第7話 ギルドの受付嬢
町は徒歩で40分ほど歩いた先にあった。一本、うねりながら連綿と続く川沿いにある町だ。メリッサによるとこの川はコンベア川というらしく、源泉のある北の伯爵領から南の男爵領まで続き、そこで転回し西の子爵領を横切りつつ伯爵領まで戻り循環し続けているらしい。
このコンベア川を利用し水運が盛んに行われているようで、周辺の領地間の関係も比較的良好だそうだ。このあたりはシーマス子爵の治めるシーマス領だが、コンベア川の流れの中心に位置するため、特に得られる恩恵は多いようだが、同時にシーマス子爵領は肥沃な土壌が特徴で穀倉地として有名なようだ。畑の数も多く、余剰分の穀物を水運で各地へ輸出することで利益を上げている。
ちなみに北の伯爵領はダンジョンが存在しそれを礎に発展していったようだ。元がゲームの世界にそっくりとは言えダンジョンの扱いも一緒なのかもしれない。ヒットの記憶通りならダンジョンはお宝の宝庫だからだ。
南の男爵領は鉱山を抱えており、それが主な収入源になっているようだ。これから向かう町の武器も材料は主に男爵領から輸出されてくる金属がつかわれているらしい。
西の子爵領に関しては果樹園が豊富で良いワインも作られているらしい。
そんな説明を聞いているうちに町に到着した。話によると旅人にもそこまで厳しくないようで門番は立っているが盗賊であったり罪人ではないかの確認程度で、特に後ろめたいことがなければ町に入るのは難しくないようだ。
「メリッサ! お前、無事だったのか!」
だが、どうやら今回は様子が少し違ったようだ。町の入口にいた若い男の門番は、メリッサの姿を確認するなり驚き声を上げたのである。
「ふむ、無事というのは?」
「あ、あぁ。いや、先に戻ってきていた冒険者連中に聞いたら、メリッサはゴブリンから逃げ遅れたと言っていたからてっきり……」
なるほど、とうなずくヒット。あの森で見かけた3人が戻り、彼に聞かれて答えたというわけだ。
ただ、話を聞くに見捨てたということは話してないようだ。自分から評判を落とすような真似はしたくなかったのだろう。
「て、そういえばあんたは?」
「彼はヒットと言って、私がゴブリンに襲われていたところを助けてくれたんです。ヒットがいなければどうなっていたことか……」
「なんとそうだったのか! いやいや冒険者が揃って逃げ出すような相手を、すごいな君は」
門番に称賛され、少し照れくさくもあったヒットであり、その後はすんなりと町に入ることが出来た。
壁に囲まれたここはリバルトという名称の町で3000人ほどが暮らしているようだ。
歩き街並みに注目する。田舎町といった雰囲気が漂っていて、木造住宅が多く平屋と2階建ての住居が混在していた。
町中を走る道はそこまで本格的なものではなく、雑草を取り除き土面を顕にした程度だ。地面を叩いて均す程度のことはしているかもしれないが、基本は自然のままそこまで手はつけてないと思われる。
「門番の方に言われたことが気になるので、先にギルドに向かってもいいですか?」
「あぁ、構わないよ。俺もギルドに登録したいし」
「ヒットならきっとギルドも大歓迎ですよ!」
どうやらメリッサからはかなり評価されているようである。食い入るように身を乗り出してヒットの登録を喜んでくれた。
メリッサの案内で冒険者ギルドの前までやってくる。木造家屋が多い中、冒険者ギルドは赤煉瓦造りのしっかりとした建物であった。ギルドの奥には持ち込まれた魔物が解体出来る解体所と素材を保管しておく倉庫があるようだ。
ギルドに入る。壁には柱時計が掛けられていて時刻は午後1時を回ったところだった。
冒険者の数は思ったよりは少ないが、時間によるところもあるのだろう。多くの冒険者は朝依頼を請けてそのまま夕方まで戻ってこないことが多いし、ある程度ランクの高い冒険者であれば長期間留守にすることもある。
「あれ? おい、メリッサじゃないか?」
「なんだ、生きてるじゃんか」
「死んだとか言ってなかったか?」
ただ少ないながらも、いやそれほど多くないからこそ逆に周りの声が耳に入ってくる。
周囲にいる冒険者の反応を見る限り、やはりメリッサは死んだと報告されたようだ。
「にゃん! メリッサにゃん! 幽霊かにゃん!?」
「あはは、生きてますよ~」
そしてカウンターにつくなり、受付嬢が警戒心を顕にしてメリッサに問いかけた。毛が逆立ち、爪を立てきそうな雰囲気がある。なぜなら彼女は猫耳を生やしていた。
その様子からゲームにも存在した獣人だろうとヒットは判断する。
「でも、メリッサの仲間からは死亡届が出ていたにゃん」
「死亡届って、ただ出されるだけで受理されるのか?」
不思議に思い、ヒットが口を挟んだ。猫耳の受付嬢が目を丸くさせる。
「こいつ誰にゃん?」
(こいつって……)
いきなりのこいつ呼ばわりに眉をしかめるヒットである。
「彼はヒットと言って、私の命の恩人なのです」
「命の恩人?」
「実は……」
そしてメリッサがヒットとの出会いを含めて掻い摘んで受付嬢に話して聞かせる。
「へぇ、ゴブリンに襲われて危なかったところをこのヒットが助けたかにゃん。とても強そうに見えないけどにゃん」
訝しげに見てくる猫耳嬢。実際強さに関してはヒットもあまり実感していない。元が不遇のキャンセラーというのもあるからだ。こっちの世界ではキャンセルの効果はゲームより大きいので戦えてはいるが、強いと自信をもってはいえない。
「それで死亡届の件だけど」
「あぁ、そうにゃんね、届け出があれば素直に受けるにゃん。冒険者は危険の多い仕事にゃ。それなのに一々ギルドが死亡したかどうかなんて確認していられないにゃん。だから死亡した冒険者のギルドカードも添えてくれば受けるにゃん」
「え? でも、私ギルドカードありますけど」
「にゃ……?」
メリッサがギルドカードを提示した。それを見て小首をかしげる受付嬢だったが。
「あ! そうにゃん! 確か途中でギルドカードを紛失したと言っていたから仕方ないからなしで受けたにゃん!」
「おい……」
ヒットが呆れ目で受付嬢を見た。流石にいい加減がすぎるだろうと思う。
「それで、これはどうなるんだ?」
「にゃん、勿論死亡届はすぐに取り消すにゃん。でも、ゴブリン相手にそこまで苦戦するなんてそんなに数が多かったにゃん?」
「数はよくわからないけど、ゴブリンシャーマンとホブゴブリンがいたな」
「にゃはは、何を馬鹿なにゃん。そんなのがいたらF級じゃ話にならないにゃん。依頼もD級クエストまで跳ね上がるにゃん」
「証明ならあるぞ」
メリッサはゴブリンを相手にしたとしか言ってなかったからが、ヒットの話を鼻で笑い飛ばす受付嬢である。
だが、ヒットが魔法の袋からゴブリンシャーマンとホブゴブリンの頭を取り出し、カウンターに乗せると目の色が変わった。
「にゃにゃにゃ! これはゴブリンシャーマンとホブゴブリンの頭にゃ~~~~!」
その途端、周囲からどよめきが起こった――
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