第18話
あの場所は予備魔導猟兵中隊と合流した空挺大隊に任せ、俺はこの地の憲兵司令部を訪れていた。慌てて駆け寄ってくる憲兵を視線だけで制し奥から憲兵司令のラーケン大佐が現れる。
「閣下!何事ですか?」
「ラーケン大佐。どういう事だ?」
既にホルスターから
「あ、あの閣下。我々の方でも人手が足りず。」
「成程、大佐。貴様の私服を肥す暇は有っても管理をする暇はないと?もう良い。次席司令。」
「はっ!小官ラインハルト・エーリッヒ憲兵中佐であります。」
現在参謀本部隷下のピエトログラード憲兵司令部は俺の指揮下にある。
人事権までも。
「エーリッヒ中佐。貴官憲兵大佐に野戦任官しピエトログラードの憲兵司令に任命する。大佐、前任者を射殺しろ。」
「はっ!カーラー少尉銃殺しろ!」
憲兵将校数名がラーケンを連れて消える。
それがケチの着き初めだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
「閣下、モスコーへと前進命令です。」
「モスコー?いつの間に占領したんだ?」
ピエトログラードに置かれたロクソニア旅団司令部。数日前にモスコー郊外で戦闘が始まった報告は受けていたが、あまりにも早い。しかも今は間が悪く冬、不味いな。
「前線司令部からは何と?」
マリアから手渡された書類にはそれこそ幼年学校の生徒ですら分かるような明白な罠だった。
「馬鹿な前線司令部に入電してやれ、モスコーを爆破後、今すぐ撤退しろと。俺は参謀本部から圧力をかける。」
その書類に少し書きいれると魔導師を呼び出し1名参謀本部まで走らせる事にした。
電報より詳細な情報を早く送るにはこれしかない。
数日後
「閣下!大変です。モスコーが重包囲下に置かれ3個師団が孤立しました!」
「馬鹿が!誰の立案だ!」
「それが…ヒンデンブーク閣下だそうです。」
「老害め。参謀本部は何と?」
「それが参謀本部からはノルマルディアに転向せよと。我々は先に帝都へと向かわなければなりません。」
「何故だ?」
「ルーデンドルフ閣下より書簡です。読了後焼却するようにルーデンドルフ閣下の甥御のリヒナー憲兵少尉が持参しています。」
「読もう。少し待て。」
厳重に封がされている。ペーパーナイフに魔力を通して魔術的に封印された書簡を開く。内容は最悪を示していた。
「閣下、内容をお聞きしても?」
「貴官なら構わんだろう。座れ。」
対面の椅子を示し着席を確認すると音声遮断の術式を展開する。
それに唯ならぬ物を感じたのかマリア少佐は端正な顔を顰める。
書簡を放り、読み終えるのを待つ。
その間書類にサインしつつ冷めきった代用珈琲に手を伸ばす。
その炭色の液体は苦いがカフェインが感じられない。
結局一気飲みするとピエトログラードで手に入れた珈琲豆を挽き珈琲を2杯分入れた。
マグカップを目の前に置くと読み終えたマリアが顔を上げ溜息をつく。
「合州国の介入が確定ですか。」
━━━━━━━━━━━━━━━
かの大戦当時合州国政府の介入決定は遅かった。合州国政府は当初混迷極める世界情勢に乗じメキシカーナ合州国への侵攻を企図していた。対メキシカーナ国境線で圧力を強めるとメキシカーナは当たり前であるが帝国率いる大陸同盟へと接近。南アメリカーナの帝国植民地軍2個師団が後方支援に入り、外交ルートで帝国からは兵を引きメキシカーナを合州国に明け渡す代わりに帝国側でカナディア植民地への攻撃を要請。1時はそれを受諾したものの帝国の同盟国秋津洲皇国軍が空母機動部隊をもって太平洋の合州国最大拠点ワイハ島バールハーバーへと奇襲を開始した。その時点で対帝国外交交渉を中止。合州国政府は太平洋方面で帝国領東バーラトや帝国領バーラト、南洋諸島を攻撃した。
太平洋方面ではほぼ効果は無かったものの皇国軍は二正面作戦に耐えられず確保していた連邦領土から徐々に後退を開始し戦線は降着したものの連邦軍は押さえ込んだ皇国軍を放置し対帝国向けに東部戦線へと増派。
合州国軍は反攻の狼煙を上げるため帝国勢力から南方大陸を解放することを決定した。
その規模は合州国軍5個師団、自由連合王国軍2個師団である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます