第2話 おっさん戦隊加齢臭朝起きたら枕が臭いレッドへの道

 俺の腕には明らかに神様らしきなにか・・・によるメッセージが彫ってあった。

 俺はなんとなく理解した。

 これアレか?

 ここは天国でも地獄でもなく異世界なのか?

 ……チーレムってやつか?

 人生イージーモードになるあれか?

 痛みからの絶句から一転、俺の胸が期待に膨らんだ。

 マジで痛いけど。

 でもそういうのって「のじゃ」って語尾の神様が「間違えて殺しちゃったのじゃー」って現れるのがしきたりじゃねえの?

 お約束じゃねえの?

 横っ面ビンタしてえ。

 神様殴りてえ。

 それがお約束なのに、なんなのいきなり。この痛いやつ。すっげー痛いやつ!

 なにこの洋物ファンタジーなみの理不尽さ!

 スマホくれる神様はめっさできる神様。

 腕に直接傷を彫る神様、マジ鬼畜。

 だいたい、腕に現れた文字はどういう意味だろうか?

 意味がほとんどわからない。

 固有スキルって具体的に何よ!

 すると今度は左が痛む。

 心が折れる痛さだ。

 俺は泣きそうになりながら左腕をまくる。


『バッドステータスを利用せよ』


 本気でどういう意味だ?

 バッドステータスって……なによ?


 俺のバッドステータスって言えば糖尿に通風に……

 中性脂肪に40肩に……腹の肉に。

 今までモテたことが一切ないことに……

 魔法使いなことに……チェリー的な意味で。

 ブサメンに……水虫に……寂しくなってきた頭頂部に……


 絶望的に金がない。


 ……おっとこれ以上俺を追い込むんじゃねえ。

 死にたくなるじゃねえか。


 コ●ラみたいになりてええええええええええッ!

 サイ●ガンとか欲しいいいいいいいいいいいッ!

 ブサメンに整形してもモテるとかありえねえッ!

 エロい姉ちゃんとイチャイチャしてみてええッ!

 ……あと金。


 俺は心で涙を流した。

 俺の人生不公平だ!

 ふざけんな金返せ!

 もうね、自重しねえ!

 転移主人公としてハーレム作ってやる!

 作ってやるからなー!


 俺は天に誓った。

 草原はどこまでも続いていた。

 風がふいた。

 全裸の股間に心地よい風が……ふかなかった。

 揺れなかった。

 夏は股間がかゆかった。

 これもバッドステータスか。


(……おっさん戦隊加齢臭の装備じゃねえ!)


 俺は気づいた。

 俺はフルチンで、頭からパンツを被り、しかも靴下と靴装備のはずだったのに。

 ZENRAで死んだのに!

 セーフだ。

 セーフだ。

 セーフだよ!

 向こうの世界では社会的にも死んだが、こちらではまだセーフだ。

 なにせ服を着ていたのだ。

 どういうことだ?

 和服、薄い作務衣みたいなやつの上に革鎧を着けている。

 足は革製のサンダルだ。

 俺の水虫菌がこびりついた靴下も消えていた。

 剣もある。

 とりあえず抜いてみる。

 ダガーナイフってやつか。

 思ったより大きいな。

 結構重い。

 中身の入ったペットボトルくらいはあるだろう。

 とりあえず俺はその場で振ってみる。

 圧倒的『コレジャナイ』感。

 たぶん使いこなせない。

 ふむ……使い方がわからん。

 俺では十徳ナイフとかの方がまだマシだったかもしれない。

 でもとりえず工作には使えるかもしれないからキープと。


 さーて、これからが問題だ。


 今いるの草原じゃん。

 道から外れてるじゃん。

 食料ないじゃん。

 水ないじゃん。

 死亡フラグ立ってるじゃん。


 なにせ草原だ。

 直射日光を遮るものがない。

 適温に思えるが体力を容赦なく奪うだろう。

 さらに草原を歩くのも困難だ。

 整地されてないからな。

 俺の体力じゃ2キロも歩けるかどうか……

 それを街目指して歩く。

 なにこの無理ゲー。


 ……あと半日の命かな。


 いきなり詰んだ。

 なんだこのクソ転移!

 金返せ!

 びた一文払ってないけど!


 するとまた腕が痛くなる。

 すいません。

 俺は心の中で敬語になった。


 誰だか知りませんがマジでこのメッセージやめてくれませんか。

 土下座までなら気軽にしますんで。

 心が折れる痛さなんでマジ土下座しますから。

 エルフの解説者とかつけてください。

 できればエロフでお願いします。


 痛みで泣きそうになりながら俺は腕を見る。

 血まみれすぎ。

 気合の入ったリストカッターみたいになってるから。

 俺はブツブツ言いながら文字を読んだ。


『魔法を使え』


 ……これはアレだな。

 ゲームで言うところのチュートリアルだな。

 よしやってみよう。

 俺は足を開きポーズを取る。


「くらえ! オラのなんとか波!」


 ぷすりんこ。

 なにも出ない。


「ふざけんな! なにこのクソゲー! 金返せ!」


 俺は小学生相手に格ゲーでボロ負けしたサボリーマンのごとくキレた。

 40を目前にした汚い中年のやることではない。

 無駄にストレスがたまっているようだ。

 なにもかも生活リズムが狂っているせいに違いない。

 新人が使えなくてストレスたまっていたからではない。

 上司が使えないからストレスがたまっていたわけではないと思いたい。

 罵倒をして少しだけ冷静になった俺は次に具体的に魔法をイメージして放つ。

 真剣だったので必殺技名を叫ぶ余裕もない。

 イメージしたのは炎。

 化学薬品を満載した倉庫が火事で燃える姿を思い描いた。

 すると手から炎の弾丸が発射される。

 炎の弾丸は10メートルほど先の地面に着弾し爆発。


「どわッ!」


 土の欠片が俺の方にまで飛んでくる。

 痛いじゃないか。

 着弾した場所から煙が上がっている。

 数秒ほどすると煙がはれる。

 着弾したあたりを見ると、草原に直径3メートル、深さ1メートルほどの穴が空いていた。

 結構深いな。

 草の根で固くなっているはずの草原でこの威力。


「……これはダメだ」


 俺はつぶやいた。

 ロケットランチャーくらいの威力じゃねえか。

 ロケットランチャー生で見たことないけど。

 なんとなくイメージ的に。

 よしこの魔法を『ロケットランチャー』と呼ぼう。

 こんなん近くで放ったら爆風で俺まで死ぬ。

 炎だからだめなのかもしれない。

 次に俺は氷をイメージした。

 思い描いたのは学生時代のアルバイトで冷凍庫に閉じ込められたことだろう。

 非常ボタンと脱出用のドア、両方ともが故障して作動せずマジで死にかけたことだ。

 安全管理、通報?

 コンプライアンス?

 当時は就職氷河期時代。

 今と違って労働者の代わりなんて掃いて捨てるほどいた。

 ……世界は優しくなかったのさ。

 あのころは、たとえ死んでも今みたいにテレビで報道なんかされない。

 小さく名前が出るだけだった。

 本当に俺たちは使い捨ての世代だったのだ。

 なんだか悲しくなってきたが魔法は順調に作動した。

 あらこの世界優しい。

 水のようななにか・・・が発射される。

 それは地面に当たると辺り一面を凍らせた。

 俺は凍った場所に歩いて行く。

 触ったら俺まで凍るかもしれない。

 俺は靴……革のサンダルを脱ぐと、手に持って凍って霜が降りている草を叩く。

 ぱりんっと音がして草が粉々に砕けた。

 凍るのが移るとかはなさそうだが、一瞬で中まで凍結するほどの威力だ。

 それも広範囲に。


「絶対零度か。あっはっはー♪ 使えるかボケ!」


 液体窒素とかそういうやつだ。とりあえず、この魔法の名前は『液体窒素』としよう。

 シャレにならん。

 この力は、たぶんチートというやつだろう。

 きっとそうに違いない。

 前にWEBで読んだ奴隷を買ってハーレムを作る小説に出ていた。

 こいつも至近距離で使ったら俺まで死ぬ。

 つか使い方次第では大量殺戮兵器になる。

 日曜日の特撮タイムでは使えない魔法だ。

 おっさん戦隊加齢臭朝起きたら枕が臭いレッドへの道は険しい。

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