第34話 国立研究所
フェルナンドの家やパティスリー・メルティルビーのある、メインストリート。
そこを道なりにずっと行くと、王城がある。
そのすぐ隣が、国立研究所だ。
入口の門。
番兵役の聖騎士が二人で守っている。
聖騎士は、この聖国家エルドロットにおける、国付きの戦士の呼称だ。
軍隊として兵の数は少ないものの、個々の実力は他国の兵を圧倒する。
ちなみに、退役した聖騎士は「聖戦士」と呼ばれる。
フェルナンドが「人身御供の“聖戦士”」なんて呼ばれるようになったのも、彼が元聖騎士であるというのが由来の一端だ。
フェルナンドは、聖騎士たちに声をかけた。
「あのー、すみません。
研究員の、アメリア=フランシスカの兄なんですけども…」
聖騎士たちの目の色が変わる。
「あっ、えーと…いや、その、私…
ちょっと彼に呼び出されまして…」
怪しい奴だと思われたか…?
フェルナンドは必死に繕う。
だが、フェルナンドの危惧とは裏腹に、
「フェルナンド=フランシスカ様ですか…?!」
…聖騎士の声色は、興奮に上擦っていた。
「あっ、はい、そうです。
フェルナンド=フランシスカです…」
「お噂はかねがね…
“人身御供の聖戦士”の武勇は、我々聖騎士の耳にも届いております」
「えっ、そうなんですか…
ちょっとまぁ…武勇ってほどのものじゃないんですけどね…ハハ」
「ご謙遜を…!
先日も、巨大ケルベロスを討ち果たされたとか」
…ケルベロスを討ち取ったのは、自分でなく、クラリッサ・モナモナ・ジェスターの3人。
ケルベロスにとどめをさした時、自分は死んでいた…。
まあわざわざ否定するのも何かアレなので、フェルナンドはもう黙っておくことにした。
…と、そこへ。
「こーら、そこの聖騎士さん達!」
門の奥から、聞き慣れた声。
聖騎士二人とフェルナンドの会話に割って入る。
「その人面白いのは凄く分かるけど、彼は今日はオレの客なんだよねー。
譲ってもらってもいい?」
「はっ、失礼しました!」
聖騎士二人が、敬礼する。
フェルナンドの眼前に歩み寄る、空色の長髪をまとめた白衣の男。
フェルナンドが腰に提げた、石化した剣を一瞥。
フェルナンドからケーキの箱を奪って、にっと笑う。
「会いたかったよ、フェリィ!」
そう─────
彼こそ、フェルナンドの弟。
アメリア=フランシスカである。
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