Vampire night(1)
エルフさんとのあれやこれやから数日。
「はーくん、辞書を貸してほしいな」
「はい、いいですよ」
教室で。
「はーくん、はーくん、一緒に部室いこっ」
「はい、行きましょうか」
廊下で。
「はーくん、はーくん、はーくん、一緒に帰ろ?」
「じゃあ駅までですけど一緒に帰りましょう」
下駄箱で。
––––––完全に懐かれていた。
「さて、これはどぉいうことか説明してもらおうかあ?」
コバヤシにしてはやけに粘っこい口調で肩を組んでくる。目が怖い......
最近は専らエルフさんと帰ることが多かったので一緒に帰るのは久々だったりする。
まあ確かにここ最近、僕とエルフさんの距離はかなり近しいものになっていたし、その自覚もあるのだが、物理的な距離感も縮まってきているので理性と戦う日々である。
はーくんとは僕のことなのだが、エルフさんに呼び方について聞くと、『嫌?』と不安そうに聞かれて全力で問題ないことを敬礼して伝えた次第である。
「まあ、色々あったんだよ」
「な〜んだよぉ、お〜し〜え〜ろ〜よ〜!」
キィキィとイケメンらしからぬ駄々のこね方をしている。
何故こんなに気にされるのかというのも、あの森野エルフがデレていると学園内で噂になっているのだ。
その副次効果なのか悪い噂は今のところなりを潜めている。それだけ衝撃的でもあったのだろう。
「まあ、そのうちね、そのうち」
コバヤシには話しを聞いてもらったりしたし、お礼もしたいのだけど、経緯を考えると結構恥ずかしいことを色々言った気恥ずかしさもあるので一旦封印である。
今度昼メシを奢ろうと考えていると駅に向かう道中、パトカーがサイレンを鳴らしながら何度かすれ違う。
「なんか最近ちょくちょく見かけるね」
僕がパトカーに視線を移すと、コバヤシは「あぁ」と何か思い出すように顎に手を当てる。
「テレビでやってたな。若い女の子が人気のない場所で気を失って倒れるってことが頻発してるらしい」
ま、オレらには関係ないけどな!と手をヒラヒラさせる。
「なんか不思議な事件だね。女の子は痩せてもダイエットとかするから貧血でも起こすのかな」
僕の見解にコバヤシは「さあな〜」と指して興味もない様子だった。
「はせやん!あれ......」
コバヤシが指差す先、パトカー数台と救急車が路上に止まっている。周囲には少ないけど人だかりが出来ていた。
「なんか物々しい雰囲気だね」
侵入禁止のテープと視界を遮る警察官の向こうには制服を着た女子生徒が救急車に運ばれていくところだった。
「あれって近くの女子校の制服だわ。この前合コンしたから間違いない」
合コンとかこいつマジか。僕何も知らないんだけど。
「こんな近くで起きると他人事じゃないよね。エルフさんもここ通学路だし、
「相変わらずシスコンだよな」
ほっとけ。
騒ぎが収まりつつあり、人が疎らになっていく。
僕とコバヤシも踵を返すと、行き違いで2人組の女の子とすれ違う。
どちらも真剣な表情で侵入禁止テープの向こうに顔パスで入っていく。
さっき救急車に運ばれた女の子と同じ制服。
1人は黒みがかった臙脂色の髪で右眼を隠したショートカットで、眠たげな目をした女の子。前髪を編み込んでいる。
1人は同じ髪色で左眼を隠したセミロングで、つり目の女の子。襟足をアップにしてかんざしで留めている。
見入っていると、コバヤシが少し離れたところから僕の名前を呼ぶ。もう電車の時間みたいだ。
気になりつつもそれに応えると僕もコバヤシの元へと急いだ。
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