第4話 対ホブゴブリン
「キャンセラーを知らないのか?」
「はい、知りません」
どうやらメリッサはキャンセラーを知らないようだ。ただこれがメリッサだけなのかこの世界全体がそうなのかが判らない。
「メリッサは冒険者なんだよな?」
「はい。まだG級ですが……」
冒険者にはゲーム世界でもランクがあった。その知識で言えば登録してすぐはH級からスタートで、この段階では見習い扱いだった。
そして数回依頼を達成すればG級に上がり、あとはF、E、D、C、B、Aと上がっていく。ちなみにAの上はSだ。この辺りはステータスの強さを示す英語表記と同じである。
メリッサのGというのは見習いからやっと冒険者として活動できる段階になったあたりのランクだ。
「そうか。ギルドの冒険者にキャンセラーと言うのはいなかったのか?」
「はい。いませんでしたね……ギルドにはジョブの纏められた本もあって一通り読みましたがそれにも載ってなかったと思います」
そこまでしても無かったということはやはりこの世界ではキャンセラーが認知されていない可能性が高い。
ならば気軽にキャンセラーを名乗ったのは不味かったか? とも考えたが言ってしまったものはしかたない。
「だいたいわかったありがとう。ところで、この後だけど」
「あ!?」
ヒットが今後の事を相談しようとしたその時、メリッサが悲鳴のような声を上げ、かと思えばヒットの脇に岩が命中した。
衝撃に耐えきれず激しくヒットは真横に飛ばされてしまった。
「ギギッ! ギギッ!」
「フンッ!」
地面に叩きつけられ、仰向けになったヒットは口から吐血する。顔だけ声のする方へ向けるとさっき逃げていったゴブリンと、その横にゴブリンより遥かに逞しい魔物の姿。
「え? うそ、ホブゴブリンがどうして――」
メリッサがうろたえている。そして、ヒット! と悲痛な声で呼びかけてきた。
ヒットはステータスを出してみるが生命力が30%まで減っていた。どうやら今の一撃で70%ももってかれたらしい。
流石にダメージが大きい。どうしたらいいのか、と考え思い出す。ヒットは魔法の袋からポーションを取り出した。異世界に来たときから魔法の袋に入っていた1本だ。
栓を開けて飲み干す。すぐに体の痛みが引いてきた。ステータスを見ると80%まで回復していた。
これでまだ動くことが出来る。ヒットは立ち上がり改めて状況を確認した。ゴブリンとホブゴブリンはメリッサに近づきつつある。
だがホブゴブリンの動きはそれほど早くはない。
「メリッサ、そのホブゴブリンのステータスを簡単にでも教えて欲しい」
「あ、良かった無事で……」
「うん、俺は大丈夫だから」
「あ、はい!」
ホブゴブリン
生命力100%体力100%魔力100%精神力100%
攻C+防C敏E器G魔H護G
武術
斧術3
武技
強戦斧
魔法
スキル
岩石投げ、皮膚強化、威嚇の雄叫び
称号
生殖狂い、荒ぶりしもの
これがヒットが聞いたホブゴブリンのステータスだった。岩石投げは今喰らってわかったがかなりの威力だ。もう受けるわけにはいかない。
強戦斧は威力を上げた斧の一撃を放つ技。確かに手には斧が握られていた。ステータス的にも攻と防がCと高い。特に攻には+がついているので当然普通のCよりは強いことになる。
全般的にステータス面で不利だが、敏だけはヒットが勝っている。暫く外で戦い続けたおかげで上がっていたからだ。ヒットの強みは素早さと後はキャンセルだ。
「メリッサ、可能なら援護頼む!」
「は、はい――」
弓を握り、矢を番えている。ホブゴブリンには皮膚強化もあるのでメリッサの弓がどれほど通じるか判らないが、ある程度気をそらすことは出来るかも知れない。
「グギャ!」
メリッサの放った矢は先ずホブゴブリンを呼んできたゴブリンに命中した。よし、とヒットは心でメリッサを褒めた。
たかがゴブリンでもホブゴブリンを相手にしている時にちょっかい掛けられたら厄介だからだ。
残りはホブゴブリンのみ。ホブゴブリンは近くの岩を持ち上げ振りかぶった。岩石投げをしてくるつもりだろう。
「キャンセル!」
岩石を投げる直前にキャンセルを掛けることでホブゴブリンの状態が戻った。だが、その直後ホブゴブリンが前のめりに倒れそうになった。
これを見てヒットはもしやと考える。キャンセルをしても慣性の法則の影響は残るのかと。
これは重要なことだ。キャンセルするタイミングによっては相手に隙を作ることが出来る。
今回がまさにそうだ。ヒットはバランスを崩したホブゴブリンの横を駆け抜けつつ斬りつけた。
ここでふと思いたちヒットは自身にキャンセルを掛ける。するとピタリと止まる事ができた。ヒットは走っている自分をキャンセルしたが、慣性ごとキャンセルするイメージでスキルを使用した。
その結果がこれだ。どうやら慣性を残すかどうかはある程度調整可能なようだ。
振り向きざまにもう一発剣戟を叩き込む。だが、硬い。ただでさえ防がCあり、その上で皮膚強化だ。通常の斬撃などホブゴブリンからすれば虫に刺された程度と変わらないかもしれない。
「なら――挟双剣だ」
ヒットはここで新しく覚えた武技を行使する。ホブゴブリンに向け左右から挟み込むように剣戟が飛んだ。高速の二連撃で、ホブゴブリンの顔が歪む。どうやら効果はあったようだ。
「ヒットさん、今の攻撃でホブゴブリンの生命力が25%減りました。合わせて残り70%です!」
つまり最初の二撃やメリッサの矢では5%しか減らなかったということだ。通常攻撃は殆どダメージがないと言ってよい。
やはり武技スキルが頼りか。だがステータスを見るとこのスキル一発で体力が10%減っていた。
体力や精神力はリアルではおそらく100%限界まで使っていいというものではない。事実精神力は半分以上減っただけで相当な負担だった。
つまり50%切るような戦い方は好ましくないということでもある。一撃で25%減るならあと3発当てれば事足りるが、しかしダメージは固定というわけではない。
そう、ダメージの入り方は状態によって多寡があるのが普通だ。
とにかく、ヒットは怯んでいる隙をみて更にもう一発挟双剣を命中させてみる。
「今のはえ~と、10%です」
「10%か……」
一気に半分近以下までダメージが減った。なんとなくホブゴブリンを見ると最初の攻撃ほど苦しそうにしていない。
一度攻撃を喰らったことで、警戒を示したのかもしれない。攻撃がくると思えば備える事ができる。耐えることでダメージが減ることもあるだろう。
『グオオォォオオォオオオ!』
その時だった、ホブゴブリンが突如大口を開き、雄叫びを上げた。足が竦み、ヒットの動きが止まる。
続けてホブゴブリンが斧を大きく振り上げた。ヤバい! と判断する。これはほぼ間違いなく強戦斧が来ると踏む。
威嚇の雄叫びで相手の動きを止め、強戦斧で止めを刺す。きっとそれがホブゴブリンの必勝パターンなのだろう。
斧刃がヒットに近づいてくる。死を覚悟する瞬間、であろう普通なら。
「――ッ!?」
ホブゴブリンの表情が驚愕に染まる。ヒットはその攻撃を避けていた。何故動けるのか、きっと理解できないだろう。だが、キャンセルは自分の状態もキャンセル出来る。
それは雄叫びを受けた瞬間の硬直であってもだ。
「挟双剣!」
「グォオオォオオオ!」
今度のは雄叫びではない。確かな手応えを感じたホブゴブリンの悲鳴だった。
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