テンプレ61 「やりすぎ」
「俺とジョニー号なら、だいたい今日中には辿り付ける道のりだが、大事をとって2日かけて行く。妨害がなければリミットとかいう野郎が色々策を巡らす前に潰せるだろう」
そう言いつつ、バキバキと音を立ててルーのトランシーバーを破壊する。
たぶん、それ以外にも連絡手段は持っているのだろうが、分かっている物をわざわざ放置するいわれもない。
全員がトラックへと乗り込むと、助手席にはルーが着座する。
フェデックのみ自分のバイクに跨り、追走する。
「お~、前はこんな感じなんだね~!」
目に映るもの全てが珍しい物のようで、楽しそうに周囲に目を配る。
「よくヤマトが文句を言わなかったな」
「みんな優しいからね~、こんなところにスイちゃんを放置するのは気が引けるみたいで縛り上げて後ろに乗せてるよね? 万が一自由になった場合にクロネちゃんが心配らしいからね。ここにはこれないでしょ」
「そうだな」
イスズはそれだけ言うと、キーを回し、ジョニー号のエンジンに火をつけた。
ゆっくりと荷台に乗るメンバーに負担をかけないよう、ジョニー号はまるで揺り篭のように優しくゆっくりと走った。
途中にあった村でスイを落とすと、勇者までの道のりをかなり残し、この日は歩みを止めた。
※
翌朝。日が昇ると同時に荷台の扉が勢い良く開かれた。
「完全ッ!!」
「……復活」
腕をクロスしたポーズを取りながら、クロネとアリは叫んだ。
しかし、早朝にその声を聞くものは誰もおらず、2人はポツンとその場に立ち
「せっかくの登場に誰もいないってどういうことだよ!!」
アリは文句を口にするが、クロネはアリに文句を言いたかった。
それはアリが絶対に派手に登場した方が皆喜ぶという言葉に騙され、わざわざポーズとセリフを言っていたのだが、この
「……むぅ」
クロネはアリを投げ捨てると、再び毛布をかぶり、自分の中で無かったことにしようと努めた。
クロネの復活が知れ渡ったのは、数時間後にイスズが投げ捨てられたアリを見つけた頃だった。
※
この日は特に勇者パーティからの妨害は入らず、スムーズに進み、あっという間にエスパダの前へと辿り着いた。
門兵たちがジョニー号に何か言いたそうだったが、イスズ、クロネ、ヤマトというそうそうたる面々に口を閉ざす。
「さて、あとは勇者リミットを見つけるだけだな」
イスズがアリを手に呟くのと同時に頭上からゆっくりと人影が1つその場へと現れた。
「そう簡単にはいかないか。勇者パーティの新手だな」
カランッ……。
イスズの手から何故かアリが転げ落ちる。
「なんだ? なぜ、落とした……」
イスズは力なく、その場で崩れるように膝をつく。
「こ、これは……」
門兵たちもいつのまにか倒れ、周囲を飛ぶ鳥、草むらに蠢く虫たちですらその場に倒れ伏していた。
エスパダの中でもこの異変は起きているようで、何かが衝突するような音がいくつも響く。
クロネ、ヤマト、そして仲間であるはずのルーさえもその場に倒れていった。
「くそっ……」
そして、とうとうイスズもその意識を手放した。
頭上から降り立った影は、魔法使いのような、とんがり帽子にブラウスとスカート姿の女性だった。
「えっと、この辺一帯に睡眠の魔法かけろって言われたからやったんですけど。もしかして、やりすぎちゃいました?」
イスズたちもいつの間にか眠りへと落ちているようで、その場に倒れた。
魔法使いは手に短剣を握り、その刀身をまじまじと見つめる。
「これ一突きで終わるんだけど。人の形をしたものに刃物を突き立てるって……」
「魔物なら殺す抵抗も少ないかな」
自分で自分の行いを弁護するように独り言をぽつぽつと呟く。
「勇者パーティの魔法使い、ファシアン。行きます!」
魔法使いは先ほどの言葉とは裏腹に一切の
ガチッ!!
肉体にずっぽりと入っていくのを予想していたのだが予想外の固い手ごたえに目をしばたたかせた。
「へっ? なんで?」
疑問に思っていると、その隙を狙ったかのように火球が襲う。
「あっ――」
言葉を発する間もなく、魔法使いは吹き飛ばされた。
「……だまし討ちにはだまし討ち」
不愉快そうにぽつりと言いながら立ち上がったのは、魔王のクロネだった。
ローブの下のワンピースにはいつの間にか氷で出来た胸当てがついており、ただの短剣くらいならば、造作もなく止められたのだった。
「……いっぱい寝てたんだから、もう寝てられない」
下級魔法を無効にする能力を備えるクロネにはファシアンの魔法は効いておらず、不意をつく為に寝たフリをしていたのだった。
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