41話 パトロンの登場ですわ
「さあデザートのパフェですわ」
「む、これはムースか!?」
王子はスプーンをアイスに差し入れる。ムースよりも固い感触に首を傾げながら口にした。
「冷たい……しかし口のなかでとろける……」
「お気に召したかしら」
「ああ!! これはチョコレート味か、ラファエルお前のは?」
「イチゴの味がします」
「一口寄越せ」
ラファエルは子供のような振る舞いの王子に苦笑しながら、王子の口に一さじのイチゴアイスを食べさせてやった。
「お待たせしました!」
そこに飛び込んで来たのは事情も分からず駆けつけたモチカであった。
「モチカ、この方があなたに話があるそうよ」
「へ……?」
モチカは王子を見た。このような高貴な雰囲気を漂わせた美青年が一体自分になんの用なのだろう、と考えた。
「お前、私の援助を得て王都で創作をしないか」
「……ええ!?」
「モチカ、この方はテオドール王子よ」
「おっ、王子!?」
モチカは腰の抜かしそうになった。そしてなんでそんな話になっているのだろう、と思った。
「私はお前の作品を気に入った。もっと本を手に入れたいのだ。なんでも他に仕事をしていると聞いてな。それならば私がパトロンになろうというのだ」
「モチカ、あなたはどう思う……?」
王子とリリアンナからそう言われて、モチカは考え込んだ。
「お申し出はありがたいのですが、ワーズの街を離れるのはちょっと……」
「何故だ」
「ここには作画資料も豊富ですし、刺激しあえる仲間もいます。ここ以上の創作環境はないと思っています。作品を気に入ってくれたのはありがたいのですが……」
モチカは恐縮しながら答えた。
「そうか、ならば資金を出す。この街で描け」
「あら。殿下はそれでよろしいのですか」
「かまわん。女を侍らず趣味はないし」
王子は不遜な態度でそう言った。そしてモチカは……それを聞き逃さなかった。
「え、女を……え……?」
「モチカ、このお二人は恋人同士だそうよ」
「ふん」
王子はまたラファエルを庇うように抱き寄せた。寄り添う二人の美青年の姿にモチカの眼は釘付けになる。
「え……今私の目の前で何が……王子? と、その臣下? 主従? え? なに、ツンデレ? ……やば尊い……」
モチカの中で目まぐるしく感情が湧き上がり、語彙力は著しく欠如した。
「それで私の支援を受ける気があるか?」
「え……あ! はい……作品をもっと増やしたいというのは私も同意見ですし」
こうしてモチカは王子の援助を受け、ワーズの街で創作に専念する事が決まった。
「うむ。この筋肉、たいした画力だ。期待している」
「筋肉、お好きなのですか」
「ああ、男はやはり筋肉だ」
「で、ではお隣の方も……その……?」
「ああ、細身に見えるがこれでも護衛隊長だ。……脱ぐとなかなか」
「ぶ、ぶひぃっ!!」
モチカの鼻からたらりと血が流れた。リリアンナに隠れるようにして息を潜めていたハルトはそれを見て泣きそうになった。
「あ、あの……お二人をスケッチしてもよろしいでしょうか」
「ん? ああ」
「そうだ、めろでぃたいむにはお絵かきサービスがありますのよ。殿下はメイドとツーショットしてもしょうがないからモチカに描いてもらえばよろしいわ」
モチカは早速スケッチブックを開いた。描いている間、王子はリリアンナに問いかける。
「そうだ、ここはめいどかふぇとかいうちゃらちゃらした店しかないのはどうなのだ。執事喫茶でもやれ」
「あら……王子に遠慮してそちらは手をつけていませんでしたのよ?」
「なんだそんな事か……とっとと店を開け。パフェもメニューに入れるんだぞ。でなければまたこの街に来た時に寄る所がない」
「まぁ……ではそうさせてもらいます」
ハルトはえ、ちょいちょいくるつもりなの!? と呆れながら聞いていた。
「出来ました!」
「ほう……今度きちんとした肖像をお前に頼みたいな」
王子は上機嫌でそれを受け取った。そして例の大型馬車に乗り込むと颯爽と王都へと帰っていった。
「やっと帰った!」
ハルトがほっと胸を撫で降ろしている横で、モチカは野望に萌え……いや燃えていた。
「リリアンナ様」
「あら何かしら」
「マチルダ先生の元を離れるのは寂しいですけど……私、頑張ります! この国の王子が応援してくれているんですもの。しかもあんな……ぐふふふふ」
「期待してますわ」
マチルダはスケッチブックを開いてガリガリとメモをとりはじめた。
「……インスピレーションが湧き上がってきます……私、次は長編シリーズを取りかかろうと思います」
「それって……その……」
「ええ、王子と護衛隊長の主従モノです!」
モチカはきらきらした目でリリアンナに長編BLシリーズの構想を話し出した。
「もう、帰ろう」
ハルトはらちが開かない、とそっとめろでぃたいむを後にした。
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