第29話 魔法時々馬

 

「に、さん、はち……十二か」


 俺は茂みに隠れながら数を数える。

 なんの数かって? もちろんローンウルフの数だ。


 話には聞いていたが、やたら数が多いな。多分だったら倒せないだろうな。



「ほんと助かる」



 魔法が使えるミオンがいると戦いの幅が格段に広がるからな。――時々バカになるけど。


 まあなんだかんだ頼りになる。短い付き合いだがな。




 ミオンが使える魔法は全部で三つある。三つも……。敵を貫く『フレイムランス』、煙幕を生み出す『爆煙』、そして三つ目は――


「炎よ 我の魔力を喰らいて 敵を燃やし尽くせ『炎海』」



 ミオンの周りには赤い魔法陣のようなものが形成される。ミオン曰く、より強力な魔法を発動すると勝手にできるらしい。まあ本人曰く、どうでもいいことらしい。


 その魔法陣からは大量の炎が生み出される。その炎はまるで、津波の様な勢いでローンウルフ達に襲いかかる。まさに地獄のような光景だ。 



「キャオオンッ」



 ほとんどのローンウルフは炎に飲み込まれ、光の粒子となり消えていった。


 ただ、何体か生き残りがいる。木の上に登って避けたのだ。


 俺はこんな感じの生き残りを始末する係だ。こんな簡単な作業をするだけで、たくさんの経験値が入るんだから儲けもんだ。



 《レベルアップを確認しました》



 無機質のような声が俺の脳裏に響く。

 レベルアップ――今日の目的が早速果たされたな。


「リヒト様〜レベル上がりましたよ!」

「ああ、そんな大きな声で言わなくても分かってるから」


 相変わらずミオンは元気だな。

 まあ別にいいんだが、もうちょい女の子らしくして欲しいもんただ。



 俺はため息をつきながらも、自分のステータスを確認する。


 ――――――――――――――――――――――――


 リヒト Lv3


 職業 魔剣士 Lv1


 HP 32

 攻撃 36

 耐久 17

 魔力 23

 敏捷 39


 スキル

 魔剣耐性 Lv1 

 憤怒の力 Lv1

 鑑定 Lv1

 異空間収納 Lv1

 身体強化魔法 Lv1


 称号 

 憤怒の罪 

 武神の弟子

 早熟


 ――――――――――――――――――――――――


 全体的に能力値が上がってるな。だがやはり魔力は上がってない。それにこの間は気が付かなかったが、耐久も上がってないらしい。



 職業のせいか? それとも憤怒の罪っていう意味わかんない称号か。まあ考えても無駄だな。とりあえず他のを……って。



 俺はある言葉に目がいった。ステータスプレートに書かれている二文字。



「ま、魔法だ!!」

「おや、とうとうリヒト様も魔法を、習得なさったのですか。一体どんな魔法ですか?」



 念願の魔法だ。俺は胸が踊る気持ちになっていた。

 どんなと言われても、俺はまだ魔法という文字しか確認していない。



「身体強化魔法? これって、ただ身体能力が向上するだけの魔法か?」

「はい、そうですね。リヒト様にはピッタリでは無いのでしょうか?」



 確かに、ミオンの言うことは正論だ。

 俺は今まで剣を使って戦ってきたし。

 職業だって魔剣士って変なやつだし。



「そうなんだが。なんかこう、グワーッて感じの魔法がよかったな、と」

「……」




 何故だろう。今、俺はめちゃくちゃ恥をかいた気がする。ミオンは、じと目で俺を見てくる。

 ミオン。その目は何だ。そんな目で見られると気づつくんだが。



「リヒト様って、時々バカになりますよね」

「……お前には言われたくない」





 俺はステータスを確認し終え、今は素材の回収を行っている。


 前世ではいちいちモンスターから剥ぎ取らなければ行けなかったが、この世界では素材の回収がかなり楽だ。なんせ、光の粒子をただ異空間収納に収納すればいいだけなのだから。



「収納っと」


 俺は地面に転がっていた光の粒子を異空間収納にしまう。

 これをあの受付嬢に渡せば依頼完了だ。



「いや〜しかし、リヒト様ってほんと便利ですね」

「人を便利グッツみたいに言うな」

「嫌だって、異空間収納を、使える人なんて滅多にいませんし。普通は持ち歩かなければ行けないですし」




 ミオンの話によると、異空間収納を使えるものは極稀らしい。ほとんどの冒険者は、マジックアイテムの異空間収納を持っていくらしい。

 ただ、マジックアイテムの方は許容量がかなり少ないらしいく、何かと不便らしい。



 ちなみに、俺の異空間収納はまだまだスペースがありあまっている。



 素材も、回収し終えた俺達は街に帰ることにした。

 特にここにいても意味ないし、魔法は一応習得したし。


 そこら辺の魔物で強化魔法を試してみようかと考えたが、今じゃなくてもいいだろうとミオンに言われたので諦めた。


 どうやらミオンは腹が減ったらしい。

 ミオンの立ち居振る舞いとしては、女の子として如何なものか。一応メイドなんだけど、忘れてないよな?



「なあ、ミオッ!?」

「……ッ!」


 俺がミオンに話しかけようとした途端、何処からか強烈な殺気を感じた。

 この世界で出会った中で最も強い殺気。


「どこからだ!?」


 俺が辺りを見渡すと誰もいない。

 ――と、思った瞬間。俺の目の前にいきなり姿を表した。


 そいつは、なんというか異形だ。上半身は20前半の黒髪の女。下半身は強靭な、馬のような足。まさに異形。


「は〜いご機嫌どウ? 私は最高ヨ?」


 言葉とは裏腹に、収まることの無い殺気。


 俺はそれに恐怖を抱いた。怖いとかそういう簡単なものじゃない。なんとも言い難いこの気持ち。



「あらヤダ。貴方、なんか臭うわヨ?」

「ちゃ、ちゃんとお風呂には毎日入ってますよ!」

「貴女の事じゃないわヨ」


 こいつの見た目からして、まず間違いなく人間じゃない。とゆう事はこいつらが例の魔王の手下か?




「申し遅れましたネ。私は、魔王軍第三四天王様が配下。名をプルーネと申しまス。以後お見知り置きを」

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