第27話ルークの過去part6

 今度はルークが考えさせれら番になってしまった。

 自分が恋愛オンチなのは自覚していた。それと言うのも、近寄ってくる女達が最低過ぎた事も理由だ。

 理由なのだが、そうじゃない女性も確かに少数ではあったがいたのだ。尊敬できる相手も。それでも心を許せる相手は一人もいなかった。


 ルークには誰にも言っていない隠された力がある。それは魔女である母親から受け継いでいる物で、その母亡き後は、父上以外誰も知らない事だった。

 片目に真実を写し出すその眼は、自分が望もうと望まないと相手の心を写し出す。

 人の心は何時も綺麗な訳じゃ無い。

 そんな事は解っているが……。

 でもその力が開眼したのが皮肉にも母上が殺された時……それも初めて触れた人の心が母親を殺した相手…第二王妃、シリルの母親なのだからトラウマにもなるだろう。

 完全なる憎悪。それも殺人すら犯す人間の心の醜さは想像すらおぞましい。

 だからこそ、ルークは犯人が解りそれを知った国王はルークを守るために城からだし降下させた。愛した妻の忘れ形見であり自身にとっても最愛の息子を手元から遠ざける事は何よりも辛い事だったが、失うよりは良いと苦渋の決断だった。

 それからは心を守るため目の中にフェルターとなる特殊なレンズを入れ心を守ってた。それでも恐怖は補えず、その瞳に人を写す事を避けた。

 見ている様で人の顔を写すことのないルークの瞳。ルークはその容姿からとてもモテたが芯のある女性からは近寄らなかったのは、自分を見ようとすらしない相手と愛情を育めないと解っていたから。

 だが不思議な事にリンの心だけは読めなかった。ルークは新しい使用人が入る時には一度だけその心根を視るのだが、リンの心は何度試しても視ることが出来なかった。


 それどころか、力を得た代償に蝕まれていた睡眠もリンがいれば良く眠れた。

 意識がある内は瞳を除かなければ聞こえない、見えない負の感情が、眠っている時は悪夢となり、水の様に流れ混んできては人々の色々な感情が混ざり合いそれを受け入れるしかないルークは吐き気がするほど体調を崩した。

 それがまるでリンが悪意をシャットアウトしてくれているかの様に聞こえなくなり悪夢を見なくなった。

 ルークが悪夢に悩まされ眠れない事を知っているのは、筆頭執事とメイド長のアンのみ。他の使用人には隠されていた。

 何年まともに眠る事が出来なかったろうか?悪意が悪夢となって押し寄せてくる感覚を味わうことなく過ごせる日々は、ルークにとって何物にも代えがたいものとなっていた。

 間違いなくルークにとってリンは救いの女神だった。

 自分が救われたから愛しいのか?

 いや……それだけじゃない。彼女の強い瞳に生まれて初めて恋をした。

 自分より年下の女の子に、心の強さで負けている事を恥ずかしいと思う反面、とても眩しかったのだ。

 全てを話し終わると最後にルークは遅くなってしまった愛の言葉をリンに伝えた。

 包み隠さず話すことはとても勇気がいることだった。

 自身のおぞましい能力然り、リンの心を勝手に除こうとした事に然り。

 リンが怒ってルークの側を離れていったとしても仕方がない事をした自覚がある。

 だから……伝えた。


「リンは俺にとって誰よりも大切な愛しい女性何だよ。その事だけはどうか忘れないで…」


 真っ直ぐに自分を見詰めながら紡がれる言葉に疑いの余地は無いのだろうけど、でも……それを全て受け入れるにはリンは世間を知りすぎた。

 ただ不思議と嫌な気持ちはひとつも浮かばなかった。

 でもこれが好きになってしまった弱みだと理解して尚、全てを受け入れるにはリンには経験が無さすぎて、幼かった。


「すみません…身の程を知っているので、今全てを信じる事が出来ません。けど、それ以外は信じます。勿論、誰にも言いませんよ?……墓場まで持っていきますから安心してください」


 丁寧に伝えたつもりだ。

 信じられないのは自分。

 そしてその自分を好きだと言った貴方の心。卑下したつもりはないけれど、受け入れられて然りだと開き直るには客観的意見を知らない訳では無かったから。

 でも……貴方の過去も能力も信じてる。

 それが上手く伝わって欲しい。


「俺はリンを信じてる。でももし、その情報を隠し続ける事でリンに危険が及ぶのなら……その時は話してくれて構わない」


 ルークはそれ以上、リンが初めて感じた恋心が生んだ矛盾を追い詰める事はせずにいてくれた事に、ほっとした。

 今は未だ信じられないけど、そしてリンを守るためなら、今まで他人には誰にも伝えなかった秘密を守る事はないと言う命令だけは聞けないけれど、でもルークが離れていくのも、他の人を選ぶのも嫌だったから。


「……」


 だからこそリンはその事には答えなかった。ルークに嘘をつきたくなかった。彼が打ち明けてくれた秘密は墓場まで持っていくと言ったら持っていくのだと心に誓っていた。…自分が彼を異性として好きなことは今一番信じられる真実だから。


 その晩はルークに抱き締められる形で眠りについた。いつの間にかリンにとってもルークの腕枕は心地好い安心できるものになっていた。

 元々一般男性の身長よりも高いルークだから余計に、シングルサイズの二人で寝るには小さなベットの近い距離感がくすぐったくって嬉しかった。


 嬉しかったのに、その幸せな時間を壊す招かざる客が二人のテリトリー迄侵入してきたのだ。


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