第24話 思いがけない報酬

「お前…何て格好してんだよ…」


ギルドマスターに咎められ、フェルナンドは頭をかいた。


「はは、すみません…。

私といっしょに服も石化しちゃって…。ジェスターのを借りてるんです」


ヘソ出しTシャツ、ピチピチのズボン、裸足。

見れば見るほど情けないこの長髪の男。

しかし彼が巨大ケルベロスを討ち取ったパーティーのリーダーであるということは、既にギルド中に知れ渡っていた。


「あ、あと、すみません、マスターさん…。

依頼書の控えも石化しちゃって…」

「あー、いい、いい。

今回はしょうがねえよ。何より、俺がちゃんとお前に依頼出したの覚えてるから」

「ありがとうございます…申し訳ない…」


ギルドマスターは、奥から、依頼書の原本を引っ張り出してきた。

依頼書に手をかざす。

離れた場所の様子を見る遠視の魔法で、ケルベロスがきちんと討伐されたかを確認する。


「…よし。

しっかり仕事してきたな。

この依頼は…うん。金貨40枚だ」

マスターの笑顔。


ありがとうございます。

フェルナンドは、そう礼を言いかけたが、


「あと、これもな」


…マスターの言葉で遮られた。

彼は、別な書類を数枚、机上に並べる。


「あの…これは?」


尋ねるフェルナンドに、マスターが答えた。


「全部、例のケルベロスを討伐してほしい旨の依頼だ。

調べてみたら、同一個体の依頼だったってワケだな」

「え…、私達が倒したあの巨大ケルベロスですか?」

「そういうこと。

こんなことめったに無いんだが、各所相当手を焼いてたらしいなぁ」


ギルドマスターは、各依頼書に判を押していく。


「だから、この依頼の報酬も、皆お前らのもんだ。

さっきの40枚とトータルで、金貨120枚」

「120枚?!」

「ああ。

正直、120枚でも割に合わんくらいの仕事量だとは思うが…まぁ納得してくれ」


納得するも何も、ケルベロスを倒した報酬としては超高額だ。

普通は、ケルベロス1匹の駆除なんて、金貨15枚くらいの仕事。

120枚なんて…8倍の額だ。


まあ、あのケルベロスは、普通サイズのケルベロスを8体同時に相手するより遥かに難敵だった。

割に合わないと言えば、合わないのかもしれない。

けれどフェルナンドは、別にそんなことはどうでもよかった。

自分の仕事で、これだけの人が助かった。

そのことがただ嬉しかったのだ。


彼の胸は、すっかり満ち足りていた。


腹もそれに伴うように、重く─────え?



ギルドマスターは、奥から金貨袋を取り、フェルナンドの前に持ってくる。


「はいよ、じゃこれ…

…ん?」


「すみません、マスターさん…」

フェルナンドは─────腹をさすっている。

「お腹出してたら、冷えちゃって…

中座してトイレ行ってきていいですか」


マスターは、つい笑みを漏らした。


「おー行ってこい。

あとギルド内の防具屋に話つけとくから、何でも好きな服着て帰れ。おごりだ」

「すみません…ありがとうございます…」

「分かったから早く行け」

「はい…あいたたた、お腹痛い…」



腹を抱えて、前屈みで離席するフェルナンド。


ギルドマスターは彼の背姿を一瞥する。


最高に締まらない戦士の背中。

今回は石化から生還した、“人身御供の聖戦士”。


やっぱり面白いなぁ。

マスターは口元をほころばせ、ギルド内の防具屋に内線電話をかけた。


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