第34話 ユミル視点

エレミヤが誘拐された。いい気味。私を虐めたりするからよ。

フォンティーヌが大げさに騒いだから無駄に近衛を動かす羽目になり、城内は慌しかった。

おかげで一足先に部屋に戻っていた私は少し寝不足。

「ねぇねぇ、知ってる?」

私はお茶会に呼んだお友達に声をかけるとみんな興味深そうに私を見る。

「なんですの?」

「エレミヤが昨夜、誘拐されたのよ」

カルヴァン様には口留めをされた。王妃が誘拐されたなんて外聞に悪いって言って。でも、良いよね。

女の子はおしゃべりな生き物だし。ここだけの話なんて女の子には意味がないものだもの。

私の言葉にお友達が息を飲む音が聞こえた。

目を丸くしてみんな驚いている。こういう反応は大好きだ。みんなが私に注目をしているのは気分が良い。

「妃殿下は大丈夫だったんですか?」

「さぁ。会ってないから知らないわ。でも陛下の話によると血まみれだったらしいわ」

またまた、お友達たちは息を飲み私の次の言葉を待っている。

「悪漢たちを斬り殺したんですって。おぞましいわよね。人を殺すなんて。よくも平気でできたわよね。私なら無理よ。エレミヤは見た目通り、とても野蛮な女なのね」

みんな私に共感してくれると思った。

でも、私が望んだ反応は返ってこなかった。

「とても勇ましい方なんですわね、王妃様って」

「テレイシア王国では男女関係なく、王族はみんな武芸を習い、実戦も経験すると以前父から聞いたことがありますわ」

「まぁ。姫君がそのような騎士の真似事をさせられるんですか?」

「王族なのだから守られるのは当然だけど、守られる側が無力だと護衛にも迷惑がかかるでしょう。最低限、自分の身は自分で守れるようにするんですって。それにあそこは女性にも門戸を大きく開いている場所ですし、妃殿下の姉君は女王として立派に国を治めておりますもの。女性の社会進出が望ましい国なのですわ」

みんな口々にエレミヤを褒める。

私は話について行けず、置いてきぼりをくらってしまった。それに気づくお友達は一人もいなかった。


◇◇◇


結局、お茶会はエレミヤを褒めるという謎の状況のまま終わった。

「何なのよ、何なのよ」

イライラからついクセで爪を噛みながら私は廊下をずんずん歩いて行った。

すると、ちょうど曲がり角のところで先ほどお茶会に参加していた令嬢の声が聞こえてきた。私は思わず足を止めて耳を澄ませる。

侍女が盗み聞き何てはしたないと言っていたけど無視だ。

っていうかあんたをクビにしてってカルヴァン様にお願いしたのにどうしてまだ私の侍女をやっているのよ。


「先ほどの番様の話、どう思います?」

「お父様は何も仰っていなかったわ。おそらくかん口令が敷かれている話かと」

「やっぱり。私もそう思いますわ。それをべらべら話すなんて。番様は何を考えていらっしゃるのかしら」

困ったわと頬に手を当てているのはシャーリー・デュエトロ伯爵令嬢。

他に三人、ルイ・コスター男爵令嬢にペルーズ・リリエンター伯爵令嬢とマリー・マルグリット伯爵令嬢がいる。

四人とも私が影で話を聞いているとは夢にも思っていないようで話を進める。

「何も考えてはいらっしゃらないでしょう。あの話だってシャーリー様が話の流れを変えなければ、きっと妃殿下のことを傷物のように貶める発言をしていたはずですわ」

そう言うのはルイだ。

彼女の言葉に三人とも顔を青ざめる。

「そうなれば、その場にいた私たちも巻き添えを食らっていたかもしれませんわね」

ぶるりとマリーは体を震わせる。両手で自分の体を抱きしめる様はか弱い貴族令嬢を連想させる。

女友達相手にかわい子ぶるなんて一番質が悪いんじゃない。私、今まで騙されていたわ。

「妃殿下に不敬を働いたポール様は処罰を受けましたし、それにホワイエルディ伯爵の悪事が露見しましたでしょう。あれに妃殿下が一枚噛んでいるのではないかというのがお父様の見解なの」

ペルーズの言葉にマリーが「実は」と声を更に落として話した。

「お父様が番様と距離を置いた方が良いと仰っていましたの」

「私もですわ」

「私も」

「私もよ」

マリーの言葉に残りの三人も追随する。それが私には信じられなかった。

「妃殿下を敵に回すべきではないわよね」とシャーリー。

「でも、あまり親しくならずに様子見をしばらく続けたほうがいいんじゃないかしら」とペルーズ。

「そうですわよね。公爵か妃殿下かどちらにつくかまだ答えを出すには早計すぎる気がします」とルイ。

「けれど番様と一緒にいると要らぬ火の粉を浴びるのも事実。徐々に番様と距離を取っておきましょう。その方が安全だわ」

最後にマリーが締めくくってこの話は終わった。四人が見えなくなると私は後ろにいる侍女を睨みつけた。

「ちょっと、あんたの主が悪く言われてんのよ!何でにも言い返さないのよ!」

「それは私の仕事ではありません。それに後宮の使用人の主は妃殿下であって番様ではありません」

そうだった。この女もエレミヤの手先だった。

「何よ、何よ、何よ!あんな奴らこっちから願い下げよ!頼まれたって友達なんかにならないわ。絶交よ、絶交。泣いて縋っても二度と友達認定してやんない!」

そう言って廊下の真ん中で叫ぶ私を近衛が何事かと見に来たけど、私は気にしなかった。そんな私に侍女がまた呆れるようなため息をついた。

エレミヤの手先だけあって無能だし、性格悪い、ブスだし。こんな侍女を私につけるなんて、本当にエレミヤは最低ね。絶対、いつか天罰が下るわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る