第十七話 ダイヤルナンバーは
「……ふう」
堂々たる風格の装飾を施した扉を後ろ手に閉め、あたしはようやくホッと溜息を吐いた。
かなり殺風景な部屋だったけれど、何となく銀じいの匂いが残されているようで思ったより居心地が良く感じる。手前には革張りのコの字型のソファー。奥にはマホガニーの大きな執務机が置いてあって、その背後の壁にはやはり大きく『VR』の文字が刻まれていた。地下なので窓は何処にもなく、あとは細身の書庫があるくらいである。
ぎし。
手入れ不足というよりも、あたしのアバターの重み(?)に不平を漏らすように椅子が鳴いた。執務机の上にはいかにもなインターフォンがあったけれど、これを押しても現れるのはルュカさんだろう。
さて、困った――。
『――オ困リノヨウデスネ』
「タ、タライさあああん! 今まで何処行ってたのよおおお!? もおおおおおおおおっ!」
すっかり素に戻ったあたしは、恐らく厳めしくも恐ろし気な風貌をしているであろうアバター姿のまま、くねくねと身を
「ねえねえ! ここから外の世界に連絡取れる?」
『――楽勝デス』
くっそ。
「じゃあ、準備して! すぐ!」
身構えていると、予想外に背後から、ごごご……と音がして振り返る。壁の『VR』の文字が両側に分かれ、そのさらに後ろに隠されていたモニターが現れた。
『――誰ニカケマスカ?』
「えっと……」
でかでかと表示された1~0までの一〇個の数字を睨み付けつつ、はた、と思いついた。
「履歴を表示して!」
『――了解シマシタ』
――あった!
予想通りだったのと怒りとでどきどきする心臓を押さえつつ、タライさんに即刻指示する。
「一番上の人にかけて――《真野正義》に!」
ぷっぷっぷっぷ……。
ぷーっ。
ぷーっ。
出て、パパ!
早くっ!
「――ハロー? ……って、ぎ、銀じい!?」
見慣れた顔がモニターいっぱいに表示されたかと思うと、驚愕に目を見開いたまま椅子ごと仰向けにフレームアウトして、恐怖のあまり絶叫し始めた。
「ぎゃああああああああああああああああああ!」
「こら、
「ひいいいっ! 幽霊だあああ――って、あれ?」
それまで頭に
「お、驚かせないでよ……麻央じゃないか」
「え? 分かるの? この恰好で?」
「当たり前だろ?」
そうだよね……!
あたしたち、親子だもん!
と、思わず、うるっ、ときかけたところで、
「――そのVRゴーグル、作ったの、僕だもん」
「………………ちょっと待ってちょっと待って」
こ・の・野・郎。
感動しかけたあたしのピュアな心を返して。
「今、何て言ったのさ? パパが……作った?」
「そ」
えっへん、と胸を張るパパ。
「僕の研究分野、忘れちゃったの? 我が日本が誇る
「ち――ちょっと待って!」
「ん?」
「もしかして……銀じいが悪の組織の首領をやってるってこと知ってたの? 嘘でしょ!?」
「あ」
あー、見たことあるなー、この顔。
「……あ、って何?」
「麻央には……言って……なかったっけ……?」
やっぱりかっ!
ママの誕生日を忘れてた時と同じ顔じゃん!
「聞いてないいいいいいいいいいいいいいいっ!」
「あ……あははは……。その顔、ママそっくりだ」
「嬉しくないっ! 嬉しくないからっ!」
悪い気はしないけど、良い気もしない。
「説明して! どういうことなのさ! ここは何なの、あの人たちはどういう人たちなの!? 銀じいはここで何をしてたのさ! 全部……教えてっ!」
「ス、ストップストップ!」
パパはあたしのあまりの剣幕に驚きつつも、
「――一つずつ話してあげるからさ。まずは落ち着こうよ、麻央。うん、それが良い」
そうしてパパは説明をし始めたのだった。
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