テンプレ25 「リミッター解除」

 翌朝、日が昇ると同時に野営を片付け始め、早々にトラックへと乗り込む。

 助手席に座る者を決めるため、ヤマトは他者を押しのけようとするのだが、その途中裏拳をイスズにお見舞いし、怒ったイスズにそのまま荷台へと詰め込まれた。

 アリを助手席へと積もうとしたが、その手をクロネに止められた。


「……魔王城の周囲は危険。ワタシが案内する」


 その結果、現在助手席にはクロネが座り、ヤマトとアリは荷物のように荷台に投げ込まれていた。


 エンジンが掛かり、しっかりとディーゼルの排気音がすることに安堵しつつハンドルを握り、前を見据える。


 隣に座るクロネは早朝の為、まだうつらうつらとしており、今にも船を漕ぎ出しそうであった。


「……すごく、早い」


「もっとシャッキリしろッ!!!」


 くわぁ~っとあくびを漏らしながら呟くクロネを怒鳴りつけながら、左手で頬をつねりあげる。


「い、痛いっ!」


「目が覚めたか?」


 涙目で頬をさするクロネは精一杯頑張って、「……はい」とだけなんとか言うことが出来たが、小さな声ではダメだったようで、イスズはもう一度目が覚めたか聞いてくる。


 頬の痛みも少しは良くなったクロネは、大きな声で今度はきちんと、「はいッ!」と返事した。


「そうか、目が覚めたようだな」


 この一連のやり取りの間もイスズは一度も視線を前方から逸らさず安全運転に努めた。

 その行動が功を奏し、いち早く前方の不可解な光に気づくことができた。


「なんだありゃ?」


 その光が凄まじい速度で飛来してくるのを見て、咄嗟にイスズはハンドルを切った。


「きゃっ!」


 なんとか光を避けることに成功したが、急にハンドルを切った為、隣の助手席に座っていたクロネは体を大きく振られ、今現在はイスズの膝に覆いかぶさるような形になっていた。


「おい。なぜシートベルトを締めていない?」


 苛立った口調でクロネに語りかけ、首根っこを掴んで席に戻しかけた瞬間、


「ッ!!」


 再び光の閃光がジョニー号を襲う。

 イスズはクロネから手を離し、ジョニー号を操作し、ギリギリでかわす。


 クロネは自分の立ち位置を心配し、イスズの表情を確認しようと顔を上げると、声にならない声を上げた。


 悪魔も尻尾を巻いて逃げ出すような禍々しい笑みを浮かべてはいるが、その瞳には漆黒の意思が宿り、1ミリたりとも目は笑っていない。

 激怒。その2文字以外にこのアンバランスな表情を表現する方法をクロネは知らなかった。


「ヤロー。1度ならず2度までもジョニー号を狙いやがった。ふ、ふふっ。覚悟はできているんだろうな?」


 だが、正直なところ、ジョニー号に一度も閃光を受けずに、その元まで行く手段はないといってもいい。


「チッ! リミッターがなければ」


 イスズが唾棄するようにそう言い放つと、


 ザッ、ザザァーー!


 もう使い道はないと思われていたジョニー号の無線から声が漏れ聞こえる。


「おっはようございます! 困ったときのフェデックくんです!! イスズさん、1つ言い忘れていました。ハンドルの下へ手を伸ばしてみてください」


 イスズは言われた通りにすると、ハンドルの下から1つの機械を取り出す。


「これは――」


「イスズさんなら、それが何か分かりますよね。もちろん使い方も! それでは良きドライブを」


「ああ! 了解だ。今だけはお前に感謝しとくぞ」


 一息置くと、イスズは閃光が来た方向に睨みを利かせた。


「いいだろう。俺とジョニー号の本気を見せてやろう」


 イスズはいくつかの計器をいじり、最後にクロネを退かし、ハンドルの下へと手を伸ばした。


「行くぞ! リミッター解除ッ!!」

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