テンプレ45 「魔王への復帰」

 テンペストは気絶した後、クロネの指示によって地下牢へと幽閉されることとなった。

 なぜかわからないが、イスズは幽閉されるテンペストについて行き、気絶しているにも関わらず説教を続けている。


 残されたクロネ、ヤマト、アリはその様子を見て、全員が同様の感想を抱いた。


「ここまで徹底してると褒めるしかないよな」


 アリだけはついつい、言葉にしてしまっていた。


 見送った3人に妙な沈黙が流れる。

 始めに口を開いたのはクロネだった。


「……魔王。復帰」


 その言葉は独り言のような、もしくは仲間内だけの合図のような、小さなものだったが、テンペストの兵として働いていた者たちは一瞬で全員が青ざめた。


 テンペストという魔王に仕えていただけで非はないとはいえ、一時はクロネと敵対していたのだ。自身だけの処刑ならまだしも一族郎党根絶やしにされてもおかしくはない状況。


 クロネがゆっくりとした足取りで、地に伏す兵士たちに向かうと、彼らは冷や汗を流し、中には涙を浮かべる者もいた。

 しかし、クロネはそんな彼らを通り過ぎると扉を開け、ネブラを呼びつけた。


 一つ目の魔物、ネブラはクロネに呼ばれると血相を変えて全力で王の間へと駆けつけた。


「ぜぇぜぇ、ギギィ、クロネ様、どうなさいました?」


「……ヤマトが勝った」


「ギギッ! それはつまり!」


「……テンペストに魔王の器はない。だから」


 クロネが再び魔王になる。そう告げると、ネブラはうやうやしく頭を下げた。


「ギギッ! おかえりお待ちしておりました」


 クロネは頷くと、咳払いを1つして魔王としての口調で語りかける。


「これから王の帰還を宣言する。ネブラ、ドレスを。それから皆を外へ集めろ」


「ギィ。かしこまりました。クロネ様、いえ、魔王様。この者たちの処遇は?」


 ネブラは怯えの表情を見せる兵たちに、その大きな目を向ける。


「今回の件はテンペストの指示に従ったまで、悪いのはヤツであり、彼らは不問とする」


 クロネの言葉に兵士たちは一様に安堵の表情を浮かべ、復権した魔王への忠誠を心に誓った。

 ネブラはクロネの寛大な処置に、昔と変わらぬ慈悲深い姿を思い出し、心を振るわせた。


「ギギッ! お前ら、魔王様に感謝しろ! わかったら、すぐに皆を外へ並ばせろ!」


 兵士たちに激と指示を飛ばし、ネブラはクロネに一礼すると退室した。


 王の間に、クロネとヤマト、アリの3人だけが残されると、クロネは緊張が解けたように大きく息を吐いた。


「……ふぅ、疲れた」


 これからを考えると、心労の色が顔へと現れる。

 そんなクロネにヤマトはつとめて明るく声を掛けた。


「ふふんっ。アタシのおかげで魔王に戻れた気分はどう?」


「……嬉しい。ヤマトには感謝してる。だから、次はワタシの番」


 ストレートに感情を表現するクロネの笑顔に、同じ女性ながらもドキッとしてしまったヤマトは取り繕うように、イスズの様子を気にする素振りを見せる。


「あのイスズのやつ、ずっと説教してるみたいだけど、今どうしてるのかしらね~」


「……たぶん、まだ地下牢で説教してるんじゃ」


「まぁ、そうよね。あ、そうだ。あんたが皆の前で復帰を伝える晴れ姿をあいつにも教えてあげないとね。ちょっと行ってくる」


 クロネは小さく頷くと丁度、メイド姿をした魔物が漆黒のドレスを運んで来た為、クロネは着替えに、ヤマトはイスズを呼びに分かれることとなった。

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