第四十二話 負けられない戦い

 自慢じゃないが、喧嘩なんてしたことがない。

 スポーツだってせいぜい中の上くらいで得意でもない。


 でも――それが何だってのさ。


 だからって、すごすご引っ込んでいるような奴に誰がついてくるもんか。

 あたしなら絶対ごめんだ。






 ――違う!






 誰かについてきて欲しいからとかじゃない。

 誰かにめて欲しいからとかじゃない。




 これは、あたしとタウロのどちらが悪かってこと。

 どっちがより本気で悪を目指しているかってこと。


 負けられない。

 負けたくない。


 力なら絶対に勝てっこない――そんなことあたしだって分かってる。そこまで馬鹿でも脳天気でもない。でも、それで気持ちまで負けちゃったら、きっとあたしはあたしじゃなくなる。昨日までのあたしはいなくなって――今日これからの違うあたしになる。






 そんなのは絶っっっ対に嫌だっっっ!!






「来なさい、タウロ! あたしが受け止めてあげる、あなたの気持ち!」

「行くぜぇえええええええええええええええっ!」


 ざっ!ざっ!と数回左足で地面を擦り上げるようにして、タウロはあたしを真正面から睨み付けたまま、突進するパワーをその足に、全身すみずみにまでみなぎらせていく。まさに闘牛士になった気分だ。




 でも、あたしはもう決めていた。


 絶対に避けない。

 絶対に逃げない。

 絶対に曲げない。




 怖くないなんて嘘だ。

 超怖い。


 あたしは所詮ちっぽけな女子中学生なのであって、タウロは精鋭中の精鋭の怪人なのであって、かすりでもしたらきっと血がどばどば出るだろう。死んじゃうかもしれない。足は震えるし、喉はからから。舌はしびれたように動かない。心臓はばくばく音を立てて、周りにいる皆にも聴こえる筈だ。


 でも、タウロの気持ちを受け止めてあげたい、そう思ったんだ。


 誰かに説明できないもやもやした気持ち、言葉にしたって理解してもらえないどろどろした心、そんなの誰にだってある。暴れ出したいほどむしゃくしゃして、誰彼構わず当たり散らしたい時だってあるんだ。きっと、タウロだってそうなんだと思ったから。






 あたしは、二代目アーク・ダイオーン。

 だったら、これはあたしの役目。






「でぇりゃあああああああああああああああっ!」


 黄金の流星のように尾を引いて、タウロが突撃してくる。


 ああ、凄く綺麗――。

 あたしは最後の景色をしっかりと目に焼き付けた。






 そして――。





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