第17話 妖怪探し中断

 ……突然思ったよりも近い位置でシュカの声がして驚いて振り向いた。



 グイッと手を引っ張られて、私はシュカの背にかばわれる形となった。

「ねぇ……一応聞いておくけど。なんでしずく泣いてんの? 二人のうちどっちかがさ、しずくを倒したら俺を倒したことで得たものを奪えるから格が上がるとか考えてない? ねぇ……答えてくれる? 俺短気なの」

 シュカの機嫌の悪そうな声は普段よりずっと低く、辺りに響き渡る。

 ちなみちゃんは頭を押さえたまま地面にうずくまってブツブツ言っている。



 風月が袖から札をとりだし、シュカに向かって投げた。

「冷静になれ」

 風月はそういったけれど、その札はシュカには届かない、途中でぽろぽろと崩れ落ちた。

「見習いの神通力じゃ俺には届かないけど。どういうつもり?」

 こてんっと首をかしげてシュカは二人に問いただす。

「僕たちが何もしていないことは、お前が背にかばう童に聞けばわかることだ。殺気を早くしまえ、しずくに影響はなくも。弱いろくろっ首が死んでしまうぞ。しずくが泣いたのは俺たちのせいじゃない」

「そうなの?」

 くるっとシュカがこちらを向いたので、私はそれにうなづいた。




「まったくなんてむごいことを、それほど怒り散らすほど心配で僕たちが疑わしいならしずくを一人残して離れていくな」

 そういって風月は残りの札をちなみちゃんの額にまたペタリと張りつけた。

「ごめん……」

 シュカはそう言ってすんなりと二人に謝った。



 そして私を見つめて聞き返す。

「本当に何もされてない?」

 と。

「うん。何もされてない」

 なんとなく、さっきの話はシュカにできなくて私はごまかした。



 しばらくするとちなみちゃんの体調も戻って、再び目的地に向かって歩き出す。


 よく妖怪がいるという川辺、下のほうに降りて橋の下を見てみるけれど。それらしいものはいない。

 ちなみちゃんもここにはいないようですっと首を横に振った。


 近くにあった日中でも暗くて怖いトンネルに入ったりしたけれど、そこにもやっぱり妖怪はいなかったし、ちなみちゃんもここにはいないようですと首を横に振った。

 私たちは時間が許す限り散々歩き回ったけれど、結局妖怪を一匹も見つけることができなかった。

「ちぇっ、探してるときに限って会えないもんだね。毎日ってわけじゃないけど、たまに見かけたから、妖怪がいそうなところに行けばいるかなって思ったんだけど……」

 シュカはそういって頬を膨らます。

「やはり、駄目だったか」

 風月は神妙な顔つきで、まるで妖怪が見つからないことが解っていたかのようなことを口に出した。

「やっ、やっ、やっぱり、に、逃げちゃったんだと思いますよ」

 ちなみちゃんも、噛み噛みながら、妖怪が逃げたと口にした。

 逃げた?

「逃げたってことは、もともとはこの辺りにいたってこと?」

 どういうことかわからなくて、私は風月とちなみちゃんにそう質問した。


 

「さっき、あれほどの殺気を放ったのだ。弱い妖怪はさっさと逃げ出してしまったんだろう」

 やれやれとした顔で風月はそう言って、ちなみちゃんは風月の話に何度もうんうんっとうなづいていた。

「でも、ちなみちゃんは、弱い妖怪だって前に自分で言っていたけれど。今日はうずくまっちゃったけれど、逃げなかったし、首も伸びなかったよね?」

 私は疑問に思ったことを質問した。

 この前学校ではシュカがちなみちゃん相手に戦う意思を表明したらそれだけで、パニックになってちなみちゃんの首が伸びて逃げ出したのだ。


「あれは、逃げなかったんじゃない、目の前で強烈な殺気に当てられて逃げることもできなかったのだ」

 風月は不思議そうにしていた私にそう説明してくれた。



「ってことは、ごめん。俺のせいじゃん」

 シュカはそう言ってまた皆に謝った。

「しかたあるまい。人間がお前に勝ち、弱い身体に見合わない力を得ているのだ。ちなみは弱い妖怪とはいえ、人間相手であれば当然勝てるし。

僕も神の使いとはいえ、自分よりはるかに格上の力を取り込める機会はめったにあることではないからな」

「わっわっ、私は、しず、しずくちゃんは、そのと、友達だから。いじめたりしないよ」

 ちなみちゃんは必死に否定をする。

「ムッ、僕だってこれでも神のはしくれ稲荷のキツネ。悪さをする妖怪をこらしめることはあっても、欲に目がくらんで弱い者を倒し力を無理矢理得ようとしたり、ましてや膨大な力を持っているとしても人間の童なんかに手はかけない」

 ちなみちゃんの話を聞いて、風月も必死に自分はそんなことをしないと言いだした。




「いや……あのさ、ほんと二人とも。疑っちゃってなんかごめん」

「わかればいいが、しばらくはこの辺に弱い妖怪はいないだろうな。おそらくお前の殺気を畏れて逃げ出したのだから」

「まいったなぁ……」

「先に釘をさしておくが、お前の縄張りの外に出ようとは考えないことだ。弱い妖怪が縄張りに入ってきても、主は目をこぼすがお前のようなのが乗り込んできたとなれば話は別だ。乗っ取られてはかなわんと、出てくるだろうし。その時お前は平気でも、人間のしずくは平気ではない」



 学校にいた妖怪も何かわからなかったけれど強くて、そのせいで弱い妖怪逃げ出してしまった。街の妖怪は先程のシュカの殺気のせいで逃げ出してしまった。

 ろくろっ首のちなみちゃんとは、首がどちらが早く長く上に伸ばせるかが妖怪特有の勝負のためシュカは挑めないし、ちなみちゃんに物理的に勝つのも×ということで。

 私たちは手詰まりになってしまった。



「時間が流れればまた弱い妖怪が帰ってくる。それまで大人しく待つことだな」

 風月はそう言って、社に消えていき。

 ちなみちゃんも6時には家に戻らなきゃということで帰って行ってしまった。





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