テンプレ59 「勇者パーティ 格闘家」

 ヤマトはトラックの前で寝ている幼い少女に近づくと、その気配に気づいたのか、少女は目を覚ました。


「う~~ん。よく寝た~!!」


 幼い少女は目をこすりながら体を伸ばす。

 

 幼女の見た目は格闘家と言われているにも関わらず、髪の量は多く、ツインテールにして束ねている。その服装も体にピタリと張り付き動きを阻害しないラッシュガードにスカート姿。スカートの下にはスパッツのようなハーフパンツを着ているが、どう見ても格闘家の格好には見えなかった。

 唯一格闘家らしい姿と言えるものは、その両手に装備された手甲くらいであった。


 キョロキョロと周囲を伺い、トラックという巨大な鉄の塊を見つけたスイは、ハッとした表情を見せる。


「そうだった! ルーちゃん! スイは進路妨害しないといけないんだった!」


 今ならまだ間に合うと考え、即座に行動に出る。

 飛ぶように立ちあがると、その反動のまま、拳を地面へと突き立てる。

 まるで内側から爆発でもあったかのように地面が弾け飛び、巨大な穴が生まれる。


「よ~しッ! この調子で次行こう!!」

 

 スイは少し移動して、再び拳を振り下ろすと、あと少しで地面へと触れるという瞬間にガシッとその手を掴まれた。


「ッ!! 誰っ!?」


 スイは自分の手を掴んだ主を確認すると、そこには銀髪、巨乳の美少女が水着かと見間違えるほど露出度の高い姿で睨みつけていた。


「おねぇさん。誰?」


「元勇者ヤマトよ。あんた自分が何してるかわかってるの?」


「うん! 妨害作業って言うんだよね」


 その言葉を聞いて、ヤマトは安心したように微笑んだ。


「そう、なら安心して殴れるわね!」


 容赦なく顔面を狙った一撃をヤマトは繰り出すが、その拳に怯えることなく、スイは体を伏せて回避する。そしておまけと言わんばかりに、ヤマトのあご目がけ蹴りを振るう。


「くッ!!」


 ヤマトは蹴りを回避する為、手を放し上体を反らした。


「なかなかやるわね!」


 自身の一撃をかわし、尚且つ反撃までしてきた幼女にヤマトは賞賛の言葉を送る。

 こういう場合、相手も認めるようなセリフを吐くのが様式美ようしきびだが、幼いスイにそのような気遣いはなかった。


「おねぇさんも太ってるのに良く動くね!」


「はっ? 太ってる?」


 ヤマトは怒りと困惑で、口の端をぴくぴくとひくつかせながら聞き返す。


「え~、だってぇ、普通にしっかり鍛えてたらそんなに胸に脂肪つかないよ?」


 スイはピタリとした服によって強調された自分の胸筋を指差す。


「そう。自分の発育の悪さを棚に上げて、このアタシのパーフェクトボディをデブ扱いするって訳ね。覚悟はいい?」


「そっちこそ、修練不足を棚にあげて、スイの練り上げられた身体を発育不足って言うんだ。贅肉で脆弱な部分は鎧でガードしなくていいの?」


「子供相手には武器も防具もなしでちょうどいいくらいよ」


「スイを舐めると痛い目にあうよッ!」


 ヤマトの瞳は銀色に変わり、「アクセル・アクセス」と叫ぶ。

 それと同時にスイは体中に気を張り巡らせ、「はぁああああっ!!」と気合の声を張り上げる。

 

 2人のオーラの前に周囲の空気は小刻みに震え、まるで天変地異の前触れのように不穏な空気が漂う。


 そんな剣呑とした空気の中、まるで空気を読むことを拒否しているかのような明るい声で、スイを応援する声がルーから上がる。

 手にはいつの間にか、手旗が握られ、応援体勢バッチリであった。


「スイちゃん、ガンバレー!!」


 その言葉を皮切りに2人は同時に動いた。

 ヤマトの一撃を避け、懐へと潜り込んだスイはピタリとくっつく。


「そんなゼロ距離じゃ何もできないでしょ!」


 ヤマトの言葉を無視するようにスイは軽く拳を当てる。


「ここがスイの間合い。そしてこの間合いこそがスイの世界! Welcome to the Worldスイの世界へようこそ!!」


 その言葉と共に体中を突き抜ける衝撃が突き抜ける。


「ガハッ!!」


 まるで水面を揺らす波紋のようにダメージが内臓にまで響き、吐血する。


「ふ~ん。普通ならこの一撃で決まるのに、一応頑丈さだけはあるね!」


 後ろに下がろうとするヤマトから全く離れず追随し、2撃目を見舞おうと拳を再びつける。


(マズイ! もう一撃もらったら流石に倒れる。けど、この位置じゃ殴っても威力がでないわ。せめて反動をつけられるような何かが……)


 そう考えつつ、少しでもチャンスが生まれるよう後方へと下がり続けた。


 ドンッ。


 下がり続けた結果、ヤマトの背に堅い物が当たる。


「ジョ、ジョニー号」


(こ、これは、避けたら確実に死ぬ。喰らっても倒れる。最悪血反吐で汚したなら、それも結局死ぬわ! こ、こうなったら、前に出るしかない! 倒れるにしてもうつ伏せよッ!!)


 ヤマトはやぶれかぶれで両手を振り下ろす形で手刀を繰り出す。


(これが効くとは思えないけど、一度距離さえ取れればっ!)


 そんなヤマトの思いとは裏腹に、その手刀は恐ろしい威力でスイに炸裂した。


「へっ!?」


 繰り出した本人が一番驚いているが、喰らった当の本人は、肩を押さえ片膝をつきながらも冷静に分析した。


「ま、まさか、胸の上下運動を利用してゼロ距離からでも威力を出すなんて。スイには出来ない戦い方……。こんな戦法があったなんて……。ずるいよ」


 そのまま、倒れ行くスイの体をヤマトは支え、聞こえているかどうか怪しい相手に対して言った。


「ま、まぁね。これこそ、この胸が必要な理由よ!! アハハハッ!!」


 偶然の勝利。それを悟られないように発した言葉。どれもが大人気おとなげなかった。

 最後だけこれまた偶然見届けたイスズは、スイを応援していたルーに思わず感想を吐露した。


「あいつらバカだろ」


 ルーもルーで乾いた笑いでしか返事を返せなかった。

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