3-15 攻略対象って?
CMの放映以降、なんとなく周囲がザワザワしている気がする。
以前よりさらに不特定多数の人から見られているようで、落ち着かない感じだ。
このところ、街中には一人で出かけないように気をつけているけど、学校はそういうわけにもいかない。
転校してきた当初みたいに、同じ学年だけじゃなく、見知らぬ下級生ーー特に新入生たちが、休み時間のたびに大挙して教室を覗きに来るからだ。
〈キャッ。プリン王子だ!〉
〈うわぁ。本物もめっちゃカッコ良い〉
〈笑った! ヤバい……ビビッときた!〉
そんなだから、体育の授業のために男子が固まって体育館へ移動する時なんか、いるいる! って指差し確認されてしまう日々がこのところ続いていた。
「武田、凄い注目度じゃん」
「大型連休中、すっごいCM流れてたもんな」
「六角プリンって美味しそうだよね。食べてみたいけど、いつも売り切れで買えないんだ。もっと増産して欲しい」
これだけ注目を浴びるってことは、六角プリンって売れてるのかな?
《プリンの売れ行きは絶好調です》
そっか、よかった。思い切ってCMに出演したからには、大勢の人が食べてくれるといいなと思っている。
体育館の入口で、授業が早めに終わったらしい下級生の集団とばったり遭遇。ここでもザワザワとざわめきが起きた。
〈高三男子? A組だ!〉
〈やったー!〉
〈プリンの君、はっけーん!〉
「ちょっと何? 先輩? ……の男子がいるの?」
ざわめきの中、ひときわ高い女子生徒の声が響いた。
遠巻きに見ているだけのことが多い、この学園の女子生徒にしては珍しいリアクションだな、なんて思っていたら。
「どいて。どいてよ!」
〈やだ何?〉
〈押さないでよ〉
集団を掻き分けるようにして、一人の女子生徒が飛び出してきた。
なんとかムーンみたいな長いツインテールがやけに目を引く。でも、見かけたことのない全然知らない子だ。その子は、俺たちを見ると一瞬驚いた顔でフリーズした。そしてそれから、両手を
「こ、攻略対象キターーーッ!」
いきなり上がる絶叫に近い叫び声。そしてそれに続く、不穏な呟き。
「対象チェッカー発動! ……武田、上杉、斎藤。うっは、ヤバイ。で、北条、結城……やった! どう見ても戦国男子じゃん! いいじゃん、いいじゃん! めっちゃイケメン揃い。あり。これなら超ありよ!」
……えっと。なんだろう、この子?
声が大きいし、鼻息も荒い。ちょっと……いや、かなり怖いんだけど。そして何より不気味なのは、俺たちを一人一人指差しながら、意味不明なことを一人で喋り続けていること。
《接触は非推奨です。スルーして移動を急いで下さい》
「さ、変なのに絡まれないうちに行こっか」
結城がそういって、日記帳と同様に移動を促した。
「そうだね」
なんかわけが分からないし、日記帳も触るなって言ってる。
「ちょっとちょっと、ダメでしょ!
〈ねえ、先輩たちに絡むのやめなよ〉
〈津々木さん、そっち行っちゃダメだよ〉
〈みんな協力して!〉
〈はい、捕獲。教室に戻るよ〉
「なんで? なんでみんな邪魔するの? 私がヒロインなのに!」
まだなんか意味不明なことを言っている。
《不審人物とは、見ない聞かない話さない。これが基本です。危ないので絶対に目線を合わせないようにして下さい。呪いを回避する効果があります》
不審人物だって。日記帳に危ない人認定されるなんて、初めてじゃないか? それに呪い? 怖っ! 本当にそんなのがあるの?
周りの生徒が止めてくれているみたいだから、その間に行ってしまおう。
呪いなんて聞いちゃうと、振り返るのも怖い気がする。いまだ背後で続くざわめきと、女生徒たちの言い争う声を聞き流しながら、俺たちは急いで男子更衣室へと向かった。
◇
《本日、警戒対象との接触がありました》
「えっ、もう! マジで? どんな感じだった?」
《出会い頭に、高三A男子全員を攻略対象として捕捉したようです。いきなり
「うわっ。いきなりそれ? 予想はしてたけど、やっぱりスキルでゴリ押しして来るのかぁ」
《今回は一瞬の隙を突かれましたが、対象にマーカーを付けましたので、今後は遭遇自体をできる限り回避・妨害します》
「よろしくね。私は学年が違うから、タイムリーには動けないし、もうダイちゃんだけが頼りなの」
《全力を尽くします》
「被害が出ないうちに学校外に撤退させたいんだけど、何かいい方法はないかしら?」
《調査結果では、本来ゲームを展開すべき場所でのシナリオが破綻し、そこから逸脱して、こちらへと矛先を変えてやってきたようです。ですから、またここでも失敗が続けば追い出せるのではないかと考えています》
「ふーむ。つまりうちに来たのは、失敗による鞍替えってことか。本来のシナリオには何故失敗しちゃったんだと思う?」
《失敗した理由は、この世界の設定がゲームのまま維持されているという誤認によるのではないかと推測しています》
「つまり、この世界がゲームの中だと勘違いしていて、ゲーム攻略サイトの攻略パターンを鵜呑みにして動いたからってこと?」
《おそらく。人間をNPCだと思い込んで行動すれば、当然現実では大きな
「うんうん。なるほど。なんでも自分の思い通りになるって思い込んでいたら、失敗するのも当たり前だよね」
《そういった無理矢理にでも自分の望みを通そうとする共存の精神を持たないものは、この世界には相応しくありません。このまま同じような行動を繰り返せば、いずれ世界がそう判断するでしょう》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます