第28話 落とし前

 雅美さんのスマートフォンがブ、ブーッと一回だけ唸りました。電話ではなさそうです。

「どなたからですか」と私。

「え?。。。」と雅美さん。

 何やら長いこと雅美さんはスマートフォンの画面を見つめています。

「寺岡さんですか」

 雅美さんはそれには答えず、

「私、これから蓼科へ行ってみようと思います」

「またあ、急にどうしたんですか。行ってどうするんですか。住所もわからないのに」

「お願いがあるのですが、紀子さんの自殺の件、お婆さんについてももう少し調べてもらえませんか」

「え、それはもちろん、いいですけど。蓼科のどこなのかわかったんですか。心配です」

「寺岡支店長から叔父さんの名刺が届きました。大丈夫。私も落とし前をつけないと」

 落とし前。社長が雅美さんへメールで口にした言葉。そう言って、雅美さんはぼんやりカラオケのモニターを見つめるのでした。あまりに長く見つめるので、

「雅美さ~ん、大丈夫ですか~」

「え?」

「雅美さん、やっぱり、私も・・・」

「あ、いえ、いいんです、これは、これだけは・・・じゃ、紀子さんの件、よろしくお願いします」

「・・・はい、わかりました」

 雅美さんがスマートフォンのモニターの先に見たものは何だったのか。それは結局教えてくれませんでした。

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