Vampire night(3)

 朝。


 僕は珍しくキッチンに立っていた。昨夜、体調を崩した魅夜みやに代わって朝食を準備して驚かせようという心算である。


 いつも使ってるのに綺麗に磨かれたキッチン。整理整頓された調味料やスパイス。大、中、小のフライパンに中華鍋。足元の棚を開けば種類豊富な包丁の数々。


 どれがどう違うのかさっぱりわからん......


 冷蔵庫から食材を取り出して炒めてみたり、蒸し焼きしてみたりして出来上がった料理は一体何料理なのか作っておきながらさっぱりわからん。きっとまずい。それだけはわかる。


 テーブルにランチョンマットを敷き、それらしくするとそれっぽくなるな、うん。いける?


 料理?を眺めながら味見してみようかと手を伸ばしたタイミングでガチャ、とドアが開いた。


「おはよう、ござい、ます」


 まだ眠いのか魅夜みやは目元を擦りながら席に着く。既に学校に行く準備はバッチリみたいだ。顔色も良くなっている。


「これ、お兄ちゃん、が、作った、です?」


 目の前の料理に目を見開いている。


「ああ、まあ一応ね。初めて作ったから美味しいかはわからないけど。不味かったら残していいからな?!」


 魅夜は微笑むとパクパクと食べ進めていく。


「どうかな?」


「美味しい、です。嬉しい、です」


 花が咲くようにふわっとした笑顔。


 一先ず安心。嬉しそうに食事を続ける姿を確認して先に調理器具を洗う。


 洗い終わる頃には食べ終わり、食器をシンクまで運んできてくれた。


 洗ってくれるという申し出を手で制して食器を受け取ると、魅夜はまた嬉しそうに笑った。


 どうやら僕の心算は成功したようである。喜んでくれて良かった!


「お兄ちゃん、ミヤ、日直なので、先、出ます、ね?」


「ん、わかった。気をつけろよ。最近なんか変な事件も起きてるみたいだし」


「......」


「魅夜?」


 少し考え込むような素振りを見せた後にコクリ、と頷く。

 玄関の開閉する音を聞いてから僕もテーブルにつく。


「いただきまーす」


 魅夜も美味しいと言ってくれたのだ。はじめての割に上手く出来たらしい野菜炒め?を口に運ぶと、


「––––––んごへっぺぼふろぼふぶべぴっひ」


 クソ不味い。


 耐えて食べられる代物では到底ない。


 えぐみ、苦味、塩味が口内を蹂躙し、咀嚼するたびに鼻から抜ける甘い香りに吐き気を催す。


 吐き出さないように口元を押さえながら水で流し込む。


「ぜぇ...ぜぇ...おっえ」


 口内はさながら世紀末。


 マンガで見るメシマズヒロインを馬鹿にしていたが、僕にそんな属性がついていたとは......誰得やねん。


 魅夜の食べ終えた空の食器を思い出し申し訳ない気持ちになるが、こんなのよく食べられたものだ。


 帰ったら謝ろう。全力で。


 ありがた迷惑とはきっとこれのことなのだろう。

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