第13話 武具屋「武器っち」
エスカレーターを上り案内されたのはお店。
けれどそこに置いてある売り物はそこら辺のショップでは見たこともないものばかり。
つまり武具だった。
元がショッピングモールだけあって、遠目から見たら靴屋とかスポーツショップみたいな外観の店舗。
なのに近寄るとその品揃えはファンタジーな剣やら盾やらばかりで目まいがしそうになる。
その見た目もそうだけど、値段がやばかった。
「熊井君これ見てこれ! やっべぇよ! 一万二千DP……てことは百二十万円だって!」
「こ、こっちの禍々しい鎧は八百万円だよ……」
高級な宝石や時計のお店に入ってはしゃぐ子供みたいになっていた。
触って傷を付けちゃうと弁償しきれないのでおっかなびっくりだが、代わりにテンションはガンガン上がっている。
だって上手くすればこの値段の物が手に入るということだから。
それに言い換えればここは未知の博物館でもある。
刀身がルビーのように真紅の透明な金属でできている剣や、近付くだけでひんやりとする指輪など様々な神秘がここにはごろごろと置かれていて飽きない。
「ねぇ熊井君これすごいよ。こんなの着る人いるのかな?」
「さ、さぁ? でも本当にあったんだねビキニアーマーって」
ごくりとツバを飲む。
目の前にあるのはまさに男のロマンの象徴。
空想上だけだと思っていたビキニアーマーがそこにあったのだ。
肩当てとセットになっていて、隠れるのは肩と胸の部分のみ。しかもパンツ部分は金属ですらないただの布だ。
これでどうやって攻撃を防ぐつもりなのか。むしろただの服よりも防御力下がってるまであるぞ。
「これさ、これ着て戦闘でもしようものなら、ぽろりもあるよ! って展開も有り得そうじゃない?」
「あるかもね。いや普通に考えてあるよ」
熊井君もなんだかんだ男だ。
俺の言いたいことは分かってくれて、妄想に付き合ってくれる。
「もしパーティーメンバーに女性の戦士がいたらこれをプレゼントしてもおかしくないわけだよね?」
「おかしくないよ。むしろ自然だと思う。だって強い装備なんだもの」
「そうだよね。仲間のためを想って贈るんだもんね。つまりこれを着てもらうのは献身と言ってもいいはずだ」
「うん、メンバーを守るための行動の一つだよ。恥ずかしいよりも性能が大切だよね!」
「例えモンスターに粘液を掛けられようが舐められようがこの装備が体を守ってくれるはずだ! じゃないと売ってるはずがない!」
「そりゃそうだよ。こんなにどんと置いてあるんだから! 人気商品なんだよ!」
「よし、俺もいつか女戦士にこれをあげられる男に俺はなるぞ! えーそのお値段なんと三百八十万円! 誰が買うねーん!」
「僕らにはまだ早かったようだね……」
言った瞬間、俺と熊井君の後頭部に強い打撃がきた。
芯まで痺れるような一撃で鼻もつーんとしてきた。
マジで痛い。
「お前らいい加減にしろ!! それ以上何か言ったらマジでぶっ殺すぞ!!」
ダンジョンにいた時よりも本気そうな圧で白藤先輩に注意される。ちょっとだけ頬を赤らめていてその分、目が
やべぇ、興奮し過ぎて我を見失っていた。
「先輩たち最低です……」
雨宮さんから凍えそうな冷たい視線を向けられる。
調子に乗りすぎたようだ。てかまだ頭がぐわんぐわんして視界が回ってるんですけど、先輩手加減覚えて下さい。ダンジョン入る前に死んじゃったらどうするんですか!
「はしゃいでいるところ申し訳ないのですが、防具に関しては不可視になるので新堂様のお望みの結果にはならないかと」
「え、どういうことですか?」
「服の上からそのまま着られる場合はその通りになりますが、一度ボードに入れてボードでの操作をするだけで装備扱いとなってステータス上では着たことになっているようです。HPの頑丈さが増えるという感じでしょうか。普通に着た場合だと肌が露出している部分に攻撃を受けると防具に意味が無くなってしまうのでみなさんそちらの方法で装備されています」
「ということはあのビキニアーマーも見えなくすることができるっていうんですか!?」
「……左様です」
一瞬、間があったが咲さんの肯定の言葉にがっくりときてしまう。
最低の仕様じゃないか! ダンジョン作ったやつ分かってねぇよ!
その時、ぞくりと背中に視線を感じた。
「……おい、静かにしてろって言っただろうが。そんなに死にてぇのか?」
そこにはご立腹な白藤先輩が。
ゴゴゴゴゴ、と後ろに怒りのオーラが見えるかのようだった。
「も、もうこれのことは忘れます! すみません!」
平謝りして許してもらうしかない。
何度も頭を下げようやく溜飲を下げてもらった。
これ以上騒がれてはまずいと思ったのか咲さんに比較的値段が安いコーナーに案内される。
「とりあえずみなさん武器でいいでしょうか? 武器は身を護ることもできますし」
「あぁ熊井君と雨宮さんはすでに宝箱から出たものがあるので、防具の方がいいんじゃない?」
熊井君は棍棒、雨宮さんはナイフをそれぞれ持っていた。
あえてサブ武器を得るよりは防具をもらった方がお得だろう。
「ふんっ! 次はないからな? 馬鹿は放っておいて、俺はこれでいい」
先輩が選んだのは拳を保護するような皮のグローブ。
値札の100DPの隣にATK+3の表示があった。
あれ? この人の職業なんだっけ?
「杖とか鈍器じゃないんですね」
「余ったらもらってやる。が、俺はこれがいいんだ」
スキルとか関係無さ過ぎて我が道を行き過ぎでは?
と、頭の中では思うがそれを言い出せない。
しかし皮グローブをはめている姿はそれはそれでなぜか似合う。
昭和のドラマにこんな女子校生いたような気がするなぁ。
「あれ、っていうか適正武器じゃなかったら重くなるんじゃなかったんでしたっけ?」
「……持てるんだからお前の説がおかしいんだろうよ」
そういうこと?
いやでも実際に普通に持たれてるからなぁ。
たぶん今日これ以上失言したら俺はスリーアウトだろうし、あんまり突っ込めなかった。
「僕はじゃあ鎧かな」
手で叩いても衝撃を吸収する固い皮でできた皮鎧を熊井君が選ぶ。
一気にファンタジー感が増した。
ただ率直に言ってダサいし違和感だらけだ。エロさを除けばやっぱり不可視にできる方がメリットだらけだな。
そういや食堂に全身鎧の人とかがいたけど、あれはじゃあ単なるコスプレか。
「私は盗賊っぽく、この素早さが上がる指輪がいいかもです」
雨宮さんが手に取ったのは銀メッキのリング。
素早さか、どんどん斬りにいってくれるならいいけど逃げ足高めようとしてるんじゃ……あぁいや疑うのは良くないな。
四季さんに変なこと言われたのが頭に残ってるせいだ。
「となると俺はやっぱりこれになるかな。一応サモナーだし」
陳列されている木の杖を取る。
よく漫画とかにありそうな柄の部分がくるっと丸まっているやつだ。
MAG+3とある。たぶん魔法の力が上がるんだろうけど、でもサモナーに意味があるのか?
「咲さん、サモナーって魔法力が上がって意味あるんですか?」
「新堂様はサモナーでしたね。呼び出されるモンスターが強化されるという事例を報告頂いておりますので無駄にはなりません。ただ+3ぐらいだと気持ちというか誤差の範囲内だと思いますが」
それは仕方ない。でもきちんと効果があるなら問題なしだ。
それにゴブリン相手に肉弾戦よりも木で殴った方がリーチもあって強いだろうし。
素手とは違い、杖でもちゃんと武器があるというだけで頼もしくなった気分になれた。
まぁ魔法使い用の杖で殴って発想がどうかしてるけど。
それぞれを手にしてカウンターに行くと猫耳の女性がいた。
「え、嘘……マジ?」
「にゃはは~いらっしゃーい!」
朗らかな笑顔で出迎えてくれる。
「どもども。ウェポンズ『武器っち』へようこそ」
「それ武器武器で骨ボーンとか頭痛が痛いと同じやつじゃないですか?」
「にゃはは、よく言われるけど覚えやすさ第一ですにゃ~」
見た目は普通の女性だ。たぶん二十歳前後って感じでかなり若い。
咲さんとは違い距離感が近いというか女子大生のバイト店員のような気安さがあった。
近付いてよく見ると頭にはカチューシャがあって、どうやらコスプレのようだ。
こんな場所だから本当に獣人とかいるのかとびっくりしたって。
「コスプレ店員って秋葉以外で初めて見ました……」
うん、仰天しているのはいいけど秋葉原に行ってることバレちゃったね雨宮さん。
「お、お金取られないかな」
ぼそっと呟く熊井君の小さな言葉を店員さんは聞き逃さず、ピクピクと獣耳が動いた。
「そんなことはにゃーですから安心して下さいにゃ。これは私の趣味ですから」
「趣味かよ!」
「ルミナス製のパーティーグッズだけど、たまに耳が動く高性能なやつですにゃー」
動くとやけにリアルというか生々しくて微妙に可愛さよりも気持ち悪さの方が立つんですが。
意外とルミナスってそういうところ緩いんだね。
「それでそれで新米さんたちが咲さんにタカってお買い物ですか? 全部でで四万円ですけど咲さんそんなにお金があるならこっちにもカンパして欲しいですにゃー」
「いえこれは私の自費じゃなくて、レオンオーナーのご意思です。先程下で色々ありまして」
「あー、そういえば音が二階まで届いてましたねー。たまーに気が大きくなっちゃう人っているから困ったもんですにゃー」
腕を組んでしみじみと猫耳さんがこぼす。
「ご紹介が遅れました。彼女は
「みーちゃんとかみーさんって呼んで欲しいにゃ」
咲さんの紹介に合わせて手を上げ首を傾け可愛いポーズを取ってくる。
あざといです。
「未鑑定……。これ銅の宝箱から拾ったんですが、鑑定っていくらですか?」
雨宮さんがボードから短剣を取り出し、カウンターの上に置く。
「おおー、すでに持っているんですにゃー。木の宝箱は付加効果が付いているのはなかなか無いんだけど、確かに銅以上からは普通よりちょっと質が良い物が出るにゃ。鑑定料金は一回千円ですにゃ」
「地味にしますね」
彼女はさっと目を逸した。
「世の中は金にゃ。でもまぁ学生さんだしオーナー肝入っていうんなら初回だけ無料でもいいかな……。咲さん構いませんかにゃ?」
「それぐらいの裁量は構いませんよ。ここを任されているのはあなたですから」
「じゃあ遠慮なく。『鑑定』。あー、ATK3でMP+5も付いているにゃ。序盤だとMPは不足しがちだから良い物を拾ったんじゃないかにゃ。ん? どうしたにゃ?」
俺らの丸くなった目に気付いてみーさんが首を傾げる。
「いや鑑定ってたぶん魔法ですよね? 使って大丈夫なんですか? というか使えるんですか?」
散々、使うなと言われたやつだ。
あのメイドがやってくると思ったら怖い。
もうトラウマになりそうだった。
「あー、そういうことか。人を傷付けたりしない鑑定はここでなら例外にゃ。それにみーさんがここを任されているのって鑑定が使えるからにゃ」
「何気に探索者ですよ、彼女」
「にゃははー」
咲さんの指摘に照れ笑いをするみーさん。
え、マジ?
ただのコスプレ好きの女子大生かと思ってた。
「みーさんは別に最前線には興味無いし、パーティーメンバーもゆるーい感じなのでこっちでバイトしてるにゃ。ぶっちゃけこのスキルのおかげで時給めちゃ高くてウハウハにゃ」
「ただの店員なら誰でもできますが、『鑑定』持ちは能力給みたいなものでしょうか。ちなみに
「そうなんですか!? 毎回千円が無くなるなら助かります。ちなみにどれでしょうか?」
「そこまでは言えません。ごめんなさい。もし知りたかったら有料になります。ただけっこう人によって覚えるスキルもバラバラで雨宮さんがシーフでも絶対使えるようになるってわけじゃないんですけどね」
「そうですか……」
視線を落としがっくりと残念がる。
代わりにみーさんの口がすぼんで物言いたげに口を開いた。
「咲さんそれ営業妨害にゃ」
「あ、そうね。ごめんなさい」
「まぁ売り上げが落ちようが、みーさんには関係ないからいいけどねー。そろそろお会計しましょうかにゃ」
咲さんがスマホでさっと会計を済ませると俺たちはそれぞれを手に視線を合わせる。
現在のボードによるステータスはこの通り。
・新堂直安
職業:召喚師(サモナー)
レベル:2
HP:48(48)
MP:17(17)
装備:木の杖(MAG+3)
スキル:地属性召喚Lv1(コボルト)
・熊井健太郎
職業:守護騎士(ガーディアン)
レベル:2
HP:88(88)
MP: 7 (7)
装備:棍棒(ATK5)
革鎧(DEF6)
スキル:苦痛耐性Lv1 鈍器術Lv1(スマッシュ)
・雨宮雫
職業:盗賊(シーフ)
レベル:2
HP:61(61)
MP:17(17)
装備:良質なナイフ(ATKK3 MP+5)
スキル:闇魔法Lv1(目隠し)
・白藤琥珀
職業:僧侶(クレリック)
レベル:2
HP:59(59)
MP:17(17)
スキル:光魔法Lv1(回復)
装備:革のグローブ(ATK3)
ちなみに棍棒はお店の棚に同じのがあったので、それの数値にしている。
「ようし、じゃあ会計が終わったら一回行くぞ。異論は無ぇな?」
白藤先輩の言葉にみんなが頷いた。
チュートリアル突破後の初ダンジョンに自然と胸が高鳴る。
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