ダンジョン研究会!何でも願いが叶うという最奥を目指して今日もアタック中!
@pengin4gou
第1話 目覚めたそこは
「ん……」
目が覚めいきなり意識が覚醒した。
と言っても毎日寝て起きてを繰り返しているんだから動物なら誰でも一日一回は経験することだ。
ただし今回のは何だか目蓋が重く、いつも自分の部屋の柔らかいベッドの上で朝に目覚めるのと違い背中はごつごつしているし眠りの浅いような
このまま眠っていたくもあったが、やけに冷えてそれどころじゃなかった。
「痛てて……」
変な姿勢だったのか腰がちょっと痛む。
地面は石畳のようでひんやりとしていて、体の熱を奪っていたようで少し体がぶるっと震える。
一刻も早くそんな地面から離れたくてまだふらふらで混濁する意識の中、俺――
「ええと、何してたんだっけ……」
一秒ごとに思考はハッキリとしてくるが、まだ本調子ではなく気怠い頭で辺りを見回すと、ここはどうやら室内らしい。
床から壁までびっしりと石で覆われていた。そして灯りもないのになぜか明るい。
一番新しい記憶は学園を出て毎日往復している帰宅途中の道路を歩いているところだ。
そこでぷっつりと途絶えていた。
「それが何で俺はこんなところに? うわっ!?」
そこでようやく気が付いた。
周りに
「まさか死んで――いや生きているな」
俺以外に三人。男一人に女二人だ。
僅かに寝息が聞こえるし、体も上下している。ぎょっとして死体と勘違いしそうになってしまったが単に寝ているだけらしい。
顔は二人見覚えがあったが、残る一人の身元もおそらく俺と同じだろう。
だってここにいるみんな、俺が通う高校の制服を着ていたのだから。
「この人は確か
まだ地面に体を預けているメンバーの内、腰まで掛かる艷やかな黒髪の美少女のことは顔だけでなく名前も知っていた。
俺より一つ上の学年で、容姿端麗で成績もトップクラス、その上に家もお金持ち、よく学園でミスコンがあれば一位になるだろうって言われている人だ。
そんな彼女が今手を伸ばせば届きそうな位置で無防備に寝姿をさらけ出しているのに自然と生唾を飲んでしまう。
その柔肌の頬に触れようとする手を……もう片方の手でさっと抑えた。
――さすがに寝ている隙に触るとかゲス過ぎだろ!
欲望を
男は確か俺と同学年だ。同じクラスにもなったことがないから顔ぐらいしか知らないが、ガタイが良くややぽっちゃりしていているので柔道部とかラグビー部とかそのあたりかもしれない。
もう一人の女の子は覚えがないし、体格的にもやや小さいのでひょっとしたら一つ下の学年かな。これで年上だったらえらく童顔だ。
「う……ううん……」
眺めていると伏していた彼女たちに反応があった。
覚醒してすぐ俺と同じように辛そうに手を突いて上半身だけ起き上がってくる。
「何ここ……」
「あれぇ? まだ夢?」
「何なんですかぁ……?」
三者三様に、それでも共通しているのはやはりこの事態が分かっていないことだった。
寝ぼけ眼といった感じで半眼できょろきょろと見回している。
「あー、えっと、おはようございます? えーっと何を言えばいいんだろう?」
こういう時にどう切り出せば良いのか全く考えておらずちょっとパニクってしまう。
とりあえず、挨拶と自己紹介か?
「君は? 確か一組の……」
男が聞いてくれたので自己紹介がしやすくなった。
心の中でぐっとガッツポーズを取る。
「そう。俺は二年一組の
ざっと三人に目をやったがみんな首を横に振るだけだった。
まぁ予想通りっちゃ予想通りの展開だ。
「やっぱりか。とりあえず状況を整理したいし、自己紹介しないかい?」
俺の提案に斜め向かいの彼が先に頷いた。
「ええとそうだね。うん。僕は
大きいくせになぜか律儀に正座して座る熊井君は元からの体の大きさもあってなかなかにでかい。
名字の通り熊というのが似合っている。ただ物腰は柔らかくて、落とし物をしたら拾って届けてくれそうな森のクマさんだな。
彼が言い終え次に見たのは顔も知らない女の子。
「わ、私ですか……? ひょわわわわ。え、えっとその、一年の
周りが自分よりも年上ばかりということもあってか、あまり目を目を合わそうとしない子だった。
髪は肩に掛からないぐらいセミショートぐらいだが、どこか人見知りな印象を受けた。
「……あんだよ?」
最後に仏頂面で黙っている女子に全員の視線が向くと、彼女は苛立ちをあらわに睨んできた。
――あれぇ? 先輩だよね? お淑やかで有名な。その辺の不良少女じゃないよね!?
その言動があまりにも想像上の彼女と違って固まってしまう。
たまに取り巻きに囲まれているのを目撃したこともあったけれど、マジで別人と言っても過言じゃないぐらいの変わりようだった。
他の二人も彼女のことは知っていたようで俺と似たショックを受けたのか口をあんぐりと開けていた。
「し、白藤先輩ですよね?」
そうであって欲しいというのとそうであって欲しくないという二律背反した想いが入り混じった確認だった。
「知ってるなら聞くんじゃねぇよ! ぶっ殺すぞ!」
いきなり胸ぐらを掴まれ怒気を孕んだ視線で睨まれる。
息が掛かるぐらいめちゃくちゃ顔が近くなって二重の意味でドキリと胸を刺激してきた。
っていうか、誰!? いや白藤さんだろうけどさ! え、この人って素の性格はこんななの!? 俺の純情返してよ!
こんなの
「す、すみません」
と、心の中で色々突っ込んだ言葉は素直に言えるわけもなく、謝ってしまう。
彼女はとりあえずそれで落ち着いたのか俺への当たりは鳴りを潜めたものの「ふん!」とそっぽを向いて立ち上がった。
ほぼ初対面の相手にこの
それを皮切りに俺たちもズボンやスカートに付いた砂を払い除けつつ釣られて立つ。
ここは袋小路の部屋らしい。道は一本あって奥まで続いているがよく見えない。いかにも進みなさいと言わんばかりだ。
「ここどこなんでしょうか?」
「さぁ? それは俺も知りたいんだよね」
「す、すみません」
「いや別に怒ってるわけじゃないから大丈夫だよ?」
「は、はい」
そんなに強い口調でもなかったはずなのに雨宮さんに謝られた。
どうもコミュニケーションがやりづらい。
「こ、これって映画とかでよくあるやつかな? 殺し合いさせて逃げる僕らを面白がって撮るとか」
「あー、かもね。デスゲーム的なやつ? ってそれだとやばいね……」
主人公が機転が利くやつだとか実はめちゃくちゃ鍛えていました、とかならまだしも、それなら俺が生き残れる自信がない。
そもそもこんなところに拉致してきている時点で組織的犯罪が濃厚で個人で立ち向かえるものじゃない。
どうしたって明るい展望が見えなかった。
「あ、あれ? 私、こんなもの持ってたっけ?」
雨宮さんが制服のスカートポケットから半透明のトランプのカードのようなものを取り出していた。
「何それ? あれ? 俺も持ってる」
「僕もだ」
「……ちっ!」
スマホが入っているズボンのポケットをまさぐると同じ物が俺にもあった。
白藤先輩もあったようだ。勝手に入れられていたことにご不満の様子。ちなみにスマホに電波は届いていない。
「うわっ!」
引っ張るとそれは伸びた。
大体A5ぐらいだろうか、ざっくり国語とか数学の教科書と同じサイズになった。
そして文字や絵が浮かび上がる。
「何だろ……装備? スキル?
熊井君のぽつぽつとした独り言に俺の視線もそこを順々に通っていく。
俺のにはこう書かれてある。
職業:
レベル:1
HP:45
MP:10
装備:なし
スキル:なし
そして『スキルポイントを1割り振れます』と文字があった。
ゲームかよ! 最初の突っ込みはそれだ。それしかない。
他のメンバーも各々のカードを
「俺のには召喚師って書かれてあるんだけど、みんなは?」
「ぼ、僕は……」
「ひょわわわ。わ、私のは……」
職業:
レベル:1
HP:80
MP: 4
装備:なし
スキル:苦痛耐性Lv1
職業:
レベル:1
HP:55
MP: 8
装備:なし
スキル:なし
見せてもらうと騎士が熊井君。盗賊が雨宮さんだ。
二人とも俺と同じにスキルポイントの割り振りもあるそうだが、熊井君だけ俺らと違いすでにスキルがあった。
「……ずるい」
「え?」
「何でもないですぅ」
ちょっとだけ今雨宮さんから毒が吐かれた気がしたが気のせいかな。
「何で熊井君だけあるんだろう?」
「さぁ? 僕には分からないよ……なんかごめんね」
とりあえずスキルがあるということは良いことだと思うのに、なぜか頭を下げられてしまった。
そんな他人の目なんて気にする必要はないのに。
ただまぁどちらの職業も格好良い。俺の召喚師はどうかと思うが、二人とも雰囲気に合ってそうな感じがある。
で、残りの白藤先輩だが……。
「言いたくねぇ」
「いや意味不明で俺もよく分かってないですけど、情報共有はしとかないと」
「言いたくねぇって言ってんだろ!」
「せ、先輩、僕も教えて欲しいです」
「私も……」
熊井くんと雨宮さんもさすがにこの状況でこの気になるカードをそのままにしておくのは不安みたいで追随してくれる。
ここで新しい情報とかあるかもしれないしね。むしろ隠そうとするのは何かあるだろうと邪推すらしてしまうのは仕方ない。
白藤先輩は長い髪を鬱陶しそうに掻き上げてまた舌打ちすると、そのかいもあってか嫌そうに小さくぼそっと呟いた。
「え?」
よく聞き取れなかった。
「……だ」
「すみません、もう一度」
彼女は意を決したように大きく息を吸って告げる。
「
よほど恥ずかしいのか頬を赤く染め、照れる表情は不覚にも可愛いと思ってしまった。
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