第2話 キャンセル検証

 気がついたら3日経っていた。魔物も色々と狩り、キャンセルの扱いにも慣れてきた。ステータスにも多少の変化があった。


ネーム:ヒット

ジョブ:キャンセラー

生命力100%体力100%魔力100%精神力100%

攻D防E敏D器E魔E護E 

武術

剣術(1)

武技


魔法


スキル

キャンセル(1)

称号

Bランクの壁

装備品

青銅の剣、革の胸当て

道具

魔法の袋(50kg)、ポーション(小)


 攻と敏がEからDに上がっていたのである。このおかげで確かに戦闘は楽になった。ネズミの魔物なら一撃で死ぬ。

 

 そして今、ヒットは角の生えたウサギの魔物と相対していた。角ウサギと勝手に名付けたこの魔物は角をつかった突進攻撃を繰り出してきた。


 見た目通りの攻撃を避ける。着地したところを背後から剣を振り下ろし、キャンセルし更に振り下ろす。角ウサギは2回切ったら死んだ。


 ナイフで素材を剥ぎ取る。なんとなく魔石と角を魔法の袋に放り込んだ。


「あ、上がってる」


ネーム:ヒット

ジョブ:キャンセラー

生命力100%体力100%魔力100%精神力100%

攻E防E敏E器E魔E護E 

武術

剣術(1)解体術(1)

武技


魔法


スキル

キャンセル(2)

称号

Bランクの壁

装備品

青銅の剣、革の胸当て

道具

魔法の袋(50kg)、ポーション(小)


 解体術とやらが増えていた。これって武術なのかな? と思いつつもキャンセルの熟練度が2に上がっている事をしる。


 これによってキャンセルの範囲が自分だけでなく戦ってる敵にも広がった事をしる。

 

 疲れたので木登りし木の実をもぎ、食べた。日本の果実ほど糖度は高くなく、酸味も強い果物だが精神的に疲れに効果があることを知った。


 木の実を食べると精神力が一気に10%ほど回復できる。ただ数を食べればいいというものではないので一度に多くを食べても効果はそれほど変わらないが。


「ギャギャッ」


 ヒットが木の上でのんびりしていると、妙な声が近づいてきた。これまで倒したどの魔物の鳴き声とも違う。声は複数のものだ。どことなく意思疎通の感じられる鳴き声でもある。


 そして木々を掻き分け、声の主たちが姿を見せた。緑色の肌と頭に小さな角。黒目がやたらと小さく口からは牙をのぞかせていた。


 醜悪な姿をした子鬼と言った印象。体格は小柄で7歳児程度だろう。手にはそれぞれ弓や短剣、手斧などを携えていた。木の盾を持ってるものもいるがどれもそれほど質はよくなさそうである。


「……ゴブリン」


 なんとなく頭に浮かんだ名前を口にした。確かゲームにも出てきた記憶がある。特徴的なのでよく覚えていた。それに異世界物の話では良く出てくる存在だ。


 そのゴブリン、3体いる。その内1体が木の上のヒットに目をつけてきた。そしてゴブリンの一体が弓を引き、矢を放った。


 ヒットはすぐに枝から飛び降り、剣を抜く。相手は完全にやる気だ。こちらもうかうかしていられない。


 着地を狙って、弓持ちゴブリンが再び狙いをつけてきた。だがここでヒットはキャンセルの新しい効果を試すことにする。


「キャンセル」


 途端に弓持ちゴブリンの構えが解かれた。


「ギ?」

 

 ゴブリンは自分が何故構えを解いてしまったのかわからない様子だ。何ぜキャンセルは瞬時に相手の行動を中断させ前の状態に戻してしまう。


 動いたつもりもないのにいつの間にか構えが解けたのだから混乱するのも当然だ。このあたりは心あるリアルならではだろう。


 ヒットは先ず弓持ちを倒そうと前進するが、庇うように盾と手斧持ちのゴブリンが立ちふさがる。


 だがそれならそれで構わない。正面に立てば弓持ちからはブラインドになりすぐにはヒットへ攻撃できない。


「ハッ!」

 

 ヒットが縦斬りで攻撃する。それをゴブリンは木の盾で受け止めた。本来ならこの時点でヒットに隙が生まれる。だがキャンセルし元の状態に戻した後、手斧を振り上げていたゴブリンの喉を切った。


 緑色の血が吹き出てヒットに掛かった。喉をかきむしり倒れ動かなくなった。人型の魔物は急所も人とほぼ変わりない。だから上手く急所を狙えば一撃で殺すことも可能だ。

 

 尤も人に似ていても筋力などが大きく異なる場合もあるので、そういう相手だとこう上手くいかないかもしれないが、ゴブリン程度なら上手く行く。


 前のゴブリンがブラインドになっていた後ろのゴブリンが横に抜けようとしていたが、思いの外早く倒れたことで慌てて弓を構えだす。


「ギャッ!」

 

 だがその目に短剣が突き刺さった。ヒットがとっさに投げたからだ。キャンセルも考えたが既に36%消費している。


 熟練度が上がり消費が減ったが、それでも調子にのって使っているとすぐ精神がすり減る。


 なのでここはサブウェポンに頼った。まだ息はあったが、近づいて剣でとどめを刺した。


 これで残り1体――真横から残ったゴブリンが短剣片手に飛びかかってきた。


「キャンセル」

「ギ!?」


 振り上げていたナイフが下がり、ゴブリンはヒットに体当たりするに留まり跳ね返って地面を転がった。


 膝立ちで地面に両手をつくゴブリン。狙い目だった。ヒットはすぐに駆け寄り、頭へ剣を振り下ろす。短い悲鳴を上げゴブリンは死んだ。


「はぁ、これで終わりか」


 地面に腰を下ろす。倒したゴブリンの死体を眺める。


「俺が、倒したんだな」


 ボソリと独りごちた。集団を相手して勝てたことにほっと胸をなでおろす。


 やはり、思った以上にキャンセルが使えた。ゲームでは不遇扱いだったが、キャンセルスキルを使いこなせればかなり強そうだ。


 ヒットは改めてステータスを確認する。すると剣術が2になっていた。そして新たに武技を覚えていた。挟双剣という技だ。


 使用すると相手を挟むように高速で攻撃出来るようだ。攻撃力は万全とは言えないので威力を補えるのは単純に嬉しい。


 ゴブリンから魔石を回収し、そして折角だから木の盾や手斧なども一通り拾っておいた。弓はゴブリンサイズのは使い道がなさそうなので放置する。


 さて、とヒットは今後のことを考えた。スキルについて基本的なことは理解したし、ステータスも多少は上昇した。

 

 それに3日いて倒した魔物の素材も集まった。いくらになるかわからないが、ゲームどおりなら町などで買い取ってもらえる筈だ。


 移動しよう……結論は早かった。そこで気になったのはゴブリンだ。群れて動いているなら近くに巣のようなものがあるかもしれない。


 ゴブリンは陣地を決めてその範囲内で動き回る魔物だ。基本的に洞窟など狭くてジメッとしたところを好む。


 ゴブリンは戦利品を集める傾向にある。つまり獲物を仕留めた後、持ち物を巣に持ち帰る。割と器用でもあるので、木の盾や木製の弓矢は自分で作った可能性があるが、手斧や短剣は戦利品として奪ったものだろう。


 ならば巣を見つけて倒すことが出来ればこの世界で生きていくための軍資金になるものが手に入るかも知れない。


 ただ、ゴブリンとは言え、数がいるようなら厄介だ。そこはある程度慎重に行くべきだろう。


 ヒットはゴブリンがやってきた方に向けて歩きだす。足跡が残っていた。これを辿れば巣が見つかるかもしれない。

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