかかる。地味に長い旅になるがこれもまた経験というやつだ。


「もしかしたらビスとウルの仲間の盗賊が出てくるかもな」

「それなら大丈夫ですよ。私の魔法で返り討ちですから!!」


 俺達は笑いながらその話をしていた。

 実際、ビスとウルのような相手なら何人いようと大したことは無い。


「ボスがめちゃくちゃ強かったらどうする?」

「行商のおじさんを囮に一網打尽にします!!」

「ちょっとぉ!? なんかすごくひどいことが聞こえたんだけど!?」


 俺達は和気あいあいとした空気の中街を目指す。おじさんの心の中は和気などこれっぽっちも無いだろうが。

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