第三十一話 宿題バスターズ
「――ねえ?」
ああ、心配だな……。
「――ってば!」
「……え? ご、ごめん………………何だって?」
「んもう!」
麗は、ぷくー、と盛大に膨れてみせつつも、目の奥では凄く心配してくれているみたいだ。
「今の! 聞いてなかったんですの!? 今度の花火大会、一緒に行きませんこと?ってお誘いしてましたのにっ!!」
「ごめん……」
「今年は盛り上がるぜ、きっと! ほら、ニュースとかでも一九〇年に一度の巨大彗星が大接近!ってやってんの見たことあんだろ? あれがその日の晩らしくってさー。ええと、何つったっけ……?」
「それはルキウス=ウェルス彗星ですわ。良いですの? このやりとりも二回目ですのよ?」
「ご、ごめんて……」
卓袱台の上の和子おばさんが出してくれた麦茶はもうぬるくなっている。それを、ごくり、と一口飲んで、あはははー、と笑って誤魔化すあたし。
「何だかさー。最近元気ねえよな、麻央」
「そ、そんなことないそんなことない!」
「確かにいつもに増してぼーっとしてますわね」
「そんなことないそんなこ――って、いつもぼーっとなんてしてないから!」
話がややこしくなる前に素早くプリントを取り上げ、ぺしぺし、と叩いてアピールしながら言った。
「そ・れ・よ・り・も。早く宿題済ませちゃおうよ。ま、あたしと麗はそんなに心配しなくてもいいんだけどさ? 誰かさんのためにやってるんだから!」
「はいっ! 済みませんっ! 俺のためですよね!」
「美孝は野球部の練習もあるのですから仕方ないですわ。でも、早めにやってしまわないと、それこそ花火大会のお許しが出ませんわよ?」
「ウチの母ちゃん、厳しいからなあ……」
そっと目を閉じるとその光景が浮かんでくるから不思議――。
でもなかった。
去年、実際に見たもんね。
「ねえ、麗? 本当に私たち三人だけで行くの? 麗のとこのパパが駄目!って言わない? 確か前回、それで揉めたじゃん」
「確かにこの前はそうでしたけれど……」
麗は寂しそうに呟いた。パパ大好きっ子なのだ。
「急ぎの大プロジェクトを任されてしまったとかで、今年は無理なんですって。美孝のお母様にお願いできないかなって言われてまして……どうかしら?」
「あたしは良いよ。もちろん」
「あー。ま、多分、引き受けてくれるんじゃね? 宿題次第だけどな」
美孝は渋々だったけど、下町育ちは祭りも大好き。和子おばさんなら快く引き受けてくれるだろう。
「世間はもうじきお盆休みだってのに、大企業の管理職って大変なんだねえ。そんなんじゃ旅行も行けないじゃん? いいの?」
「良くはないですわよ……」
しまった、と思ったがもう遅い。麗は見るからにしょんぼりと肩を落としていた。
「きっとアレのせいですわ。夜中に目が覚めて
「おう、あれなー」
自慢ではないがポーカーフェイスは不得意なので、目の前のプリントを睨み付けたまま頷くだけにした。
「……ここだけのお話で、他言無用ですわよ?」
有難いことに、内緒の打ち明け話に夢中の麗には気付かれなかったようである。
「わたくしのパパの率いるチームでは、長年
「あー。あれだろ?
美孝、アニメと漫画の見すぎ。
言われた麗の方はそれが何のことかさっぱり分からず、複雑な表情を浮かべつつもひとまず話を続けることにしたようだ。
「今でも介護ヘルパーの方向けや、建築現場、災害救助などで採用されているアレですわ。新たなプロジェクトというのは、今まで以上に軽量化・スリム化に成功した次世代バージョンを、大々的にプロモーションするためのものらしいんですの」
どういうこと?
「それと例のテロ騒ぎがどう関係するんだよ?」
「パパの科白を聞いた限りでは、『素人に正義のヒーローごっこをさせる厄介な仕事』ってことらしいんですの。わたくしには何だかちっとも分からなくって……」
正義の――ヒーロー。
抜丸さんの報告にあった、情報取集の邪魔をしてきた企業というのは、もしかするとアサマ重工業のことかもしれない。これはルュカさんたちにも至急報告しないといけないよね。うん。
「ま! それはそれとして! 宿題やっちゃお!」
「ですわねー!」
「あー……はいはい。やりますよっと」
あたしは物凄いスピードで宿題を殲滅していった。
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